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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
二章 The girl who denies fate

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29話 悲鳴

 舞姫の銃から撃ち出された光弾は、手前にいた蟷螂型の腹部を捉えた。それに少し遅れて遠藤たちの光弾と銃弾も到着する。

――ギィィィィィイイイイイッ!

 金属を切断するときのような、不快な悲鳴。腹部を抉られ、そこに追撃をかけられた蟷螂型は叫んだ。その悲鳴は物理的な力を伴い、周囲の建物を破壊していく。

「うぁ……」

 一花が呻く。蟷螂型の悲鳴は遠く離れた位置にいた一花たちの所にも、鼓膜が破れそうになるほどの大音量で届いていた。武器を手放して、思わず耳を塞いでしまう。

 アスファルトが抉れ、電柱が倒れ、建物は倒壊する。瓦礫はさらに細かくなり、砂利ほどの大きさにまで砕かれた。

 やがて悲鳴が止むと、一花は他の皆が心配になった。後ろを振り返ると、七海と舞姫が不快そうに顔をしかめていた。

「何よ、今の」

 舞姫が前方を睨みつけながら言う。先ほどの悲鳴のせいでまだ耳に違和感が残っている。だが、その様子から二人は無事だとわかり、一花は安堵する。が、少し視線をずらすと、その顔が青ざめた。

「た、たいへんっ!」

 一花が顔を青くしながら後ろを指さして声を上げる。まだ耳の慣れていない二人は何事かと首を傾げるが、一花の鬼気迫る様子から悟り後ろを振り返った。

「冗談……よね?」

「そんな……」

 二人が振り返ると、そこには瓦礫の山があった。町の原形は保っておらず、そこには廃墟が広がっている。そして何より二人が驚いたのは、二人の背後の地面に血飛沫が広がっていたことだった。僅かにも、人の形は残っていなかった。

 前方を見れば、建物は全て粉末状にまで砕かれていた。

『おい、大丈夫か!?』

 愕然とする三人にクロエから通信が入る。その声に少し遅れて舞姫が我に返り、通信に応答する。

「私たちは大丈夫よ。……でも」

 舞姫が周りを見渡す。

「これは……想像以上に酷い状況ね」

『ああ、そうみたいだな……』

 町一つが廃墟となっていた。無論、警戒線よりも内側に入ってきていた隊員たちは全滅で、警戒線は既に穴だらけだ。壊滅状態だった。

『警戒線より外は大丈夫だ。俺も高城もどうにか生きている。他の隊員はダメみたいだが、遠藤はどうにか生きているみたいだ』

「そう」

 後方のの瓦礫の辺りをよく見ると、遠藤が倒れているのが見えた。近寄って確認してみると、耳から血が流れてしまってはいるが、どうにか命だけはあるようだった。

 それを報告すると、クロエは『そうか……』とだけ答えた。クロエは隣にいる高城に、生きているとだけ伝えた。

『だが、これでイーターを止められなくなった。一体でも倒し損ねれば、マズいことになる』

 前方では、蟷螂型がこちらを見据えていた。舞姫たちが最初に集中攻撃をした蟷螂型は、先ほどの悲鳴で力を

使い果たしたようで、地に伏していた。しかし、悲鳴に気付いた蟷螂型が集まってきたせいで、前方には九体の蟷螂型がいた。

『あの数を相手にするのはさすがに厳しい。出来れば、逃げて欲しいんだが……』

「わたしは逃げないよ!」

『だよな……。ああ、わかってる。その分、しっかりサポートさせてもらうぞ』

 クロエは自分に言い聞かせるように言った。その言葉に三人は無言で頷く。クロエは深呼吸をすると、口を開く。

『敵は蟷螂型が九体だ。ゲートを守るように、右側に五体、左側に四体いる。左側から倒した方が安全だろう。相手はこちらの様子を窺っているみたいだから、もう一度舞姫が狙撃をした後に一花が切り込んでくれ』

「「「了解!」」」

 返事をするとすぐに行動に移した。舞姫は再び銃を構えると、左側の手前にいる蟷螂型に向けて突き出す。そして、休む暇もなく引き金を引いた。

「――死になさいッ!」

 光弾が撃ち出される。一発、二発、三発、四発、五発。コンマ一秒の間に五発の光弾が撃ち出され、蟷螂型を襲う。光弾が炸裂し、その爆風で辺りの砂が巻き上げられる。それに合わせて一花が槍を突き出すように構えて走り出した。

 砂煙が晴れる。そこには蟷螂型が倒れているだろうと予想していた一花は、その光景を見て驚く。そのせいで僅かだが減速してしまう。

 蟷螂型は健在だった。巨大な鎌を前方でクロスさせた体勢で一花を睨み付けている。蟷螂型は先ほどの狙撃から舞姫を警戒していたらしく、巨大な鎌で光弾を防いだらしい。

 僅かに減速してしまった一花は、気合いを入れ直して加速する。それを迎え撃つように、手前にいた蟷螂型は鎌を大きく振り上げた。

 一花が槍を突き出すのと同時に、蟷螂型が鎌を振り下ろした。その巨体から放たれる鋭い一撃は、命を刈り取る致命の一撃。対する一花の攻撃は、それには僅かに劣る。

 鎌が一花を切り裂くかと思われたが、しかし、そうはならなかった。突然、蟷螂型の視界から一花の姿が消えたのだ。直後、蟷螂型の胴体を何かが貫く。その苦痛に蟷螂型が悲鳴を上げようとするが、その前に首が切り落とされた。

 一花は槍を構え直すと、次の蟷螂型に向かっていく。

「な、何があったの……?」

 七海がぽつりと呟いた。横にいる舞姫も同様に首を傾げているが、援護射撃は忘れてはいない。引き金を引きながらも、今の光景が何だったのか考えてしまう。

 一花が行ったのは、体を回転させて死角に入り、胴体に槍を突き入れるだけの単純な行動である。だが、その行動を支えるのはアクセルギアの加速能力を限界まで引き出した身体能力である。ギアの能力を引き出し切れてはいない二人には、まるで一花が瞬間移動したかのように見えただろう。

 その動きを端末に映し出された映像を見ながら、クロエも驚いていた。限界まで再生速度を遅くしても、一花の動きは掴めなかったからだ。

 一花が次々と蟷螂型を倒していく。その脅威に全ての警戒を向けた蟷螂型に舞姫が光弾を撃ち込んでいく。行動の威力は低めに、その分光弾の数を増やすことで蟷螂型の行動を阻害する。それを煩わしく思ったのか、二体の蟷螂型が舞姫の方に向かってきた。左右に分かれて挟み込もうとしている。

「羽虫が、鬱陶しいわねッ!」

 舞姫がその内の一体に向けて銃を乱射する。撃ち出された無数の光弾は、回避するだけの穴があった。そこに蟷螂型が滑り込む。

 だが、それは罠だった。あらゆるゲームで培ってきた経験を元に、舞姫は蟷螂型を誘導したのだ。無理に回避したせいで体勢を崩した蟷螂型に、舞姫が追撃をかける。撃ち出された光弾は六つ。回避する術を持たない蟷螂型は、足の全てを吹き飛ばされた。最後に光弾を撃ち込み、とどめを刺した。

 舞姫がもう一体の方を倒そうと視線を移動させると、蟷螂型はすぐ目の前にまで迫ってきていた。ちょうど、その巨大な鎌を振り下ろすところだった。

――避けられないッ!?

 舞姫が一瞬の間に巡らせた回避方法は、脳内でシミュレートしても全てが失敗に終わった。

 蟷螂型の鎌がゆっくりと迫る。人間は死の直前がスローモーションのように見えると聞いたことがあったが、こういうことかと舞姫は納得した。迫る死に舞姫は焦る。しかし、その時は訪れなかった。舞姫と蟷螂型の間に何かが割り込んできたのだ。

「はあああああッ!」

 それは七海だった。体を回転させながら大剣を振り回し、蟷螂型の鎌を受け流す。それだけで終わらず、強引に体をもう一回転させ、蟷螂型の鎌を根本から切り落とした。

 蟷螂型は鎌が切り落とされたことに苛立ったのか、もう一方の鎌を力任せに振り下ろした。七海は攻撃力を求めた装備の重さから回避することが出来ない。焦る七海に、高城の言葉が浮かぶ。

『大剣は振るだけじゃない! 盾としても使え!』

 七海は鎌を大剣で受け止める。蟷螂型は鎌を振り上げると、再度攻撃を仕掛ける。

『そのまま受け止めずに受け流せ! 体勢が崩れたところを攻撃しろ!』

 七海は大剣を斜めに構え、蟷螂型の攻撃を僅かに横方向へ受け流す。鎌はその威力を殺されずに受け流されたため、そのまま地面に突き刺さった。追撃をかけようとする七海だが、その時、蟷螂型と目が合ってしまう。

「うぁ……」

 それに怯んでしまい、体が固まってしまう。相手は鎌が地面に突き刺さって動けないはずなのに、七海は恐怖で動けなくなってしまう。蟷螂型の目は、ギラギラと殺意に満ちているように見えた。

 七海は立ち止まってしまう。また攻撃が来たら、それを迎え撃てばいい。弱気になってしまった七海に高城の声が響く。

『迎え撃つだけじゃ駄目だ! 自分から飛び込むくらいの勢いで行け! 恐れていては戦えないぞ!』

 七海はその声を聞いた途端、はっとなる。そして、すぐに行動に移した。

(今までみたいな失敗は、絶対にしない!)

 七海は大剣を振り上げ、蟷螂型に切りかかる。蟷螂型は体を揺らして脱出を試みるも、上手く行かない。

 もはや、狩る側と狩られる側の立場が逆転していた。七海は大剣を振り下ろし、蟷螂型の頭を切り落とした。息絶えた蟷螂型が崩れ落ちる。

『上出来だな』

 高城の声が聞こえた。どうやら、先ほどの声は通信だったらしい。後ろでは通信機を取られたクロエが何か言っていたが、聞き取れない。

 前方を見ると、既に一花が蟷螂型を倒し終えていた。残るはゲートと、その中にある強大な反応のみである。

 被害は大きい。だが、ここまでの流れに、この場にいる誰もが勝利を確信していた。

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