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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
二章 The girl who denies fate

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28話 抗戦

「いくよ!」

 一花の声に七海と舞姫は頷く。三人は武器を構えると、町の方へ走り出す。予定通り、一花が先を行く。

 町の中は騒かがしかった。かつて無い数のイーターは、この町に留まるには数が多い。そのため、ゲートから現れたイーターは町の外へ向かっていく。

「不味いわ、町の外に逃げてしまう」

「それって大変なんじゃ……」

 舞姫の言葉に、七海が顔を蒼くした。町の外に逃げられてしまったら、全てを追いかけ、見つけ出すのは難しい。一体でも逃してしまえば、それだけで人類は壊滅的な打撃を受けることになるだろう。ギアを持つ者がいない場所では、犬型の一体ですら倒すことは出来ない。

『三人とも、聞こえるか?』

「クロエ!」

 そんな中で聞こえた声に、一花が嬉しそうに声を上げた。

『とりあえず状況を説明するぞ。正直、かなり厳しい状況なんだが』

「それは分かっているわ。早く情報をお願い」

『ああ。数はさっき説明したとおりだが、ゲートの奥にまだ反応がある。たぶん、蟷螂型よりも格上だ』

 蟷螂型よりも格上。その言葉が三人にのし掛かる。特に七海は、蜘蛛型と同格である蟷螂型よりも格上、ということに怯えてしまう。

「それで、私たちはどうすればいいの?」

『予定通り陣形を組んでくれ。ただ、敵の数が多いからな。一花は孤立しないように二人との距離に気をつけてくれ』

「うん、わかった!」

『後は、異変調査部隊の方からも援軍がくる。イーターが外に逃げないように、足止めをしてくれるらしい』

「えっ? でも、現代兵器じゃ通用しないって……」

『ああ、そうだ。だから、足止めだ』

 クロエの言葉に三人は黙ってしまう。異変調査部隊の隊員たちは、自分の命を捨ててまで時間を稼ごうとしているのだ。戦う力が無いというのに、身を挺して守ろうとしている。己の職務を果たすべく、覚悟を決めたのだった。

「……うん、わかった」

 最初に口を開いたのは一花だった。その言葉につられるように、七海と舞姫も頷いた。

『死ぬまで戦う必要はないからな。ヤバいと思ったらすぐに逃げてもらって構わない。……頼んだぞ』

「「「了解!」」」

 三人はゲートに向かって走り出す。

『前方から犬型が二十体、鳥型が十体。もうじき視界に入るぞ!』

 一花は無言で頷くと、槍を構えた。数秒後、イーターを視認する。

「そりゃあああああ!」

 一花が加速する。瞬く間にイーターたちの中心に現れると、槍を大きく円を描くように振り回した。犬型は呆気なく切り捨てられる。

『は、早い……!』

 一花のあまりの強さに、クロエは無意識に言葉をこぼした。タブレット型端末に移る一花の動きは、脳処理速度強化の効果もある首輪をしているクロエでも目で追うことは出来なかった。それは七海と舞姫も同様だった。

「あんなに速く動けないわよ、私は」

「私も、ちょっとムリかな……」

 二人はそんな一花の様子を眺めていたが、はっと我に返り戦闘に戻る。

「これを、撃てばいいのね」

 舞姫が銃を取り出す。舞姫はライフル型の銃を二つ取り出すと、前に突き出すように構えた。その目に好戦的な光が宿る。

「いくわよ……ッ!」

 空を飛ぶ鳥型に意識を集中させ、右手に持った銃の引き金を引く。その着弾を見届ける前に左手に持った銃の引き金を引いた。そして右。左。右。左。交互に引き金を引いていく。

 銃から撃ち出された全ての光弾が鳥型を捉える。計十発の光弾は鳥型を殲滅した。

「大したこと無いわね」

 舞姫は銃をくるりと回してポーズを決めながら言う。横では七海がジト目でそれを眺めていた。

(ゲームじゃないんだから……)

 心の中でツッコミを入れ、七海は再び意識を戦いに向ける。

『不味い、敵が多すぎて町の外に逃げられそうだ。ゲートよりも先に、犬型と鳥型をなんとかしてくれ』

「わかった!」

 一花はくるりと方向転換すると、町の外に逃げそうになっているイーターを倒しにいく。七海と舞姫はその速度に追いつけず、置いて行かれてしまった。

 しかし、クロエはそれを咎めない。陣形が崩れてしまうのは厳しいが、今の一花の実力ならば孤立しても問題が無さそうだと判断したからだ。それに、今は一刻も早くイーターを倒さなければならない。

『七海と舞姫は一花と反対方向に向かってくれ。先ずは包囲網を突破されないようにするのが先決だ』

「分かったわ。行くわよ?」

「う、うん」

 七海は頷くが、その表情は頼りない。一花を守らなければ、という決意で参戦したはずだが、当の一花はギアを上手く扱っている。これでは、助ける以前に自分が足手まといになってしまう。

 だが、今は悩んでいる時間ではない。それを理解しているから、七海は立ち止まらなかった。

 町の包囲網に沿って走る。クロエの言葉に従って片っ端からイーターを倒していく。遠くの敵は舞姫が銃で狙撃し、近くの敵は七海が上手く対処する。その戦い方には安定感があった。

 スムーズに戦闘が進んでいるおかげで、異変調査部隊の隊員に被害は及んでいなかった。ギリギリなところもあったが、それでもけが人は出ていない。

 七海はそのとき、自分の鼓動がドキドキと強くなっていることに気がつく。

(私も、頑張れば戦えるんだ)

 そう心の中で呟くと、七海はすっきりとした表情になった。陣形のおかげか、今までとは違い危なげのない戦いに、自信を持つことが出来たのだ。

「せりゃあああああッ!」

 大剣を振り回し、イーターを斬りつけた。そ今の一体で最後らしく、ようやく犬型と鳥型を倒し終えた。反対側から回ってきた一花と合流する。

『よし、順調だな』

 クロエが頷く。幸いだったのは、イーターが一カ所に集まっていないことだった。数が多ければ圧倒されてしまうが、ばらけた状態ならば戦いやすい。ちなみに、一花は犬型を約百七十体、鳥形を約八十体倒している。驚異的な数値だった。

「そういえば、蟷螂型がいないね」

 一花が辺りをきょろきょろと見回しながら言う。

『それなんだが、蟷螂型だけはゲートの近くにいるんだ。移動する気も無いらしいから、十体を同時に相手することになる』

「十体を同時……」

 七海は呟く。その声は少し震えているが、先ほどの戦いで自信がついたのか、必要以上に怯えてはいない。

「なら、初撃は私が行くわ。動かないのなら、距離をとって狙撃でダメージを稼ぐのが安全よ」

『そうだな。舞姫の攻撃の後、一花が蟷螂型を迎え撃つ。七海は舞姫を守りつつ、必要なら一花をサポートしてくれ』

「「「了解!」」」

 三人は頷くと、武器を構えてゲートの方に向かっていく。その間にも、クロエのレクチャーが入る。

『何度も言うようだが、蟷螂型は動きが速い。見失わないように気をつけてくれ』

 クロエの話を聞きながら進んでいく。そして蟷螂型が視界に映った。舞姫は二人に確認を取ると、銃を構えた。

『あ、少し待ってくれ。遠藤が合流する』

「えっ? でも、遠藤さんはギア持ってないよね?」

『ヒュドラ参型を持って行くから大丈夫だ』

「なるほど。了解」

 少しして、遠藤が現れた。遠藤の周囲には、彼女を護られるように五人の隊員か陣形を組んでいた。

 隊員の装備は迷彩服に機関銃と、軽装である。これは高城の判断で、たとえ防具を持っていってもイーターが相手では無駄だろうとの判断からだ。機関銃を持たせたのは気休め程度にでもなれば、という理由だ。武器を持つのと持たないのとでは、士気も大きく違ってくるだろう。

 彼ら五人の隊員には、遠藤の護衛が任されている。要するに『命を捨ててでも遠藤を護れ』という命令なのだが、選ばれた五人は優秀な者を選び出しているため、その作戦の必要性を理解しているために反論は無かった。高城から敬礼をされたとき、彼らはむしろ、任命されたことに喜びさえ感じていた。自分はそれだけ信頼されているのだ、と。

 その中心にいる遠藤は、ヒュドラ参型を手にしている。が、大柄な高城に合わせて作られているヒュドラ参型は、遠藤が扱うには大きすぎるようで、構えが少し不格好になっていた。

 遠藤はそのまま一花たちに歩み寄ると、敬礼をした。一花と七海が敬礼を返し、舞姫は頷くことで答えた。

 遠藤の表情は、高城といるときとは違い、キリリと引き締まっていた。高城が関わらない範囲においては、遠藤は優秀な人材だった。

「作戦は移動中にクロエから聞いています。私達は装備が遠距離の装備なので、バーストギアの適応者である舞姫さんと共に後方から援護射撃を行います」

「うん、わかった」

 一花が頷いた。そして、くるりと体を回転させて蟷螂型の方に向き直る。その表情は真剣そのものだ。

「それじゃあ――いくよ!」

 一花の合図と同時に、いくつもの銃声が重なって響いた。


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