表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
二章 The girl who denies fate

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/99

27話 危機

 会議を終え、テントの外に出た。波が起こるであろう町は、まだ静寂に包まれていた。

「……そろそろか」

 クロエが時計を確認し、呟いた。

 今回の波は今までと違って陣形を組むため、これが上手くいくか否かで今後の波の対策も変わってくるだろう。

 本来ならば、軍人ではない三人に陣形を組め、というのは早々できるものではない。今までは一花と七海の意志疎通ができていたからどうにかなっていたが、ここに舞姫が加わるとそのバランスは崩れてしまう。戦力は増加するが、連携の弱さがそのまま命の危機につながる。

 故に、クロエは今回の波を成功させなければならない。陣形を組むことに失敗すれば、一花たちは陣形に対して苦手意識を持ってしまうかもしれない。そうなれば、今後の連携は難しくなる。

 そこまで考えて、クロエは自分が汗でびっしょりと濡れていることに気が付いた。おそらく、自分は酷い顔をしているのだろう。そう思って、クロエは苦笑いする。

「あと十分くらいで波が始まる。三人とも、変身をしておいてくれ」

 クロエの言葉に三人は頷く。そして、ギアを高く掲げた。

「アクセルギア、インストレーション!」

「ブレイクギア、インストレーション!」

「バーストギア、インストレーション!」

 三人の声が辺りに響きわたる。ギアから現れた漆黒の装甲が、三人に装着されていく。そして、一花には赤、七海には青、舞姫には黄の光の線が装甲の上をを走った。

 装着が完了すると、一花がポーズを取って決める。釣られて七海がポーズを取るが、はっとなってすぐに体勢を戻した。その顔は赤くなっていた。舞姫は一花の様子を微笑ましそうに眺めていたが、すぐに表情を戻す。

「本当に、遠慮無く撃って良いのね?」

 舞姫がクロエに尋ねる。

「ああ、ギアの攻撃は狙った相手にしか効かないからな。建物に当たっても大丈夫だから、思いっきり撃ちまくってもらって構わない」

「そう。わかったわ」

 舞姫が納得する。初戦闘のせいか、どこか不安そうな表情を浮かべている。

 その横では、七海が不思議そうに首を傾げていた。

「そういえばさ、クロエ」

「ん、なんだ?」

「なんでギアの攻撃はイーターにしか効かないの?」

 七海の質問を聞いたクロエがあっと声を漏らす。

「あ、その辺りの説明はまだだったか。そこに関しては、俺も詳しいことは分かっていないんだ」

「そうなの?」

「ああ。その辺りの仕組みについてはギアを開発した連中に聞かないと分からない。俺は高城と一緒に戦闘データを取っていたから、ギアの詳しい内容までは知らないんだ」

「そっか」

「まあ、敵を倒すイメージがどうのとは言ってたから、今はそれだけ考えてくれればいい」

「なるほど。うん、ありがと」

 七海はとりあえずは納得したらしく、頷いた。そんな会話をしている内に、波の時刻がやってくる。

「――来るぞ!」

 クロエの声と同時に町全体が大きく揺れる。かなり強い地震だったらしく、見える範囲だけでも幾つか家が倒壊していた。倒壊までいかずとも、半壊している建物も多い。

 そして、町の一点がぐにゃりと歪む。渦を巻くように空間が歪んでいくと、そこにゲートが現れた。中からイーターが大量に現れる。そこで、クロエは異変に気付いた。

「な、なんて数だ……」

 クロエが呆然と呟く。現在いる位置からだと見えるのは空を飛んでいる鳥型だけだが、その数だけでも百に届いていた。慌ててタブレットが多端末を操作すると、敵の数を数える。

「犬型二百体、鳥型百体、蟷螂型が十体……だと?」

 予想の十倍近くの数だった。これだけの数のイーターがいれば、世界を滅ぼすのも容易いくらいだ。ギアが無い状態ならば、抵抗する間もないだろう。

 クロエの表情が絶望に彩られる。その表情からどれほどの危機が迫っているのか、三人は察する。しかし、三人の想像している状態よりも遥かにに辛い状態だった。

「まだ行くな、少し待ってろ!」

 クロエは三人にそう告げると、高城のいるテントの中に駆け込んでいく。急に駆け込んできたクロエに高城は首を傾げるが、その表情を見て何が起きたのかを察する。

「敵の戦力の規模が、やばいことになってる!」

「やはり、こちらの戦力に合わせていたか……」

 高城が深刻そうな表情を浮かべる。その額を汗が伝う。未来からギアを持ってきたとしても、それを上回る戦力を敵が持っていたら。未来ではそんな危惧されていたが、ここまでとは考えていなかった。

「……数はどうなんだ?」

「犬型二百体、鳥型百体、蟷螂型十体だ」

「馬鹿な! そこまで数が多いと、今の戦力ではどうにもならないじゃないか!」

 高城は自分の想像を遙かに上回る敵の規模に、思わず声を荒げる。

「完璧な陣形を組んだとしても、今の戦力ではその半分にも勝てない。最悪、逃げることも考える必要があるな」

「逃げる、だと……?」

 高城は絶句する。勝てない、という事実にではなく、クロエが逃げると言ったからだ。

「逃げて、どうするんだ! まだ、まだどうにかなるかもしれないだろう!」

 高城は怒鳴るように叫んだ。再びイーターに屈し、逃げ回る日々が始まるなどとは考えたくなかった。だが、クロエは高城に対し、事実を告げる。

「いや、無理だ。犬型や鳥型はともかく、蟷螂型はあの数となるとどうしようもない」

「くっ……」

 高城が悔しそうに唸る。血が出そうなほど握られた拳は、その無念さを物語っていた。

「……逃げて、その後はどうする?」

「また、隠れて研究をするだろうな。幸いにも、まだ被害は少ない。今から動けば優秀な研究者が集められるはずだ」

「……そうか」

 高城は悔しそうに呟いた。己の無力さを嘆く。そして、決意する。

「分かった、出来る限り優秀な人材を集めよう。今から、撤退を始める」

「だめだよ!」

 高城の声を遮るように、不意に一花の声が聞こえた。いつの間に入ったのか、テントの中には一花と七海、舞姫の三人がいた。

「話は聞いていたんだろう? なら、無理なことが分

かるはずだ」

「できるよ! わたしたちなら勝てるから、戦わせて!」

 一花が力強く宣言する。不可能としか言いようがない状況だが、何故か、一花の言葉には説得力があった。しかし、クロエは首を横に振る。

「駄目だ、それだけは認められない。一花、お前は確かに強い。だが、いくら強くてもあの数は無理だ」

 クロエは一花が戦わないように説得する。一花がもし戦って、そして死んでしまったならば、クロエは一生後悔するだろう。あのとき、何故止められなかったのかと。

「まだ、機会はある。これで逃げたって終わりじゃないんだ。機を窺って、また戦えばいい」

「それじゃあだめだよ!」

 一花が声を上げる。

「ヒーローは、逃げたらだめなんだよ! わたしは、逃げたくない!」

 一花の本心は、ヒーローとして戦いたい、皆を守りたい、というところにある。逃げてしまえば、大勢が死ぬことになるだろう。それを理解しているからこそ、一花は逃げようとはしない。

「だから、わたしは戦うよ!」

 一花が言う。その目に揺らぎは無く、強い意志が宿る。

「わ、私も戦う!」

 七海が言う。その表情は不安と恐怖に彩られている。しかし、一花を一人にしてはいけない。そんな気持ちから、七海は大剣を手に取る。

「私も行くわ」

 舞姫が言う。舞姫は既に、一花のことを大切に思ってしまった。今更見捨てることなど出来ず、銃を構える。

 そんな三人を見て、クロエは辛そうに顔を歪めた。

「頼む、戦わないでくれ。今戦えば、必ず誰かが死ぬことになる」

「でも、後悔はしたくない」

 舞姫がクロエの目を見つめる。

「私は、確かめたいの。これを逃したら、私は二度と、人と関われないかもしれない」

「そんなこと、今じゃなくても良いだろ! 命の方が大切だ!」

「命より大切なものも、あるのよ」

 舞姫の意志は変わりそうになかった。クロエは七海に助けを求める。

「七海、二人を止めてくれ! このままだと誰かが死ぬ!」

「それは、無理かな。私が止めたところで二人が止まりそうにはないし。なら、私は一緒に戦いたい。一花を一人になんて出来ないからね」

「くそっ! なんで、なんで止めてくれないんだよ……!」

 クロエが床を叩く。その目から雫がこぼれ落ちた。そんなクロエに、一花が歩み寄る。

「ごめんね、クロエ。でも、だいじょうぶだから」

 そう言うと、一花はテントの外へ出て行ってしまった。七海と舞姫もそれに続く。

「なんで、そこまでして戦うんだ……」

 クロエは悔しそうに呟く。何故、死ぬ危険を冒してまで戦うのか。何故、自分は三人を止められなかったのか。自問自答。

「クロエッ!」

 テントに取り残されたクロエを、高城が一喝する。

「あの子たちが戦おうとしているのに、お前は何故そこで泣いているんだ! 今やるべき事は何か、分かっているはずだ!」

「俺の、やるべき事……」

 三人の意志は変えられない。ならば、何をやるべきか。

「三人が死なないように、通信でサポートをする……!」

 ぽつり。小さな声で呟いた。そして、はっと顔を上げる。そこには満足そうに頷く高城の姿があった。

「そうだ、それがお前のやるべき事だ!」

「ああ、わかった!」

 そう言うと、クロエはテントを飛び出していった。高城はそれを見送ると、無線機を手に取る。

「怜奈、聞こえるか?」

『聞こえています、高城隊長。何でしょうか?』

 仕事モードに入っているらしく、遠藤からの返事は敬語だ。

「全ての隊員を、あの子たちの援軍として出撃させろ。非常事態だ」

『……分かりました』

 僅かな言葉から、そして目の前で起きている異変から状況を察し、最小限のやり取りで会話を済ませる。

 遠藤は無線を切ると、深呼吸をした。これから、大きな事が始まるのだろう。ギアを持たない遠藤は足手まといでしかない。それは他の隊員も同じだろう。だというのに全員を出撃させるというのは、一花たちを守るための捨て駒にしかならない。高城がそれを意図していることは、遠藤にも分かった。

 そして、異変調査部隊全体に命令が届く。

『総員、戦闘準備。これより、異変掃討作戦を決行する』

 そして、戦いが始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ