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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
二章 The girl who denies fate

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26話 陣形

 翌日。一花と七海は高城の休むテントを訪れていた。その場には他に、クロエと遠藤もいる。

 高城は足を包帯で巻いてはいるが、元気そうだった。二人がやってきたときも笑顔で出迎え、特に七海を心配させまいといった様子だった。無理していることが分かるからこそ、七海は余計に辛かったが、今は波の前であるためその思考を振り払った。

 高城は皆を一瞥してから頷く。

「これで、揃ったようだな」

「いや、まだだぞ?」

「……ん?」

 会議を始めようと真剣な表情をした高城だったが、クロエの言葉にそれが崩れる。高城は数を数え、記憶の奥の方まで探るが、しかし、答えは出ない。訝しそうにクロエのほうに視線をやると、クロエは「あっ!」と声を漏らす。

「そういえば、まだ高城には言ってなかったか。実は……」

「――三人目の適応者を見つけたのか?」

「……ああ、そうだ」

「やっぱりな……」

 高城は難しい表情をする。高城としてはこれ以上、民間人が戦うというのは避けたかった。民間人を守ってこその戦士だと考えている高城は、可能ならば自分だけで解決することも厭わない。だが、高城も戦力の不足が深刻なレベルであると分かっているため、反論はしない。その表情には悔しさが滲む。

「それで、そいつは何歳なんだ?」

「……十四歳だ」

「十四歳、か。まだまだ子どもだろうに……」

 高城は呟く。せめて自分にギアが装備できれば、戦いの辛さを肩代わりすることもできるのに。そんな感情が抑えきれず、言葉となって溢れた。

「中学生二人に、小学生が一人か。俺は何のために戦ってるんだ……」

 高城が己の無力さを嘆く。そんな弱々しい高城を見ていられなくなったのか、遠藤が高城を抱き締めて励ます。

 そんな光景を眺めながら、クロエと七海は呆れ顔でため息を吐いた。だが、一花はそれ以外のことに気を取られていた。

「小学生……?」

 一花は首を傾げる。自分は中学生だし、同じクラスに通っている七海もそれは同様だ。となれば、舞姫が小学生なのかもしれないが、クロエが先ほど舞姫は十四歳だと言っていた。答えが出ず、腕を組んで唸る。小学生というのは高城の勘違いであるため、答えはそもそも無いのだが。

 二回目の波の後に、一花は自分が中学生だと高城に言ったのだが、高城は信じていないようだった。

 そんな中、一人の少女がテント内に入ってきた。舞姫である。

「来たわよ」

 舞姫がテント内を見回すと、そこには微妙な空間が広がっていた。やけに落ち込んでいる大男と、それを抱きしめて慰めている軍服を着た女性。それをジト目で眺めている七海とクロエ。それに難しそうな顔をしている一花がいた。

「……」

 舞姫の言葉には誰も気付いていなかった。なぜなら、舞姫の声が小さすぎたからだ。

 舞姫はその空間に足を踏み入れることができなかった。そもそも、舞姫は人と関わることを避けている。友達も作っていないため、そのコミュ力はかなり低い。そこに人見知りも合わさり、大きな声を出すことができなかったのだ。

 このテントまで来るのもやっとだった。見知らぬ屈強な男たちが歩いている中を堂々と歩けるほどの勇気もなく、チラチラと辺りを気にしながら歩いてきたのだ。

 途中で不審に思った隊員に声をかけられたときは、この世の終わりが訪れたような、絶望に彩られた表情をしていた。声をかけた隊員は舞姫から発せられた言葉をかき集めて、ようやく高城の所へ行くということを理解した。隊員は舞姫の怯えきった様子に罪悪感を抱き、ここまで案内してくれたのである。その隊員は今、テントの入り口の隙間から舞姫の様子を見守っている。

 難しい表情をしたまま、舞姫も固まる。本人は気付いていないのだが、しっかりと微妙な空間に混ざっていた。舞姫とそれをこっそりと見守る隊員も含めて、微妙な空間はさらに微妙になったのである。

「……ん?」

 一花が舞姫の存在に気付く。舞姫がようやく気付いてもらえたと思い安心するが、一花は首を傾げて再び唸る。

「やっぱり舞姫ちゃんは小学生じゃない……うーん」

 一花がそっぽを向いてしまった。舞姫は挨拶をしようと挙げた手を寂しそうに見つめ、ゆっくりと手を下げる。

 再びの膠着状態に、舞姫は痺れを切らす。深呼吸をすると、覚悟を決めて口を開く。

「来たわよ!」

 その声でようやく舞姫が来たことに気付き、皆が視線を舞姫に向ける。一斉に向けられた視線に怯みつつ、それを表に出さないように平常を装って歩み寄った。

「舞姫ちゃん、ちこくだよ?」

「貴女は気付いてたでしょ!」

「ふぇ? そうだっけ……?」

 一花は考え事に気を取られ、全く覚えていなかった。

 その会話をきっかけに舞姫が輪に入って会話を始めたため、安心した隊員はテントを離れ、自分の持ち場に戻った。

 少しの会話のあと、高城が仕切り直す。

「これで、揃ったようだな」

 先ほどと全く同じ台詞を高城が言う。どうやら言いたかったらしい。

「今回の波について、情報を整理する。クロエ」

「ああ」

 クロエは頷くと、テントの壁際に歩いていく。手頃な木箱に腰掛けると、クロエはタブレット端末を取り出し、そこに新たに部品を付け足す。すると、巨大なモニターが展開された。

「今回の波は犬型、鳥形、蟷螂型の三種類が現れる。ただ、前回の波から考えると、この通りになるとは限らない」

 そう言うと、クロエがタブレット端末を操作する。

「前回の波では蜘蛛型がいたが、これはイレギュラーな事態なんだ。未来では、二回目の波では犬型と鳥形だけだったからな」

 クロエが深刻そうな表情で言う。それを見た高城が質問をする。

「蜘蛛型が出たのは、本来は四回目の波だったはずだよな?」

「ああ、そうだ」

「なら、相手はこっちに合わせるだけの余裕があるって事か?」

「あまり考えたくはないが……そうだろうな」

「そうか……」

 高城は難しい表情をする。

「相手が俺達に合わせてきてるとして、何の目的があるんだ?」

「さあな、そこまでは俺じゃ分からん。ただ、一つだけ言えるのは、俺たちは敵の手のひらの上にいるって事だ」

 クロエと高城が難しそうな表情で唸る。一花も一緒になって唸っているが、単に話が難しすぎてついていけていないだけである。七海と舞姫と遠藤の三人は理解しているらしく、なにやら考え込んでいた。

 少しの沈黙のあと、七海が質問をする。

「ねえ、クロエ」

「ん、なんだ?」

「今回の波は陣形を組むって言ってたけど、それはどんな陣形になるの?」

「そうだな……そろそろその話に移るか」

 クロエは頷くと、タブレット端末を操作する。

「今回からは舞姫が加わった。舞姫のバーストギアは遠距離からの攻撃を得意としているから、前衛と後衛で分けることにする」

 クロエがタブレット端末を操作すると、モニターに一花と七海と舞姫の姿が映し出された。三人はギアを装着しており、その周囲にはイーターが大量にいる。

「これは模擬戦闘計算装置バトルシミュレータだ。様々な状況の中で、どの戦い方が最も良いかを計算してくれるんだ」

 クロエがスタートを押すと、画面が動き出す。一花が遊撃に回り、舞姫が援護射撃、七海は舞姫を守るように戦っている。その陣形を取ることで、安定して敵を倒していた。

 映像は細部まで精密に再現されており、それを見た七海が感嘆のため息を吐いた。

「はー、凄いね」

「まあ、未来の技術だからな」

 クロエが誇らしそうに言う。高城も自分たちの技術が凄いと言われて嬉しそうだった。

「これって、いつの間に私たちのを作ったの?」

 七海が画面の中に映る自分の姿を指さしながら言う。

「ああ、それなら、ギアを最初に起動させたときに体のデータを読み込んだんだ。良くできてるだろ?」

 クロエが自慢げに言い、高城も嬉しそうに頬を緩ませる。一花と七海と舞姫の三人も感心しているようだった。

 そんな中、遠藤だけが微妙な表情を浮かべていた。それを疑問に思った高城が、どうしたのかと尋ねる。

「これって、読み込んだ体は好きなように動かせるの?」

「まあ、出来なくはないぞ」

「成る程ね……」

 遠藤が頷く。その額には青筋が浮かんでいる。

「ってことは、アレな目的で使うこともできるって事よね……?」

 その声には殺気がこもっていた。七海と舞姫はその意味を理解して顔を赤くするが、一花は理解できずに首を傾げていた。遠藤の言葉を理解したクロエと高城ははっとなり、慌てて弁明を始める。

「ち、違うんだ、怜奈! これはあくまで最善な戦闘方法を導き出すための装置で、そういう使い方はできなくはないが、そもそもしない!」

「これ、結構リアルにできてるわね。ってことは、ギアの装甲は壊れたり外れたりするのかしら?」

「さ、流石にそんなことあるわけないだろう! なあ、クロエ?」

「……いや、残念だが、確かに可能だ。戦闘におけるリアリティを高めるために、装甲の着脱や損壊、それに体の内外を完全に再現してある」

「なっ、内外……」

 高城が驚き、そして頭を抱える。アレな用途で使える、ということが完全に判明してしまったからだ。

「成る程ね。剛毅、弁明はある?」

「本当に誤解なんだ怜奈。俺を信じてくれないのか?」

 高城が力強く問いかける。その力強い目を見て、怜奈が頬を赤く染めてたじろいだ。高城は怜奈がこれに弱いと知って問いかけたのだった。

「そ、そうね。私は剛毅を信じてるから、こんなこと気にしてないわ」

「ありがとう、怜奈」

 怜奈があっさりと高城を許した。そんな様子を見て、クロエは呆れ顔で心の中で呟く。

(なにやってんだコイツら……)

 訳の分からないやりとりのせいで時間が無駄になってしまったが、まだ余裕はある。クロエはこういったやりとりまで予想して、集合時間を早めに設定していたのだ。

 一端仕切り直し、陣形の話に戻る。

「それで、今見た映像の通り、一花には積極的に前に行ってほしい。サポートは舞姫がするから大丈夫だとは思うが、危険だと思ったらすぐに下がってくれ」

「うん!」

「七海は舞姫のサポートだ。近接戦闘の弱い舞姫を守ってやってくれ」

「了解!」

「舞姫は一花のサポートをしてくれ。バーストギアは一対多を得意にするギアだ。一花に向かう敵が少なくなるように、狙撃を頼む」

「分かったわ」

 クロエは三人に内容を伝える。三人も波を前にして緊張しているようだった。特に、今回が初戦である舞姫は一花や七海よりも緊張しているようだ。

 三回目の波が、刻々と近づいていた。


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