13話 蜘蛛
「見えたぞ」
高城は前方を指さす。その指の先には、大型トラックを二台並べたような大きさの胴体に八本の足を生やした巨大な蜘蛛がいた。
今までのイーターよりも遙かに大きいそれは、周囲に蜘蛛の糸を張り巡らせて待ち構えていた。
「うわ、ほんとうに蜘蛛だよ……」
「そうだね……」
二人は蜘蛛型を見ると、不快そうに顔をしかめた。少女である二人は、当然のことながら虫は苦手だ。
そんな二人を見て高城は苦笑いする。が、すぐに顔を引き締めて二人に蜘蛛型の危険性を告げる。
「いいか、蜘蛛型の周りに張ってある糸には気を付けてくれ。捕まったら最後、生きたまま食われることになる」
その言葉を聞いて、二人は顔を青くする。
「未来では、あの蜘蛛型に殺されたやつも多い。絶対に注意を怠るな」
二人が頷く。その二人を見て、高城も満足そうに頷いた。
「よし、今から作戦を教える。しっかり覚えてくれ」
高城はそう言うと、チラリと蜘蛛型の方に視線をやってから紙を取り出す。
「今いるのは駅の近くだからビルが多い。相手の大きさを考えれば、広い場所に誘導してから倒すべきだろう」
「どうして?」
「広い方が逃げ場が多いからな。蜘蛛型に捕まらないように、上手く逃げながら倒すんだ」
「なるほど」
「そうなると……」
高城は懐からこの町の地図を取り出す。地図を一通り見ると、高城は少し考えてから口を開いた。
「ここから北にロータリーがあるから、そこに誘導するぞ」
二人は頷く。
「よし、じゃあ合図をしたら作戦を開始する。無理をせず、危険になったら仲間を頼れ。いいな?」
「「了解!」」
二人の返事を聞くと、高城は蜘蛛型に向き直る。蜘蛛型は先ほどと変わらず、その場で待ち構えていた。動く気配が無く、隙を探そうにも見つからない。
その状況が少し続いた後、高城はため息を吐いた。
「くそ、全く隙が無い。これだと、攻めるに攻められないか……」
高城は少し考え、二人に向き直る。
「仕方ない、こっちから仕掛けに行くぞ」
「誘導はしないの?」
「ああ。蜘蛛型め、自分の巣から動く気がないみたいだ。ずっと待ち構えていやがる」
高城は蜘蛛型の様子から動く気がないのを悟り、作戦を変更する。
「俺が蜘蛛型の意識を逸らすから、二人は上手く立ち回ってくれ。敵の意識が自分に向いたと思ったら、すぐに離れてもらっても構わない。とにかく、安全第一で行
動してくれ」
「「了解!」」
高城は二人の返事を聞くと頷いた。ヒュドラ参型を構えると、ゆっくりと接近していく。
そして射程距離に入ると、狙いを定める。三回の電子音の後、高城は引き金を引いた。
「くらえ蜘蛛野郎ッ!」
三つの銃口からエネルギー弾が撃ち出される。その軌道は、寸分の狂いも無く蜘蛛型の腹部を撃ち抜く――はずだった。
「なっ!?」
エネルギー弾は蜘蛛型に届く前に爆発してしまった。その様子を見守っていた一花と七海には、何が起きたのか理解できなかった。
「ね、ねえ。何が起きたの?」
一花が高城に尋ねる。高城は蜘蛛型を悔しそうに睨み付けた後、口を開く。
「蜘蛛型に奇襲がバレていたらしい。エネルギー弾の軌道を何かが阻んだ」
「その何かってなに?」
一花が首を傾げるが、高城も「俺にもそこまでは見えなかった」と言って首を左右に振った。
「あのさ、二人ともそろそろ……」
七海が二人に話をやめるように言う。その表情はどこか怯えていた。その顔を冷や汗が伝う。
「ああ、そうだな……」
高城は再び蜘蛛型に視線を戻すと、七海の表情の理由を悟る。
「これは……厳しい戦いになりそうだ」
高城が呟く。
刹那、蜘蛛型が目を赤く光らせた。




