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腹黒次期宰相フェリクス・シュミットはほんわか令嬢の策に嵌まる  作者: 阿井りいあ
二人は婚約者編

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30 フェリクスとありがたいお言葉


 シュミット邸に早馬が来て、メアリが明日の午後に帰ってくることが判明した。

 報せを受け取ったフェリクスはその日の仕事を早めに切り上げることを決め、許しを得るべくアルフォンスに伺いを立てた。


「明日メアリ嬢が帰ってくるって? もちろんいいとも! 早めと言わず、今から帰ったっていいよ。準備したいでしょう?」

「さすがにそれでは仕事が滞りますから」

「滞らないよね? どれだけ仕事を前倒しでやっつけていると思ってるの」

「メアリが帰ってからその後二日間は休みをいただきたいですから。できることは今のうちに詰め込んでおくのは当然です」

「それでも余裕あるから! よし、決めた! 今日はもう帰っていいし、明日から三日間休んでもいいよ!」

「……やけに僕を休ませたがりますね? 僕がいない間の殿下の仕事量は変わりませんよ?」

「そんなこと嫌ってほどわかっているよ! 少しでも減らしたいのっ!!」


 もはや涙目で訴えるアルフォンスに思うところがあったのかは定かではないが、フェリクスは小さくため息を吐くと、今すぐ帰ることと明日から三日間休暇を取ることを了承した。


「本来、休みが欲しいと頼むのは僕のほうなのですがね。これでは立場が逆では?」

「問題ない、なーんにも問題ないから。メアリ嬢との時間をゆっくりたっぷり過ごしてきて!」


 実質四日間ほど、フェリクスが仕事をしない。

 これにはアルフォンスだけでなく、マクセンも涙を流して喜んだ。


 たとえ自分たちには休みがなく、忙しい四日間だということがわかっていても、少なくともフェリクスが休んでいる間はこれ以上の仕事が増えることはないのだから。

 ゴールが見えるのと見えないのとでは精神的負荷が大きく異なるのだ。


 その考えもお見通しなフェリクスだったが、あえて触れることはしなかった。


「では、お言葉に甘えて僕はこれで失礼します。マクセンは置いていくので何かあれば使ってください」


 フェリクスがそれだけを言い残して優雅に礼をしたのを見て、アルフォンスとマクセンは軽く目配せをした。

 それから彼の出て行ったドアが閉まるのと同時にどっと全身の力を抜いて、しばしの休憩時間を過ごすのだった。




 フェリクスが王城内を足早に歩いていると、途中でイェルカに声をかけられた。


 今日はウルスラの姿はないのかとつい探してしまうが、別に彼女たちはいつでも一緒にいるわけではない。

 いくら姉妹とはいえそれぞれやることがあるはずで、本来は別行動であるのが普通だと思い当たる。


「ごきげんよう、フェリクス」

「イェルカ殿下」


 優雅に挨拶をするイェルカに対し、フェリクスはすぐに姿勢を正して彼女に向き直ると頭を下げた。


 イェルカはフェリクスに頭を上げるよう告げると、これまでの威厳ある様子から一変してにっこりと微笑み、少女のように話し始めた。


「明日メアリが帰ってくると聞いたわ。私たちもようやくお母様からお茶会禁止令が解かれたところなの。最初のお茶会にはメアリとクラウディアさんを誘いたいと思っているのだけれど、伝えてくださる?」

「承知いたしました。ですが、茶会の日はもうしばらく後にしていただけませんか」

「あら、どうして?」

「僕も彼女とはしばらく会えていないのです。二人の時間を大切にしたいと思うのは自然でしょう」

「もう、フェリクスったらまだそんな言い方をするのね!」

「……そんな言い方とは?」


 フェリクスの遠回しな言い方に、イェルカは目を細めて呆れたようにため息を吐いた。

 本人にあまり自覚がないのも問題だ。


 イェルカは持っていた扇子をパチンと閉じると、腰に手を当てて語り始める。

 その姿は母親である王妃ととてもよく似ていた。


「まさか、メアリに対しても遠回しな言い方をしているのではないでしょうね? いいこと、フェリクス。この際だからハッキリ教えてさしあげます!」


 なかなかの勢いにフェリクスも半歩後ろに下がってしまう。

 目が真剣すぎるので今すぐこの場を去りたい衝動に駆られたが、王女殿下を前にして突然立ち去ることはできない。


 フェリクスは観念してイェルカの説教を聞く覚悟を決めた。


「気持ちというのは、真っ直ぐ伝えるのが一番心に響くのです。大切にしたい、そう思うのは自然、だなんて言葉で乙女は満足できませんのよ! ハッキリ伝えてくれないと自信が持てませんわ!」


 素直が一番だとメアリにも言われたことがあったフェリクスに、イェルカの言葉は思っていた以上に突き刺さった。


 もし断られても、ハッキリしていなければダメージも少ないと無意識に考えていたのかもしれない。


 さらに続くイェルカの説教は、フェリクスにとって実に耳の痛くなる話だった。


「ロマンチックを履き違えてはいけませんわよ。それを好む女性もいますけれど、少なくともメアリはそんなロマンチックさなんて求めていないと思いますわ!」


 その通りだ。メアリは恋愛小説の話をしている時でさえ、ロマンチックな展開に心をときめかせるようなことはなかった。


(ロマンチックさを意識したわけではないが……臆病だったのは事実だな)


 フェリクスの人生において、人の説教を聞いてこれほど素直に反省するのは初めてのことだ。


 普段、フェリクスが説教をしているアルフォンスやマクセンはこういう気持ちだったのだろうかと、ここへ来てようやく相手の気持ちを少しだけ理解した。


「勘違いのしようもないほど、真っ直ぐな言葉を贈ったことはありまして? 実はそれが一番照れ臭いのですって。お母様が言っておりましたの。けれどそれこそが、愛する人から言ってもらいたいことだと私は思いますわ」

「……ありがとうございます。アドバイス、しかと受け取りました」

「本当ですの? いつも通りの冷静さで言葉を返されますとなんだか不安ですわね」

「心外です。深く反省いたしましたし、以後気をつけますよ」

「そう言われてしまっては、信じることしかできませんけれど」


 実際、フェリクスはかなり深くイェルカのありがたい言葉を胸に刻んでいた。

 滅多に反省をしない男ではあるが、フェリクスは自分の非を認めた時には二度と同じ間違いを繰り返さないよう努力できる人間でもある。


「では、僕はこれで」

「あっ、お茶会の件ですけれど。折を見て招待状を送らせていただきますわね」

「承知いたしました」


 今度こそ振り返らず、そしてやや急ぎ足で去っていくフェリクスを、イェルカは満足げに口角を上げながら見送った。



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イェルカ『むふー!言いたい事言えてスッキリですわ!』
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