25 メアリと過保護な家族
「話を戻しますね。本来ならまだフェリクス様の婚約者でしかない私は、王女殿下方に声をかけられる立場ではないのですが……クラウディア様に話を最初に持ちかけていたのなら、協力してくださるかも、と」
「むしろ喜んで協力してくださると思いますよ。王女殿下方はそういったお話が大好きですから。ひょっとすると王太子殿下も」
「そ、それはさすがに……!」
王女たちとはお茶会を通じて少し親しくなれたのでまだ良いとして、王太子は二言三言交わした程度なのでメアリも緊張が勝つ。
嬉々として協力してくれることも想像に難くないのだが、話が両陛下の耳にまで届いてしまうとメアリの手に負えない事態となる。
かわいがってもらえているとは思うが、取るに足らないメアリの小さな意地のせいで話が大きくなりすぎるのは気が引けた。
そもそも、王女たちに頼もうと思っていることも本当に些細なことだ。
それに話が大きくなりすぎるとフェリクスに勘付かれてしまう恐れもある。それだけは阻止したい。
メアリは王女たちへの手紙にその旨も書いておこうと考えた。
早速ペンを取り手紙を書いているとドアのノック音が響き、部屋の外で待機していた騎士から至急の要件があるらしいと伝えられる。
騎士がドアを開けたその隣に立つのは使用人の男性で、焦った様子と困惑した様子が見て取れた。
カリーナがドアの前で対応してくれており、メアリはペンを置いて二人のやり取りを聞く。
「メアリ様に、お客様がいらっしゃってまして……」
「当分の間、何人たりともメアリ様への面会は許されていないはずですよ? それでも断り切れない方なのですか?」
「その。ノリス近衛副団長とご息女の騎士様で……」
「お父様とナディネ姉様が!?」
二人の会話を遮るように思わずメアリが声を上げると、使用人の男性は何度も首を縦に振りつつ小刻みに震えながら言葉を付け足す。
「お二方とも、鎧を身につけておいでです……」
メアリにはその様子が一瞬で思い描けた。
シュミット邸の門の前で、父ディルクと次姉ナディネが鎧姿で腕を組み仁王立ちしている姿を。
頬に手を当ててメアリがため息を吐くと、カリーナが至極真面目な顔で神妙に口を開いた。
「……文字通り攻め込んできましたね」
「お二人とも大層ご立腹の様子で。当主様もフェリクス様も不在だとお伝えしたのですが、我々には手に追えず……!」
「私の家族がご迷惑をおかけして申し訳ありません……」
今にも泣き出してしまいそうな使用人に、ディルクをよく知っているらしい騎士が同情の目を向けている。
カリーナは腕を組んで悩み始め、メアリはただ謝ることしかできない。
どうやら嫌な予感通り、ディルクとナディネのメアリに対する過保護が発動してしまったようだ。
「……やっぱり、事件のことを知ってしまったのかしら」
「そうでしょうね。まぁペンドラン侯爵家の失態ですから、嫌でも噂が耳に入るでしょう。問題はどのように伝わっているか、でしょうか」
「変に伝わるくらいなら、最初から私が正しい情報を伝えるべきでしたね」
正しい情報を知ったところで彼らが怒らなかったかと言われると、怒るだろうなと思うメアリであるが、ここまでヒヤヒヤすることもなかっただろう。
なにはともあれ、今は二人をどうにかすることが先決。
メアリは席を立つと彼らに指示を出した。
「わかりました。応接室へお通ししてもらえますか? 私もすぐに行きます」
言い出したら聞かない性格の父と次姉のことを想像し、メアリは小さくため息を吐きつつ頭の中で対策を練った。
数十分後、メアリは着替えを済ませて来客室へとやってきた。
ドアを開けた瞬間、座りもせず室内で待っていたディルクとナディネが同時に振り返り、メアリを目に入れた途端ものすごい勢いで歩み寄って来る。
「止まってください。鎧のままではさすがに……」
「ああっ、ごめんねメアリ! うぅ、脱いで来れば良かったかな……でも、何があるかわからなかったし!」
「すまない、メアリ。だがどうかよく顔を見せてくれないか。メアリがシュミット家に来てしまったばかりに酷い目に遭わされ、我々がどれほど心配したか……!」
本気で戦にでも来たかのような様子に、話を聞くのが怖くなったメアリは暫し遠い目になりかけたが、鋼の精神力でほんわかした笑みを維持してみせた。
「一体、どのように話しが伝わっているのですか? 誤解があっては困ります。お父様、ナディネ姉様、一から話を聞かせてください」
メアリの穏やかな雰囲気が功を奏したのか、ディルクとナディネの二人はようやく椅子に腰を下ろした。




