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腹黒次期宰相フェリクス・シュミットはほんわか令嬢の策に嵌まる  作者: 阿井りいあ
二人は婚約者編

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22 フェリクスと敵に回してはいけない人


 フェリクスがこの後どう話を詰めてやろうかと考えながらペンドラン侯爵家に辿り着くと、門扉の前でメアリが口を開いた。


「一つお願いがあるのですが……」

「なんでしょう」

「メイドに問い詰めるのは、私に任せていただけませんか?」


 すでに脳内で言いたいことをまとめていたフェリクスは、思ってもみなかったメアリの頼みに目を丸くした。


 こうした問題があった時、フェリクスが代わりに相手を追い詰めていくのは日常茶飯事で、それが仕事でもある。

 大事な婚約者が被害にあったのだから、当然今回も自分が対応するのだと思って疑っていなかった。


 人を追い詰めるというのは、人から恨まれるということでもある。


 フェリクスとしてはその役をメアリにさせたくはないのだが、彼女の顔にここは譲れない、と書いてあった。


 フェリクスは諦めたように一度目を閉じてから答えた。


「被害を受けたのはメアリですからそれは構いませんが……大丈夫ですか? あまり無理はさせたくないのですが」

「無理はしていません。ただ、彼女が素直に謝罪するようなら罰も軽くなるでしょう?」

「……優しすぎるのでは?」

「誰しも過ちは起こすと思うのです。素直に謝罪して罰を受け入れるのなら、それ以上のことは望みません」


 あまりにも優しすぎる。

 それが余計に心配になったフェリクスだったが、続けられたメアリの言葉に考えを改めた。


「けれど、もし言い逃れをするような方だったら、今度こそ情け容赦など必要ありませんよね?」


 どうやら、まだまだメアリのことを侮っていたようだ。

 にっこりと微笑みながら強い意思を感じさせる発言をしたメアリはとても頼もしく、フェリクスは声を上げて笑ってしまう。


「ははっ! やはり貴女は、敵に回してはいけない人ですね」

「人間、素直が一番ですよ。フェリクス様」

「その言葉は少々耳が痛いですね。肝に銘じましょう」


 これでこそメアリで、腹黒なフェリクスが選んだ婚約者だ。

 二人は互いに目配せをすると、微笑みの仮面を装備してペンドラン侯爵家の門を通った。




 ペンドラン侯爵邸の入り口には、メアリを捜索する人たちが集まっていた。


「メアリ様っ! ああ、ご無事でよかった……」

「フェリクス! 俺、すぐに追いかけたのに見失っちまって、一度ここに戻ってきたんだよ」


 真っ先にカリーナとマクセンの二人が駆け寄ってきたのを見て、フェリクスは軽く手を上げることで問題がないことを示す。

 優秀な使用人である姉弟はそれだけですぐに理解すると、安堵したように肩の力を抜いて頷いた。


 特にカリーナは目を潤ませており、今すぐにでもメアリに謝罪をしたい気持ちでいっぱいなのが見て取れる。


 だが今それは叶わない。

 ここはペンドラン侯爵邸であり、事態の収拾をするのが急務なのだから。


「メアリさん! 無事でしたのね!」


 大きく玄関のドアが開け放たれ、使用人の制止を振り切って屋敷からクラウディアが飛び出してきた。

 真っ直ぐメアリに駆け寄る姿からして、本当にメアリを心配していたように見える。


(だが、これが演技ではないとは言い切れない。油断は禁物だ)


 フェリクスはさりげなくメアリの手を引き、自分の体を盾にする。

 クラウディアはそれに気づくと、罰の悪そうな顔でメアリに伸ばした手を引いた。


「大変失礼いたしましたわ。ですがどうか、メアリさんに怪我などがないかだけ確認させてくださいまし」


 意外にも殊勝な態度だとフェリクスが上から目線で考えていると、メアリにそっと手を引かれて視線を向ける。

 メアリの水色の瞳が、ここは自分に任せてと言っているようだったため、フェリクスは渋々頷いた。


「クラウディア様、ご心配をおかけして申し訳ありません。私は怪我もなく、無事です」

「ああ、よかった……。それにしてもなぜ、一人で外へ? フェリクス様を探しに行きましたの?」


 なにもわかっていないらしいクラウディアの発言に苛立ちを覚えたが、フェリクスが言葉を発する前にのほほんとしたメアリの柔らかな声が彼女の言葉を否定した。


「いいえ。クラウディア様を探しに行ったのです」

「わたくしを……? どういうことですの?」


 ほんわかとした笑みを浮かべつつも目が笑っていないメアリを見て、クラウディアも何かを察したようだ。

 まずは屋敷の中へと告げたクラウディアの言葉に甘え、フェリクスはメアリとともにペンドラン侯爵邸内へと足を踏み入れた。


 来客室に通されたフェリクスたちは、長いソファーに二人並んで座る。

 クラウディアがメイドにお茶を持ってくるよう伝えかけていたが、フェリクスはそれを遮って丁重に断った。


(ここの使用人はいつ見てもみな同じに見えるな。服装も髪型も綺麗に揃っていて……少々不気味だ)


 おかげでフェリクスには誰がメアリを嵌めたメイドかわからないため、当然の対応といえよう。


 早速メアリは、自分がなぜクラウディアを探しに外へ向かったのかということや、外で襲われかけたところをフェリクスに助けられたことなどを説明した。


 クラウディアは口元に手を当て、目を見開きながら聞いており、話が終わると鋭い目つきでメイドたちを睨みながら声を荒らげた。


「なんてこと……!? フェリクス様が一人でメアリを探しに行ったとわたくしに嘘の情報を伝え、ふざけた真似をした者は誰? 名乗り出なさい!」


 当然、誰も名乗り出ることはない。

 困惑する者、顔が蒼褪めている者ばかりで誰も心当たりがないようだ。


 クラウディアはギュッと一度口を引き結ぶと、自ら使用人一人一人を問い詰め始めた。

 フェリクスはそんな彼女の様子を見て、ほんの少しだけ警戒を解く。


(彼女は恐らく何も知らない。本当に使用人が勝手にしたことだろうな)


 他に考えられることといえば、クラウディアよりも上の立場、つまりペンドラン侯爵の指示だ。

 ただ、侯爵がメアリを陥れて得をするようなことはない。


 たとえメアリが邪魔だったとしても、自分の家が疑われるような真似をするほど愚か者ではないだろう。


 ペンドラン侯爵は頭が固く、身分で態度を変えるような人間ではあるがここまで稚拙な計画は立てない。


(しかし、このままでは時間だけが無為に過ぎていくな。メアリは自分に任せてほしいと言っていたが……)


 クラウディアから直接問い詰められているというのに誰も白状しない様子を見て、フェリクスはちらっとメアリに視線を向ける。

 メアリは相変わらずおっとりとした様子で周囲をじっと見つめていたが、クラウディアの諦めたような呟きにあっさりと答えを出してみせた。


「はぁ、埒が明きませんわね。どの使用人が貴女を連れ出したのか、メアリさんも覚えておりませんわよね……」

「覚えていますよ。あの方です」

「えっ」


 ニコニコしたまま、メアリは迷うことなく一人のメイドを指差した。


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