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腹黒次期宰相フェリクス・シュミットはほんわか令嬢の策に嵌まる  作者: 阿井りいあ
二人は婚約者編

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19 フェリクスの虫の知らせ


 いつもより少しだけ多く残業をこなしていたフェリクスは、王城を出るところでカリーナから事情を耳にした。


「今日はなかなか報告がないとは思っていたが、そんなことになっていたのか。いつの間にメアリはペンドラン侯爵令嬢とそこまで親しくなっていたんだ?」

「あれだけ頻繁にお会いしていたら、それも当然かと」

「カリーナの目から見てペンドラン侯爵令嬢は問題ないのか」

「はい。以前は愚かな印象がありましたが、今の彼女は良くも悪くも真っ直ぐで正直なだけのご令嬢に見えますね」


 カリーナは優秀な侍女であるとともに、シュミット家に害のある者を見分ける嗅覚が鋭い。

 そんな彼女が下したクラウディアへの評価は意外で、フェリクスは軽く片眉を上げた。


 だがカリーナの目は信用できる。


 以前までのクラウディアだったらメアリに近づかせなかっただろうが、今の彼女なら構わないだろうと判断し、交流を許可した次第だ。


 これまでクラウディアは、フェリクスへのあからさまで諦めの悪い好意を隠そうともしなかった。

 頭が固く古いしきたりに固執した父、ペンドラン侯爵からの圧力を、元来の真面目な気質で素直に受け取りながら育ったせいかもしれない。


 最近になってメアリと関わるようになり、ようやくクラウディア自身が考えて行動できるようになったのだとしたら。


(メアリ、貴女という人はどこまでも僕を驚かせる)


 フェリクスはクラウディアではなく、彼女を変えたであろうメアリの好感度をますます上げた。


「ただ……使用人の中にはメアリ様に対する視線や態度が悪い無礼な者がいますね。クラウディア様が見ていないところで見下しているので性質が悪いですよ。忠誠心が強すぎるのも問題ですね」


 ペンドラン侯爵家はまず当主がプライドの塊だ。

 昔から働いている使用人であればあるほど、当主と同じように身内やそれ以上の家柄の者以外を見下すような態度が見受けられる。


 本来、どんな家柄であろうと使用人が他家に不遜な態度を取るのは許されることではないのだが、ペンドラン侯爵が咎めないのが態度を増長させる原因であろう。


「使用人に関してはペンドラン家の問題だが、目に余るようであれば正式に抗議するか」

「今のところは私がそういった者たちの視線からメアリ様をお守りできているかと思います」

「さすがだな。だが泊まるとなると不安が拭えない」

「ええ。ですから私が直接フェリクス様に聞きにきたのです。せっかくメアリ様がわがままを言ってくださいましたから、望みを叶えて差し上げたくて。今はクラウディア様がしっかり見ているとおっしゃっていたので問題はないかと思いますが……できれば一刻もはやくメアリ様の下に戻りたいですね」


 クラウディアはこちらから伝えておきましょうかと申し出てくれたが、断ったのはそのためだ。

 クラウディアに問題はなくとも、かの家で誰が信用できる使用人かわかったものではない。


「このままペンドラン侯爵家に向かう」

「かしこまりました」


 悪意の視線から守られていたのだとしたら、いくら鋭い洞察眼を持っていても危険に気づかない可能性がある。


(嫌な予感がする)


 心配性が拗れているだけならいいのだが、フェリクスは妙に胸がざわつくのを感じていた。


 嫌な予感は、残念なことに的中する。


 ペンドラン侯爵家に辿り着くやいなや、門扉の前でクラウディアが使用人たちに怒鳴り散らしていた。


「どういうことですの!? メアリが勝手にいなくなるわけがありませんわ! 誰も見ていないというの!?」

「っ、今の話、どういうことですか」

「えっ、あっ、フェリクス様!」


 聞き捨てならない内容を耳にしては、マナーなど気にしている場合ではない。

 フェリクスが激高しているクラウディアに構わず声をかけると、驚いて振り返った彼女はすぐに冷静さを取り戻し、あろうことか深々と頭を下げた。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。けれど今は詳しくご説明している場合ではありませんの。後でいくらでも追及して構いませんから、どうかすぐに町へ向かってくださいませ」


 クラウディアはそこまでを一息で告げると、勢いよく頭を上げて真っ直ぐフェリクスの目を見つめた。

 その眼差しは真剣そのもの。フェリクスはこんな彼女の姿を初めて見た。


「メアリが急に姿を消しましたの。おそらくですが、町へフェリクス様を探しに行かれたのですわ」

「僕を? どういう……いや、今はいい。そこまで焦っているということはまさか」

「ええ。きっとお一人で、ですわ」


 ザッと全身の血が冷えていくのを感じ、フェリクスは自分でも気づかぬ内に走り出していた。

 いつもならマクセンや他の使用人に指示を出し、冷静に対処に当たるのだが、身体が勝手に動いてしまったのだ。


 焦ったのは従者たちだ。マクセンは焦ったようにフェリクスの後を追い、振り返ってカリーナに向かって叫ぶ。

「ちょ、フェリクスっ! あー、もう。姉さん、そっちのことはよろしく!」

「ええ! フェリクス様とメアリ様を頼んだわよ、マクセン! ……ペンドラン侯爵令嬢、ひとまず状況確認をさせていただけませんか?」

「え、ええ。そうですわね。一度屋敷へ戻りましょう」


 あれだけ余裕のないフェリクスを見たことや、それに対してすぐ対応してみせた優秀な従者たちを見て驚きつつも、クラウディアはすぐに表情を引き締めてカリーナを屋敷内へ案内した。


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― 新着の感想 ―
切羽詰まった鬼気迫るお話回のはずなのに、次回かその次くらいには猛ダッシュするメアリに遭遇するのかなぁと考えると何故かドキドキハラハラソワソワしなかった笑
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