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腹黒次期宰相フェリクス・シュミットはほんわか令嬢の策に嵌まる  作者: 阿井りいあ
二人は婚約者編

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5 メアリと予想外の再会


 穏やかな雰囲気の中、談笑をしながらお茶の時間はゆるりと過ぎていく。


  さすがは王城なだけあって出されたお菓子やお茶はどれも一級品。

 メアリは自分で作る家庭的な味も好きだが、今は質の良いお菓子の上品な味わいに幸せを噛みしめていた。


 とはいえ、いつこの場を去るべきかとメアリが考え始めた頃、その人物は現れた。


 城の侍女に案内されてきたらしい彼女は、この場にメアリがいるのを見て目を丸くしている。


「ペンドラン侯爵令嬢……」

「あ、貴女は……!」


 お披露目パーティーの時、メアリに対して圧力をかけてきたご令嬢だ。

 王都の貴族流の嫌味を言われた程度、という認識だったメアリとしてはそこまで思うところはないが、少々気まずい。


 というのも、あの時はフェリクスとの言い合いによってペンドラン侯爵令嬢は言い返すことができなくなり、屈辱を味わっただろうからだ。


 その後の彼女がなにを思ってどのように過ごしたのかをメアリは知らない。

 今も変わらずフェリクスの婚約者の座を狙っているのかどうかもわからない状態だ。


(ペンドラン侯爵令嬢の出方を見てから判断したほうがよさそうね。それまではあまり話さないようにしましょう)


 メアリは基本的に人見知りだ。

 今日だって王太子や王女たちに囲まれて、光栄であると同時に困惑し続けている。

 当たり障りのない対応をすることでどうにか切り抜けているが、ここへ来てさらに厄介な人が増えて内心では逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。


 相手をよく観察し、知ることでメアリの社交術は発揮される。

 策を練り、万全の状態で相対するのがいつもの手法だ。

 今はその対策を練る時間もないため、洞察力とともに、メアリの苦手な瞬発力も試されるというわけだ。


 妙な緊張感と雰囲気を察したのか、ウルスラがハッと何かに気付いたように口に手を当てた。

 一方、イェルカはニッコリと笑みを浮かべてメアリに向き直る。


「彼女にも同席していただいていいかしら」


 ここで断っては他でもない王女の面目を潰すことになるのだから、メアリに拒否などできるわけもない。

 ただメアリとしてもそう言われるだろうとの予想はできていたため、戸惑うことなく笑顔で快諾してみせた。


 それが意外だったのだろう、王女たちはもちろんペンドラン侯爵令嬢も少々驚いたようにこちらを見ているが、メアリも心の中では祈っている。


(面倒なことになりませんように)


 さすがにペンドラン侯爵令嬢も王女たちの前で変に突っかかってくることはないだろうと思っていたのだが、そう簡単にはいかないらしい。

 メアリの反応に思うところがあったのか、ペンドラン侯爵令嬢の口からは嫌味が紡がれた。


「ノリス伯爵令嬢ったら、王女様方にも取り入りましたのね。フェリクス様を落とした時と同じ手口かしら」


 隠そうともしない悪意に、メアリは内心で驚いた。

 さりげなく王女たちに視線を向けたが、彼女たちは黙って様子を見ているだけである。

 もしかしたらまた試されているのかもしれないと思ったメアリは覚悟を決め、のほほんとした笑みを浮かべたままおっとりと言葉を返した。


「落とした、というのはどういうことでしょう?」

「しらばっくれないでちょうだい。いくら若いとはいえ、そのくらいわかるでしょう? どうやって誑かしたのかと聞いているのよ」

「誑かす、ですか? それはないと思います。フェリクス様にとって私はまだまだ子どもでしょうし」

「まぁ、嫌味ですの!? パーティーでフェリクス様があれだけはっきりと『愛し合っている』とおっしゃっていましたのにっ!」

「あ、愛し合ってはいますけれど……」


 やんわりと否定することでペンドラン侯爵令嬢の嫉妬を回避できるのではないかとメアリは思ったのだが、今回は逆効果だったようだ。

 メアリの勘も恋愛が絡むと空回ってしまうのか、もしくは本当はメアリの片想いだという事実が、自信のない発言を引き出してしまったのかもしれない。


 言いよどむメアリを見て思うところがあったのか、これまで黙って様子を見ていた王女たちが信じられないと言った様子で声を上げた。


「ま、まさかとは思いますけれど。メアリ……彼から直接『愛してる』と言われたことはありますわよね?」

「イェルカお姉様ったら、言われたことがないなんてこと……ない、ですよね? あんなに愛する婚約者だと周囲には言っていますのに。ど、どうなのですか、メアリちゃん!」

「え、っと。その」


 メアリは、なぜかすぐ反応できないでいた。


(言われたことがあるって嘘を……どうしても言えない)


 他の話題であれば多少の罪悪感はあっても嘘の一つや二つ平然と返せるというのに、この質問に関しては嘘も真実も告げることがメアリにはできない。


 言われていないと告げればその事実が突き刺さり、言われていると嘘をつけばもっと突き刺さるからだ。


「言われていませんのね!? ああ、なんてこと!」


 無言を肯定と受け取ったイェルカは、口に手を当てて驚きを露わにしている。

 ウルスラにいたっては、驚きすぎて言葉も出ない様子だ。


(人から言われるのもグサッとくるわね。それよりも、なんだか雲行きが怪しくなってきたみたい)


 これではまるで、フェリクスが恋人に愛の言葉一つ言わずメアリの純情を弄んでいる男のように思われてしまうではないか。


 アルフォンスに声をかけられてからずっとパニックが続いているメアリの判断力は鈍っており、もはやどうするのが正解なのかまったくわからない状態だった。


「メアリちゃんは? 愛していると彼に言っているの?」

「うっ」


 極めつけに、ウルスラに直球で問われたメアリは脳裏にフェリクスの姿が浮かんでしまい、とうとう顔を真っ赤にして俯いてしまった。


 これには王女二人だけでなくペンドラン侯爵令嬢も一緒になって目を合わせてしまっている。


「ノリス伯爵令嬢……つまり、お互い本人を前にすると言えないということですの?」

「メアリちゃんったら乙女ですーっ!」

「そうね、ウルスラ。メアリはかわいらしいですわね。けれど、もう立派な大人であるフェリクスが同じように言えないというのは大問題ですわ」

「たしかにー。メアリちゃんはかわいいけど、フェリクスをかわいいとは思えないです」


 メアリの予感は当たり、王女たちの間で次第にフェリクスを責める言葉が増えていく。

 王女に向かってやめてくださいとも言えず、メアリはおろおろとうろたえることしかできなかった。


土日のお休みを挟み、続きは11日(月)22時に更新します。

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― 新着の感想 ―
恋話と言うか濃い話
たしかにー。 割と王女様はミーハー…φ(..)メモ
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