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腹黒次期宰相フェリクス・シュミットはほんわか令嬢の策に嵌まる  作者: 阿井りいあ
婚約者選び編

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35 フェリクスと王太子


 国王へ謁見する日が決まったのは、パーティーの翌日のことだった。

 その知らせをシュミット家に持ってきた人物を前にして、フェリクスは朝から頭を抱えている。


「なぜ貴方が来るのですか、殿下」

「ちょっと近くまで来る予定があったんだよ」


 普通、手紙を持ってくるのは従者の仕事だ。場所によっては騎士であることもある。

 少なくとも、一国の王太子がするような仕事ではない。


 フェリクスは大げさにため息を吐くと、呆れたような目を王太子に向けた。


「嘘ですね。こんな早朝にどんな予定があるというのですか。それどころか、今日は外出の予定はなかったはずですよ」


 次期宰相としてすでに王太子を支えているフェリクスが、彼のスケジュールを把握していないわけがない。

 王太子とてすぐにバレるとわかっていて言ったのだろう。


「あはは、バレた。ちょっとくらい騙されてくれたって良くない?」

「そう思うならもう少しマシな言い訳を考えてください」


 しかも悪びれもせずに笑う始末だ。

 いつものことだが、王太子の自由奔放さには頭を悩ませられる。


 フェリクスは王太子の脇に控える護衛騎士から手紙を受け取ると、封筒を検めながら言葉を続けた。


「どうせ僕の婚約者に非公式で会ってみたかったのでしょう」

「さすがはフェリクスだね。その通りさ!」

「まぁ、会わせませんが」

「ええっ!? そこは紹介するとこでしょ!? パーティーの時もほとんど会えなかったのに!」


 不満を漏らす王太子を余所に、フェリクスはサッと手紙の内容を確認してから封筒に戻す。

 そのまま内ポケットにしまうと、王太子に向けて厳しい眼差しを向けた。


「今何時だとお思いですか。その上、疲れが残っていますのでメアリはまだ休んでいますよ」


 フェリクスの言葉に対し、相変わらず不満げな様子を隠しもしない王太子だったが、ふと何かに思い当たったかのようににんまりと笑んだ。


「……あっ、さては昨晩かなり無理をさせ」

「下世話な想像は殿下と言えど許しませんよ」

「ごめんって。本気の殺気を向けないでよ。私、王太子だよ? 君が仕える相手! 偉い人っ!」


 まったくもって笑えない冗談である。


 大体、メアリと婚約することは決まったものの、正式に承認されるのはこれからであるし、未婚の間に関係を持つなど一般的にあまり褒められたことではない。


 これまでずっと献身的に仕えてきたというのに自分をそういった目で見ているのか、と恨みを込めて睨むのも仕方がないだろう。

 マクセンでもあるまいし、極めて遺憾である。


 ただ実際に最も腹が立つのは、メアリに対して不埒な妄想をしやがった点にあった。

 たとえ王族といえど、許せない一線と言うものはある。


「こほん。えーっと、三日後の午後に来い、だったっけ。父上も今回の件については悪いと思ってるみたいだよ。メアリ嬢のために、その日は王城内を自由に見学できる許可をくれるそうだ」

「手紙に書かれていましたから、存じております」

「……まだ怒ってるね?」


 フェリクスの顔色を窺いながらどうしたら許してくれる? 機嫌直してよ、などと言いながら慌てる王太子はあまりにも子どもっぽい。

 メアリより一つ年上のはずなのに、彼女よりずっと幼く感じる行動だ。


 それでも自分が仕えるべき相手であるし、こんな一面もあるというだけで王太子はかなり優秀だ。

 少し条件を出してサッサと許してやろうと結論を出した。


「では、見学の間は僕もメアリに付き添わせてください」

「え、ちょっと仕事してよ。ついこの間、一カ月も不在にしたばかりじゃん。すっごく大変だったんだからね?」


 大変だと言っても、相談できる相手が近くにいなくて他ならぬ王太子が困っていただけだろう。

 それに、こちらも休みたくて休んだわけではない。

 むしろ王命で向かったのだから仕事の一環だったと主張したい。


 そんな意図やら思いやらを込めて、フェリクスはニッコリと笑みを向けた。


 長年の経験から何かを察した王太子は、ビクリと肩を震わせて半歩ほど後退る。


「殿下が大人しく執務机に向かい、わからないことはご自分で調べるようにしてくださればなんの問題もありません。僕の仕事だけならこの程度、どうとでもなりますから」

「それって、私がいつもフェリクスの仕事を増やしているって言ってるように聞こえるんだけど」


 自覚がおありのようで何よりです、とでも言いたげにフェリクスはさらに笑みを深めた。


 こうなった彼には何を言っても敵わない。

 それをよく理解している王太子は、諦めたように長いため息を吐いた。


 今回のことはフェリクスが被害者だし、今の空気を作ったのは王太子自身である。明らかに分が悪い。


「はぁ、わかった。その日は休みをあげるよ」

「お気遣い、ありがとうございます」

「そう仕向けたくせに何をお礼なんか……」


 ブツブツ文句を言い続ける王太子を無視し、フェリクスは話題を切り替える。

 あまりのんびりしていると、起きてきたメアリと遭遇してしまうかもしれないのだから。


「さて、そろそろ王城へ向かいますよ。仕事が滞ります」

「あーあ、つまんないのー。でも絶対に近いうち、メアリ嬢を紹介してよね」


 いずれはそんな機会も設けなくてはならないだろう。

 だが、三日後には国王との謁見があるのだ。せめて負担は小出しにしてやりたい。

 それとも一気に終わらせた方が、気が楽だろうか? この辺りは、メアリと要相談である。


 脳内にやることをメモしながら、フェリクスは王太子を引きずるようにしてようやく屋敷を出たのであった。


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