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【コミカライズ企画進行中】学園のマドンナの渡辺さんが、なぜか毎週予定を聞いてくる  作者: まるせい
三章

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第77話 渡辺さんはハゼが釣りたい

「良い演奏でしたね」


 店を出ると夕方手前になっていた。


 演奏が始まったのが14時頃で、そこから終わった後もお茶を飲み色々と話をしていたのであっという間に時間が経っていた。


「このあとどうしようか?」


 晩飯の時間には中途半端だし、そろそろ中華街から出るべきかもしれないと考える。


「実は、相川君に付き合って欲しいところがあるんです……」


 彼女はそういうと自分のバックを撫でる。普段と違って結構大きなトートバックだ。


 彼女にしては大荷物だと思っていたのだが何かあるのだろうか?


「そりゃ勿論構わないけど、何かあるの?」


 珍しく思わせぶりな言い方に首を傾げると、彼女は悪戯な笑みを浮かべる。


「着くまでの内緒です」


 人差し指を口元で立て微笑む姿が可愛らしい。


 渡辺さんの先導で俺は彼女の行きたい場所に向かうのだった。




 水が流れるせせらぎ音が聞こえる。

 水面は夕陽を浴びてオレンジ色に染まっており、時々小魚が水面を泳ぐ姿が見え、目で追いかけてしまう。


「ここが、来たかった場所?」


 俺たちは河口付近の河原に来ていた。


 彼女は何やらバッグに手を突っ込みゴソゴソとしている。


「はい、相川君の分です」


 手渡されたのはいわゆるコンパクトロッドというやつで、比較的小さな魚を釣り上げるお手軽な釣具だ。


 全長で二メートルもいかなく、収納も容易で鞄なんかにも簡単に入れることができる。

 気軽な釣りを楽しみたい場合に俺も何度か持って行ったことがあった。


「えーと……?」


 そんなコンパクトロッドを渡された俺は、渡辺さんが何を望んでいるのか測りかねて言葉を控えていた。


「これからここで釣りをしたいと思います」


 その一言に驚く。今日は完全にデートだと思っていたので、釣りのことは頭から切り離していたし、何より彼女から釣りに誘われるなど想像もしていなかったからだ。


「家で釣り動画を見てた時に釣ってみたい魚がいたので、今日はそれを釣ろうかと思いまして」


 俺と一緒の時以外にも釣りの勉強をしているとは、彼女も順調に釣りにハマってきているようだ。


「言ってくれたらこっちで準備したのに……」


 今日一日釣具を持ち運んでいたということになる。事前に要望を出してもらえれば道具を揃えておいたし、荷物も持った。


 ところが、渡辺さんは首を横に振ると言った。


「私が用意してみたかったんです」


 彼女は真剣な表情で俺を見る。


「これまではずっと相川君のお世話になってしまっていましたけど、私がしたい釣りの準備は私がするべきなんです」


「でも、大変だったんじゃないか?」


 竿の良し悪しやリールの性能、仕掛けについてなど、覚えるのが大変なので最低限しか教えていない。


「調べるのも楽しかったですし、二人で釣りをする時間を想像してたら苦になりませんでした」


 随分と嬉しいことを言ってくれる。俺が彼女と釣りをする時間を大切にしているように、渡辺さんも俺と過ごす時間を楽しんでくれているのが伝わってきた。


 顔を覗き込んでくる彼女の姿が愛らしくて思わず目を逸らしてしまう。

 屋外だと言うのに抱きしめてしまいたくなり堪える。


 俺の言動に彼女が首を傾げるので話を本題に戻すことにした。


「今日は何を釣るつもりなの?」


 河口付近ともなるとシーバスかと考えたのだが、この竿で50センチオーバーのシーバスを釣り上げるのには無理がある。


 すると、渡辺さんはバッグの中から餌を取り出すと言った。


「今日はハゼを釣りたいと思います」







 渡辺さんが用意してくれたハゼようの仕掛けを組み立てていく。

 普段使わない軽めの仕掛けに頼りなさを覚えるのだが、ハゼつりはこのくらい軽い仕掛けでなければ食いが悪い。


「動画で見たんですけど、ハゼって簡単に釣れるみたいなんですよね」


 渡辺さんと話をしながら仕掛けを組み立てていく。


「確かに、ハゼは数釣りしやすい魚だよね。家族連れで釣りをしている人も見るし」


 都内に流れる川では週末に家族でハゼ釣りを楽しむ光景が見られるらしい。

 海まで行かなくてもそこらの川でも釣れるので、お手軽な釣りとして親しまれている。


「そうなんですよね、動画の中でも家族で来ている方がいらっしゃって楽しそうでした」


 そういって微笑む渡辺さん。彼女なら母親になっても優しく子どもに釣りを教えていそうだ。姿が思い浮かぶ。


「さて、準備完了っと」


「えっ? もうですか?」


「まあ、流石に慣れてるからね」


 初めて使う竿とはいえ、これまで何千回と糸を通してきている。無意識の内に終わっていた。


「ふぅ、それじゃあ釣りをしましょう」


 ようやく仕掛けを組み終えた渡辺さんは仕掛けを手に持つと趣旨を説明する。


「今回使うのはこのホタテです」


 釣具店に置いてあるハゼ釣り用の常温餌のホタテだ。


「針にこうやって引っ掛けて川に投げます。ハゼが食いついたら浮きが沈むはずなので見逃さないように」


 実践してみせた彼女は食い入るように浮きを見る。

 挙動を一つたりとも見逃さないようにしているようだ。


「むぅ、かかってませんね?」


 少しして、仕掛けを回収した渡辺さんは針を見る。ホタテが針に残っていた。

 どうやら今投げた場所付近にハゼはいないらしい。


「少し場所を移動しましょう」


 ハゼは足で稼ぐ釣りなので、その場にハゼがいない場合はこちらが移動することになる。


 河口から遡上するように河原を進み釣りをする。30分程が経つと……。


「あっ!」


 浮きが沈んだ。


「来ましたっ!」


 彼女は興奮すると真剣な顔で魚を釣り上げる。

 ハゼ釣り用の糸はとても細いので、石や壁の硬い部分に当たると簡単に切れてしまうのだ。


「お願い、切れないでください」


 彼女の祈りが通じたのか、それからまもなく魚が釣れた。


「やりました!」


 十数センチのハゼで、今の時期なら平均サイズくらいだろう。

 糸を持つ彼女の手の下でビチビチと跳ねている。


「渡辺さん、そのまま」


 この笑顔を残しておかなければと俺はスマホを構え撮影をする。


「後で私にも送ってくださいね」


 彼女は嬉しそうにそう言うと、ハゼを水筒へと入れた。


「こうやれば楽に持ち運べるんです」


 実に理にかなっている運搬方法だ。中に氷が入っているので、鮮度も落ちないし運んでいる最中に水が溢れることもない。


「さあ、相川君も釣りましょう!」


 地合いが来ているのかもしれない。


 先程までの静かさがなんだったかと言うくらい連続で釣れ始めた。

 仕掛けを落とせばすぐに反応がある。


 俺と渡辺さんは夢中で釣りをすると、用意していた二つの水筒は30分を待たず満タンになるのだった。

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