表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第5章 中原争奪編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/67

33.鄧城の陥落(地図あり)

建安11年(206年)6月 荊州 南郡 襄陽


 鄧城とうじょうの周辺で揉み合いを続けていると、あまりの損害の多さに危機を覚えたのか、敵が籠城戦法に移った。

 ほぼ同数の兵力で、常に倍以上の損害を与えていれば、そうなるのも当然であろう。

 そして俺たちにとっては、それこそが狙いであった。


 我が軍は城を囲み、さらに攻撃を続ける。

 ちなみに鄧城もそれなりの城壁を持つが、襄陽などとは比べるべくもない。

 邪魔な水濠もなければ、城壁の高さでも一段以上おとる。


 そんな城に対して、俺たちは新兵器を投入した。


「放てっ!」


 指揮者の号令に続いて、10本もの太矢が飛んだ。

 それは城壁上の櫓などに突き刺さり、そこから縄が垂れ下がる。

 その縄は人がぶら下がれる程度の強度があり、さらに一定間隔ごとに結び目がついている。


「野郎ども、よじ登れ!」

「「「おうっ」」」


 号令を受けた男たちが、スルスルと猿のように縄をよじ登っていく。

 彼らはこの時のために、縄のぼりと近接戦闘の訓練を受けていた。

 それを見た敵兵は、石やら矢やらをお見舞いしようとするが、よじ登る兵士は頭に小振りな盾を装着していた。


 この盾で敵の攻撃を避けながら、すばやく縄をよじ登るのだ。

 運が悪いと肩や手に攻撃を受けて、転落する者もいるのだが、通常よりはその確率も低い。

 さらに城外に控える弓兵も、しきりに矢を放って敵を牽制していた。


 おかげで5人ほどが城壁上へたどり着くことができ、すかさず剣を抜き放って、敵の排除に動いた。

 その結果、さらに縄をよじ登る人数が増え、城壁上に味方が増えていく。

 そしてある程度の味方が上がった時点で、隊長の魏延がそれに加わった。


「野郎ども、ここからは俺も一緒だ。城門を奪うぞ!」

「「「お~っ!」」」


 魏延が剣を抜いて振り回すと、味方が一気に勢いづく。

 それはまさに襄陽攻略戦で、甘寧が果たしていた役割だ。


 あの時、難攻不落と呼ばれた襄陽を落とした俺たちは、城壁を越えて乗りこむ決死隊の有用さに気がついた。

 それはとても危険な任務だが、普通に城を攻略するよりも遥かに効率的でもある。

 そこで甘寧たちが用いた手法を研究し、より成功率の高い方法を考えた。


 その結果、床弩しょうどという強力な投射器で、太い矢を城壁上に撃ちこみ、それに結わえ付けた縄をよじ登ることにしたのだ。

 当然、そのための道具をいろいろと試行錯誤し、隊員には縄をよじ登る訓練も施した。

 これによって襄陽の時よりも、すばやく城壁に登ることが可能になったのだ。


 そしてその決死隊を率いるのが、今回は魏延というわけだ。

 あいつはよほどに手柄を立てたいのか、この話を聞きつけるとすぐに志願してきた。

 魏延はわりと若いほうだし、腕っ節も張遼や甘寧に準じるぐらいの実力がある。


 そこで隊員の選定から訓練までを一任し、決死隊を養成させたのだ。

 その成果が、今ここに結実しつつある。

 結局、魏延は見事に役割を果たし、城門を内から開けることに成功した。


 その後、南陽での初の成果として、俺たちは鄧城を手に入れたのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安11年(206年)7月 荊州 南郡 襄陽


 曹操軍の最前線だった鄧城の陥落により、周辺の都市が恭順してきた。

 なにしろ10万近い軍勢を撃破し、わりと短期間で城まで落としてみせたのだ。

 その衝撃は相当なものがあり、様子見をしていた豪族がなびくのも不思議でない。


 我が軍はその威勢を駆って、南陽の都であるえんまで攻め上がった。

 途中、新野などで抵抗もあったが、やはり決死隊の活躍により短期間で攻め落としている。

 そして今は宛城を囲んでいるって話だ。


 もちろん俺はいまだに襄陽で、後方支援に徹している。

 誰よりも信頼できる主将が、軍を率いているからな。


 それに後方支援と言ったって、やる事はいくらでもあるんだ。

 よどみない補給体制の構築や、新規兵員の補充に加え、支配地の統治にも目を光らせねばならない。

 戦争をしてる分だけ、普段よりも忙しいぐらいだ。


 そんな仕事の合間に、俺は前線から来た伝令の報告を聞いていた。


「ということで、敵は宛城周辺に軍勢を集め、防戦の構えを見せております」

「敵の兵力は?」

「城内の兵力は不明ですが、おそらく15万は下らないかと」

「15万か。どうせ新兵ばかりなんだろうな」

「はい、おそらくは」


 ある程度、予想はしていたが、敵は完全に守りに入っていた。

 今は中原のあちこちで反乱騒ぎが起きているし、徐州や揚州にも備えねばならない。

 しかしいかに混乱しているとはいっても、曹操は朝廷を主宰し、中原を押さえているのだ。


 それこそ何十万人もの兵力をひねり出すのも、不可能ではない。

 そのための時間稼ぎとして、宛に大軍を集めたのだろう。

 そのほとんどが新兵だとしても、そう簡単に攻め落とせるものではない。


「それで関羽将軍は、宛に押さえの兵を置き、周辺都市の制圧に回りたいとの仰せです」

「ふ~ん、俺はいいと思うけど、陳宮はどう思う?」

「それがよろしいかと。南陽郡自体が落ちれば、いずれ宛も降伏するでしょう」

「そうだろうな。よし、宛以外の都市攻略を、許可する」

「はっ、そのお言葉、必ずや将軍にお伝えします」


 こうして我が軍は、南陽全体の制圧へと動いていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安11年(206年)9月 荊州 南郡 襄陽


 あれから2ヶ月で、南陽郡はほぼ制圧された。

 西は武当ぶとうから東は舞陰ぶいんまで、南はずいから北は魯陽ろようまでと、ほとんどの都市に軍勢を送ることで、支配下においた。

 まともな兵力は宛にかき集められているおかげで、抵抗も少ない。


 その間、宛の曹操軍は無抵抗だったかといえば、そんなことはない。

 必死にこちらの包囲を食い破ろうとしてきたが、それに対するは関羽である。

 野戦陣地を上手く使い、敵の半分程度の手勢で、攻撃をよく防いだ。


 敵も総数15万といえど、その多くが不慣れな新兵だ。

 しかも優秀な指揮官も不足しているのか、これといって危険な場面もなかったらしい。


 それじゃあ、隣の豫州は何をしてたかといえば、あちらも大混乱だという。

 なにしろ南陽のすぐ隣は、許都のある潁川郡だ。

 いつ攻められるかと、気が気でないだろう。


 豫州でも必死に兵員をかき集めつつ、さらに天子さまを兗州の済陰郡せいいんぐんへ移動させたとか。

 そして潁川郡を中心に守りを固め、こちらの様子をうかがっているようだ。

 ハハハッ、天下の司空閣下が、それでいいのかねえ。


 いずれにしろ、周囲が全て俺に帰順した結果、宛城は孤立した。

 さらにそれを敵に知らせてやると、南陽出身の兵が脱走しはじめる。

 そりゃあ、故郷が敵方に寝返ってるのに、わざわざ軍に残る必要もないよな。


 本来なら俺は漢王朝に逆らう逆賊だが、堂々と曹操を君側の奸として非難している。

 さらには襄陽へ攻め寄せた官軍を跳ねのけた辺りから、周辺の豪族の反応も変わってきた。

 ひょっとして劉備なら、官軍にも勝てるのではないか?


 そんな期待というか、懸念のようなものを抱えた豪族が、どんどん様子見をするようになる。

 これによって官軍の徴兵がさらに滞るようになり、豪族の懸念はさらに高まった。

 そんな状況の中で、俺に前線への出張要請が届いたのだ。

今回の舞台は荊州の南陽郡。

南側にあるとう県を落としてから、淯水いくすいをさかのぼり、新野などを落として宛を囲みました。

それから他の都市も落として、南陽の大半を制した形です。

挿絵(By みてみん)


地図データの提供元は”もっと知りたい! 三国志”さま。

 https://three-kingdoms.net/

ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孫呉が好きな方は、こちらもどうぞ。

それゆけ、孫策クン! ~転生者がぬりかえる三国志世界~

孫策に現代人が転生して、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ