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逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第4章 益州攻略編

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24.袁紹の死

建安7年(202年)5月 荊州 南郡 襄陽じょうよう


 益州で今後の統治体制を整えると、俺はまた襄陽へ戻ってきた。

 そして改めて4州にまたがる仕事をこなしていると、関羽が俺を訪ねてきたのだ。


「兄者、朝廷からこんなものを贈られたぞ」

「ん? 朝廷から?」


 関羽が無造作に取り出したものは、紫と白色の組み紐のついた印綬いんじゅだった。

 (注:印綬とは組み紐のついた官印で、官吏の身分証明となるもの)

 そして俺は、それと同じものを持っていることに気づく。


「こいつは、将軍の印綬か?」

「ああ、そうだ。見事、益州を鎮圧した褒美として、鎮西将軍ちんせいしょうぐんに任命してくれるそうだ」

「鎮西将軍って、俺と同格じゃねえかよ」

「ああ、そういうことなのだろう」


 鎮西将軍といえば、俺の鎮東将軍と同格の将軍位だ。

 それは2ほんの高位な官位であり、本来は州牧の配下でしかない関羽に、贈られるようなものではない。

 つまりその狙いは明らかだ。


「フウ……いつかはやってくると思ったが、とうとうきたか」

「うむ、兄者が想像以上に早く、益州を取ったからであろうな」


 そう言って俺たちは、しばし目を合わせる。

 やがてどちらからともなく、笑いはじめた。


「プハハハハハ、こんなことしても、なんの意味もないのにな」

「ワハハハハ、儂らの関係が理解できないボンクラであれば、仕方ないであろう」

「まあ、そうだろうな。アハハハハ」


 曹操が狙っているのは、俺の配下に俺と同格の官位を贈り、主従の仲を裂くことだろう。

 普通の人間がこんなことをされれば、上司にとっては面白くないし、部下は増長してしまう。

 そうやって両者の間に疑心を生じさせ、力を削ごうとしているのだ。


 昔から何度も繰り返されてきた、離間の策というやつだな。

 しかし俺と関羽に限っては、ほとんど意味をなさない愚策である。

 なぜなら俺は絶対に関羽を嫉妬しないし、関羽が俺を軽んじることもないのだから。


 もちろん、俺に讒言ざんげんしてくる者はいるだろうし、逆に関羽をそそのかそうとする輩もいるかもしれない。

 だが絶対の信頼関係にある俺たちにとって、これぐらいで不安になったり、不満を覚えることはないのだ。

 むしろ関羽に箔がつくのだから、逆に嬉しいぐらいだ。


「はあ、おかしい。どうせやるんだったら、俺より高位の官職でも贈ればいいのに」

「フハハ、これより上だと、1ほんか大将軍、四征将軍ぐらいしかないぞ」

「まあ、それでも俺は嫉妬しないけどな」

「それもどうかと思うがな」


 ひとしきり笑ってから、俺は表情を引き締める。


「まあ、冗談はこれぐらいにして、曹操も今後はいろいろと邪魔をしてくるだろう。関羽の方でも気をつけておいてくれよ」

「うむ、心得た」


 さてさて、今度は何を仕掛けてくるのやら。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安7年(202年)6月 荊州 南郡 襄陽


 曹操のちょっかいが判明してしばらくすると、中原で大きな動きがあった。


「そうか、袁紹が死んだか」

「はい、病死のようです」


 河北4州を支配する袁紹が、病死したという。

 たしか前生でも、これぐらいの時期だったはずだ。

 前生に比べれば曹操といい勝負をしていたものの、さすがに病気には勝てなかったらしい。


 しかしその後の展開には、また違うものがあった。


袁譚えんたんが後を継いだだと?」

「はい、当初は3男の袁尚えんしょうが後継になる予定でしたが、袁術が袁譚を支持した模様です」

「おいおい、袁術かよ。あいつ、まだ生きてたんだな」


 たしか前生では、3男の袁尚が後を継いだはずだ。

 おかげで袁家の内部が3男の袁尚派と、長男の袁譚派に別れてしまい、曹操に各個撃破されたんじゃなかったかな。

 それが今生では、袁術が生きており、袁譚を支持したという。


 おかげで袁譚が当主に収まり、袁家の力はさほど弱まっていないようだ。

 もっとも、袁尚の不満はくすぶっているので、いつ分裂するかは分からないがな。

 それにしても、袁術がこんな形で関わってくるとはな。


 どうやって介入したのか気になるので、ヤツの動きは調べさせよう。

 そしてその影響がどう出るかも、知る必要がありそうだな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安7年(202年)7月 荊州 南郡 襄陽


 あれからひと月もすると、追加の情報が届けられた。

 まず袁術だが、ヤツは冀州へ行ってから、ずっと日陰の暮らしをしていたらしい。

 いくら袁紹の従兄弟だといっても、袁術は彼を妾腹と言って馬鹿にしていたのだ。

 そんな人間が歓迎されるはずもなく、袁紹はしばしば袁術をいびっていたようだな。


 しかし腐っても袁家の嫡流。

 袁術はひそかに人脈を広げ、情報も集めていたのだという。

 そして袁紹が病に倒れたことを知り、袁譚に知らせたようだ。


 前生では袁紹の葬儀に間に合わず、家督の継承もできなかった袁譚だが、今生では違った。

 袁術から得た情報で葬儀の前に駆けつけ、葬儀を主宰することができた。

 もちろん袁尚との間で揉めたのだが、曹操という強敵を抱えた状態で、袁家を割るべきではない、という意見でまとまったようだ。


 この説得にも、袁術が大きな役割を果たしたというのだから、侮れない。

 思った以上にしぶとい男のようだな。



 一方の曹操だが、袁紹死すの報が入るや、一気に軍勢を動かした。

 多方面から黄河を渡り、袁家軍に攻撃を仕掛けたそうだ。

 特に魏郡の黎陽れいようには大軍を差し向け、本格的な攻撃を加えたという。


 しかし前生よりもまとまっている袁家は、これに即座に対応した。

 袁譚みずからが黎陽へ赴き、指揮を執ったという。

 双方ともに数万の兵を繰り出して、盛大に殴り合っているようだ。



 そんな話を、俺は高みの見物とばかりに聞いていたのだが、そうも言っていられなくなった。


「益州で反乱が頻発してるだと? しかも荊州にもその予兆があると?」

「はい、漢中では張魯の残党が蜂起し、益州南部でも多数の異民族が反抗しています。さらに武陵、零陵、桂陽でも、不満の声が高まっています」


 劉璋から奪った益州だが、俺の配下を各郡の太守に上奏し、それを認められていた。

 ただし州牧については、董昭とうしょうという男が送りこまれ、成都に陣取っている。

 もっとも各郡の政治・軍事はこちらで掌握しているので、州牧はお飾りみたいなものだ。


 そんな体制で統治を進めている益州だが、急に反乱が増えはじめたという。

 そしてどうやらその陰には……


「州牧の董昭が暗躍してるだと?」

「はい。しかしそれだけではありません。どうやら南陽に程昱ていいくが派遣され、謀略の指揮を執っているようなのです」

「董昭に加え、程昱か。そいつは厄介だな」

「はい」


 程昱といえば、曹操の覇業を支えた軍師の1人だ。

 それに董昭ってやつも、曹操の下で辣腕を振るった謀臣のはずだ。

 そんな奴らが揃って、俺の支配地をかき回そうとしている。


 こいつは曹操も本腰を入れて、俺の足を引っ張りにきてるようだ。

 なんとか対応しないと、まずいことになるな。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 州牧が反乱を起こさせてるとか凄まじい汚名になりそうだな
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