14.夏口城、陥落
建安3年(198年)7月 揚州 廬江郡 尋陽
俺が荊州に兵を出し、さらに張羨が反乱を起こした結果、劉表は3方向に敵を抱えることになった。
南陽郡の曹操、江夏郡の俺、そして長沙郡の張羨だ。
さらに零陵郡と桂陽郡も、張羨に同調しているという。
さすがにここまで来ると、劉表も身動きが取れなくなる。
結局、どこにも増援が出せず、現地の勢力は孤立した。
俺はこれ幸いとばかりに張遼を増援に出し、さらに江夏郡で噂をばらまいた。
”朝廷に逆らった劉表には、朝敵として討伐命令が出た。しかも劉表は3方に敵を抱えているので、増援は出せない。江夏郡は見捨てられる”
てな具合である。
実際には劉表はまだ、朝敵あつかいまではされてない。
しかし劉表は天子さまが許都に遷都してから、朝廷に税(職貢)を納めなくなっている。
さらに天子のみが主催できる儀式を行うなど、皇帝の座を狙っている節もあるという。
まあ、劉表は俺と違って、前漢の景帝の4男 魯恭王 劉余の末裔という、立派な家系を持っているからな。
首都を捨てたような天子さまを、敬えなくなったとしても不思議はない。
いずれにしろこのネタを使って、俺たちは劉表陣営の士気低下に勤しんだ。
さらに張遼の軍勢が加わり、関羽も奮起したのだろう。
夏口城に猛攻撃を掛けたおかげで、とうとう黄祖が降伏したそうだ。
さすがは関羽、頼りになる男である。
ここは一気に、江夏郡を制圧してもらおう。
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建安3年(198年)8月 荊州 江夏郡 夏口
「よう、関羽。制圧は順調か?」
「はい、劉備さま。ここが落ちてからは、続々と我らが軍門に降っております。例の噂が、よく効いているようですな」
「そうか、それは良かった」
江夏郡の情勢が落ち着いたので、俺は夏口城を訪れていた。
そこでは総大将の関羽が、にこやかに出迎えてくれる。
「そういえば、例のヤツは見つかったか?」
「はい、一応、見つけ出して、声は掛けてあります。しかし仕えるかどうかは、劉備さまに会って判断したいと申しておりますな」
「そうか。じゃあ、呼んでもらえるか」
「かしこまりました」
しばし待っていると、薄汚ない偉丈夫が現れた。
「俺が甘寧 興覇だ」
「おい、無礼だぞ、貴様」
「いいって、関羽。ようやく会えたな。俺が劉備 玄徳だ」
関羽が無礼な態度をとがめたが、俺は気にならなかった。
なぜなら目の前の男は甘寧 興覇。
前生の孫呉で、一、二を争ったほどの猛将だ。
たしか黄祖の下にいたと思ったので、関羽に探して勧誘するよう、言ってあったのだ。
「何歳だ?」
「……25になる」
「ほう、いい面構えだな。それに腕っぷしには自信がありそうだ」
「ヘへっ、まあな」
俺がちょっと持ち上げると、甘寧は得意そうな顔をする。
実際、甘寧の身体は筋骨隆々で、かなり強そうだ。
聞けば益州は巴郡の生まれで、一時は官吏として働いたこともあるが、すぐに辞めてしまったそうだ。
その後はチンピラみたいなことをやっていて、やがて荊州の南陽郡へ流れてきた。
祖先が南陽に住んでたらしいな。
そこでもヤンチャをしていたが、張繍が攻めてきたりして、物騒になったので、江東へ移ろうとしたそうだ。
しかし夏口では黄祖が陣取っており、甘寧の通過を許さなかった。
なまじ数百人もの手下を連れていたおかげで、引っかかったようだ。
そこでやむなく黄祖の下で働いていたが、重用もされずに腐っていたというわけである。
「そうか。それじゃあ元々、俺に興味があったんだな? 実際に会った感想はどうだ?」
「まだ分かんねえよ。だけど、あまりうるさいことを言わないのは気に入った。それに徐州だけでなく、九江や廬江、そしてこの江夏郡まで制圧した手腕は、見事なもんだと思う。できれば俺を、使ってほしい」
「いいだろう。期待しているぞ、甘寧」
「ああ、がんばるよ。いや、がんばります」
俺が採用を伝えると、甘寧は嬉しそうに笑って、さっそく言葉遣いも直そうとしていた。
これでまた1人、頼りがいのある武将が増えた。
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建安3年(198年)9月 荊州 江夏郡 夏口
江夏郡の制圧が進むのと並行して、曹操が南陽郡を制圧しつつあるそうだ。
最初は宛にこもった張繍に手を焼いていたが、俺の侵攻に加え、張羨たちが反乱を起こした。
これによって劉表は、張繍への支援がほぼできなくなった。
それを察した曹操が、南陽郡にその噂をばらまいたそうだ。
これによって続々と周辺豪族が帰順してきて、宛城の中でも士気が低下した。
さらにあれこれと圧力を掛けた結果、とうとう張繍も降伏したんだとか。
その条件のひとつとして、以前の戦闘での責任を問わないというものがあった。
曹操も腹心の部下や息子まで殺されて、腸が煮えくり返っていただろうが、ちゃんと約束は守ったらしい。
まあ、前生でも曹操は張繍を許してたんだから、それも不思議ではない。
それにしても、これで賈詡が曹操の配下になっちまうんだよな。
たしか賈詡ってのは、すげえ優秀な人材らしいから、曹操の力がまた強くなっちまう。
とはいえ、それを止める手立てはないから、俺は俺で優秀な人材を配下にして、陣営を強化するしかないな。
そう思って、いろいろ探してみたんだが……
「え、黄忠って長沙にいないの? 魏延や伊籍も見つからない?」
「はい、おそらく南郡か南陽郡にいるのだと思われます」
ガーン、めぼしい人材がいない。
正確に言うと、俺の支配地にはいないのだ。
たしかに前生で荊州を支配したのは、10年以上先の話だからなぁ。
ちなみに前生で役立ってくれた馬良や劉巴、蔣琬とかは、ようやく10歳を超えたぐらいだ。
仮に見つけたとしても、幼すぎてとても雇えないよ。
トホホ、南郡を制圧するまで、人材採用はお預けだな。
かといって、すぐに南郡に攻めこむわけにもいかない。
この江夏郡は制圧したばかりで、まだまだ不安定だからな。
本拠地の徐州だって空にできないし、しばらくは統治に専念して、機会をうかがおうかね。
とりあえず甘寧をゲットしました。
実際に彼がこの時期に夏口にいたかは微妙ですが、劉備の噂を聞いて動いてたってことで。
その他の人材はまだしばらくお預けです。w




