12.集う人材
建安2年(197年)1月 徐州 下邳
揚州の2郡を手に入れた俺は、領内をさらに活性化させようと、動きはじめた。
すると都合のいいことに、あちこちから人材が集まってきてくれたのだ。
「諸葛瑾 子瑜にございます。叔父ともども、よろしくお願いいたします」
「厳畯 曼才と申します。以後、お世話になります」
「歩騭 子山でございます。故郷のためにも、精一杯つとめさせていただきます」
「ああ、みんなよろしく頼むぞ」
まず諸葛亮の兄である諸葛瑾が、呉郡にいるのを知っていたので、俺は諸葛玄から仕官を勧めてもらった。
元々、諸葛一族は徐州 琅邪郡の出身であり、戦乱を避けて江東へ行っていただけなので、脈はあると思ったのだ。
そしたら諸葛瑾が応じてくれただけでなく、厳畯と歩騭までついてきた。
彼らも徐州の出身であり、諸葛瑾と共に江東で噂になるほどの名声を得ている人物だ。
そして今の徐州では治安が高まり、揚州でも混乱は収まった。
そこへ俺が誘いを掛けたもんだから、3人そろって仕官してくれることになったわけだ。
3人とも後に孫呉を支える優秀な文官なので、人手不足の我が陣営にとっては、またとない戦力である。
それぞれ24歳、29歳、21歳とまだ若いので、今後はバリバリと働いてくれることだろう。
ちなみに彼らは孫策からも勧誘されていたのだが、そちらは辞退していたそうだ。
なぜなら孫策は、廬江郡の太守だった陸康を攻めたことで、揚州中の名家から疎まれているからである。
陸家といえば揚州でも有名な家門であり、陸康自身も声望のある人物だった。
それを袁術の命令とはいえ、攻め落として病死に追いこんだのだから、嫌われるのも当然であろう。
周瑜が属する周家や、母方の実家である呉家などは別として、孫策は揚州の知識層を敵に回しているのが実情だ。
その陣営にはすでに、張昭や張紘などの人物がいるとはいえ、孫策は伸び悩むかもしれないな。
まあ、魯粛や諸葛瑾を引き抜いた俺が、何を言ってるんだって話だが。
そして文官だけでなく、武官にも新たな仲間が加わっていた。
「お久しぶりです、劉備さま。今後はこの命つきるまで、お仕えしたく思います」
「ああ、これからはずっと一緒だ、趙雲」
前生でもずいぶんと世話になった趙雲が、とうとう合流してくれたのだ。
彼とは青州に赴いた時に一緒だったのだが、家族の不幸で故郷の常山郡へ帰っていた。
前生では俺が徐州を失い、袁紹の陣営に参加した時に、冀州の鄴で再会している。
しかし今生では早めに遣いを出して、仕官を促していた。
そして家族の喪が明け、身辺整理が終わってから、ようやく仕官してくれたって寸法である。
前生に比べて大きな兵力を有している状況で、趙雲ほどの武将がいれば、大いに活躍が期待できるというものだ。
さらにこの他にも、徐盛という武官が売りこんできた。
彼も徐州出身の武官だが、たしか前生では孫権に仕えていたはずだ。
本来なら戦乱を避けて江東にいるところを、平和になった故郷へ戻ってきたんだとか。
そして飛ぶ鳥を落とす勢いの我が陣営に、仕官してきたわけだな。
優秀な人材はいくらいても足りないから、大歓迎である。
やっぱり治安が良いっていうのは、それだけで武器になるんだな。
そういえば前生の荊州にも、たくさんの人材が集まってたらしいからなぁ。
今後もこの調子で、陣営を強化していきたいもんである。
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建安2年(197年)3月 徐州 下邳
その後も領内の内政に忙しくしていると、思わぬ訃報がもたらされた。
「劉繇どのが病死されただと?」
「はい、以前から伏せがちだったのですが、先日とうとう……」
「そうか。惜しい人物を亡くしたな……」
揚州牧の劉繇が、とうとう亡くなったそうだ。
今はその部下が次の州牧について、朝廷にお伺いを立てているらしい。
後任にはおそらく曹操の息が掛かった者が、送りこまれてくるのだろう。
すでに大きな恩を売って協調できていた劉繇を失うのは、痛手といえば痛手である。
しかし曹操も、俺の持つ利権をむやみに奪うことまではしないだろう。
だから俺には大して関係ないと思っていたのだが、使者から書状を渡された。
「太史慈どのから、書状だと?」
「はい、今回、劉備さまに使者を出すべきだと言ったのも、太史慈将軍です」
「そうか。しばし待ってもらえるか」
受け取った書状を確認すると、俺に雇ってくれないかという内容だった。
どうせ新しい州牧には重用されないだろうから、自分を買ってくれている俺に、世話になりたいとのことだ。
それこそ願ってもない話だったので、俺は即座に了承する旨を認め、使者に預けた。
もちろん、引き継ぎもあるだろうから、都合がつき次第でよいと書いておいた。
しかしそれから半月ほどで、太史慈が俺の前に現れる。
「劉備さま。これからよろしくお願いいたします」
「お、おう。こちらこそよろしくだ。ところで揚州牧の方は、どうなりそうなんだ?」
「新たな人物が、朝廷から送りこまれるそうです。まあ、私には関係ありませんから。ワハハハハ」
太史慈はそう言って、豪快に笑っていた。
なにやらひどく嬉しそうで、サッパリとした顔をしている。
そんな太史慈は今年、32歳になる偉丈夫である。
それほど若いわけでもないが、多くの戦場を経験しており、脂が乗った武将と言っていいだろう。
そこで俺は、かねてから強化したいと思っていた水軍を、彼に任せることにした。
「太史慈には、水軍を整えてほしいんだ。ほとんど原形もない状態だが、頼めるか?」
「お任せください。不肖、この太史慈、劉備さまの手足となって動くような水軍を、作り上げてみせましょう」
「お、おう。お手柔らかに頼むな」
「はっ」
なんか知らんけど、はりきってるからよしとしよう。
それにしても、面白いように人が集まってくるな。
これも前生の経験で、上手くやれてるおかげかねえ。
この調子なら、思ってた以上にでかいことが、できるかもしれねえな。
転生からたったの3年で、孫呉の重臣を6人も引き抜いているという無慈悲。
でもこの状況だったら、普通にやるよね?w
ついでに武力90以上の豪傑がすでに5人も。
やったね、劉備クン!




