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逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第2章 揚州攻略編

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幕間:劉繇と太史慈

【劉繇】


 儂の名は劉繇りゅうよう 正礼せいれい

 漢の皇族 斉の孝王の末裔よ。


 若い頃は官吏として務めていたこともあるが、最近は戦乱を避けて江南へ避難していた。

 すると天子さまから詔勅しょうちょくが下り、揚州の刺史に任命される。


 しかし揚州の都である寿春一帯は、袁術に押さえられていたため、儂は曲阿きょくあにて仕事に取りかかった。

 まずは兵を集めて、袁術の揚州支配に対抗したのだ。

 翌年には揚州牧、振武将軍の地位を得たこともあり、それは順調に推移していた。


 ところが敵に孫策という指揮官が加わると、にわかに旗色が悪くなる。

 聞けば孫策は、さきの破慮将軍 孫堅の忘れ形見というのだから、その強さも理解できないではない。

 その後は丹陽の北部を徐々に制圧されてしまい、いよいよ曲阿も危うくなってきた。


 これはいよいよ、どこかへ落ち延びねばと考えていると、徐州の劉備から誘いがあったのだ。

 劉備は前徐州牧の陶謙から、その地位を引き継いだという。

 その正当性はいささか怪しいが、彼はこの戦乱の世で、徐州をしっかり統治しているようだ。


 そして劉備は儂の身を徐州に一時かくまい、いざという時は揚州の奪還に力を貸してくれると言うのだ。

 この揚州に隣接する徐州の支配者が、儂に力を貸してくれるというのは大きい。

 そこで儂は恥を忍んで、徐州の広陵へ落ち延びたのだ。


 そしてしばし情勢をうかがっていると、いよいよ揚州奪還の機会が巡ってきた。

 劉備が寿春を攻めるのに先行して、儂に丹陽郡で兵を起こせと言うのだ。

 そのために2千人もの兵を預けるという、大盤振る舞いだ。


 儂は歓喜したが、妙な条件も付けられた。


太史慈たいしじに兵を率いさせよと?」

「はい、太史慈どのは武勇に優れ、中原でも名が知られております。彼が兵を率いれば、見事な働きを見せるであろうと、劉備さまはおっしゃっていました」

「ふうむ、それは一理あるかのう」


 劉備からの使者が、兵を率いるのは太史慈に任せろと言うのだ。

 太史慈は確かに武勇に優れておるが、許劭きょしょうなどの受けが悪いので、今まではあまり使ってこなかった。

 (注:許劭は人物鑑定で有名な名士で、この頃の劉繇に仕えていた)


 しかし後援者であり、自身も武勇に優れる劉備の言うことじゃ。

 ここは素直に、言うことを聞いておくか。


「あい分かった。次の戦では、太史慈に兵を率いさせるとしよう」

「お聞き入れいただき、ありがとうございます。ちなみに丹陽の民を味方につけるため、略奪はしないようご指示を願います」

「心得た」


 こうして丹陽郡へ攻めこんだのだが、たしかに太史慈は良い働きをしてくれた。

 以前はあれほど苦労していた攻略が、サクサクと進む。

 これは儂も見誤っておったな。


 もっと前から太史慈を重用しておれば、曲阿を追い出されることもなかったかもしれん。

 いや、それは言っても詮ないことだ。

 いずれにしろ、今後は揚州をまとめていくにあたり、太史慈を上手く使っていこう。


「今回の働き、見事であった。今後も頼りにさせてもらうぞ、太史慈」

「はは、お任せください」


 こうして丹陽郡を制圧しているうちに、劉備が寿春を攻め落としたという。

 袁術は降伏し、従兄弟の袁紹を頼って、北に落ち延びていったらしい。

 さらに劉備は、短期間のうちに九江郡だけでなく、廬江郡まで制圧しおった。


 う~む、実に見事なものよ。

 それだけでなく、呉郡をほぼ制圧していた孫策との間も取り持つときた。

 おかげで孫策との和解は成り、儂は初めて揚州全体を統率したことになる。


 あいにくと九江郡と廬江郡では、劉備の息の掛かった者が太守をしておるが、それは仕方ない。

 儂だけでは、とても維持できないからな。

 ちゃんと税は納めると言っているので、まあ上手く使ってやろう。


 その後、劉備や孫策と顔合わせをしていると、劉備が豫章郡よしょうぐんのことについて、言及してきおった。


「その件ですが、私にお任せいただけないでしょうか。実は諸葛玄どのは、我が徐州の出身なのです。なんとか説得して、私の下で働いてもらおうと思います」

「おお、そういえばそうだったな。しかしどうやって説得するのだ?」

「私の手の者を送り、徐州に招きたいと伝えます。こうして劉繇さまの下、揚州がまとまったことを説明すれば、応じてくれる可能性は高いかと。ついては劉繇さまにも、諸葛玄どのの命を保証する旨、一筆したためていただけると助かるのですが」

「ふむ、それぐらいで豫章の混乱が収まるのであれば、造作もない。後ほど、書状を用意しようではないか」

「ありがとうございます」


 豫章のことについては、儂も頭を悩ませておったのだ。

 劉備が諸葛玄を引き取ってくれるのなら、大助かりだ。

 これはますます、彼に頭が上がらなくなるのう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【太史慈】


 俺の名は太史慈たいしじ 子義しぎ

 青州生まれの無頼者よ。


 昔は青州で役人をしていたこともあるが、今は劉繇さまに世話になっている。

 しかし劉繇さまは、あまり俺のことを認めてくれはしない。

 腕っぷしには自信があるし、中原でもそれなりに名が売れてるんだがな。


 劉繇さまは今、寿春の袁術とやり合ってるんだが、最近は旗色が悪い。

 それまではこちらが優勢だったのに、孫策という小僧に情勢をひっくり返されたそうだ。

 聞けば孫策は、さきの破慮将軍 孫堅の息子だというのだから、それもむべなるかな。


 だけどこっちだって、兵力じゃ負けてねえんだから、やりようはあるはずだ。

 ええい、くそ。

 俺に兵を預けてくれればなあ。


 だけど劉繇さまは体面を気にするばかりで、俺に大役を任せてくれねえんだ。

 そうこうするうちに、本格的にやばくなってきたんで、曲阿から逃げる話になった。

 これは主人の見限りどきかと考えてたら、徐州牧の劉備さまに誘われたということで、劉繇さまと一緒に広陵へ行くことになる。


 しかも事はそれだけじゃ済まなかった。

 やがて揚州の奪還に動くにあたって、俺に指名が入ったんだ。


「俺が兵を率いて、丹陽を落とせってんですか?」

「うむ、そうだ。劉備がお前を使えと、強く勧めてきたからな。ちなみに略奪は極力しないようにとも言われている」

「ッ!……その任、承りました。必ずや、丹陽を落としてみせましょう」

「うむ、頼んだぞ」


 なんてこった。

 あの劉備さまが俺を推薦してくれるとは。

 以前、劉備さまの兵を借りて、孔融どのを救ったことがあるから、そのせいかな。


 誰かに認められるってのは、気分がいいものだな。

 これは今回のお役目、絶対に失敗できねえ。

 見事に期待に、応えてやろうじゃねえか。


「野郎どもっ! 俺に続け!」

「「「おうっ!」」」


 まずは手薄だった江乗こうじょうの城を、一気呵成いっきかせいに奪い取った。

 その勢いに乗って、湖熟こじゅく秣陵ばつりょう、丹陽と制圧していくと、続々と周辺の豪族どもが恭順してくる。

 それは劉繇さまの州牧としての権威もあるが、背後に劉備さまがついてるってのも大きいだろう。


 そのうえ俺たちは連戦連勝なんだから、豪族どもが手のひらを返すのも当然か。

 しかし以前はあんなに苦労してたのに、こうも上手くいくものだろうか?

 行く先々で民に歓迎されるのも、不思議でしょうがねえんだよな。


 劉備さまに釘を刺されたせいで、略奪をしてないのが大きいな。

 そのうえで劉繇さまの正当性を、あちこちで喧伝けんでんしてるようだ。

 ただしそれをやってるのは、劉備さまの手勢らしいんだがな。


 戦ってのは武力だけでなく、こういう情報も武器になるんだなぁ。

 参考になるわ。

 こいつは俺も、仰ぐ旗を考えなおすべきかねえ。

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