表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蓋世の巨人   作者: ヒョーゴスラビア総統
1/5

宝の腐敗


「我々は何のために戦ってきたのか」


 潮を含んだ生暖かい風に乗せられてその台詞が流れた。


 戦争というものは忌み嫌いそして憎悪するものと教えられてきたものだろう。


 だがしかしこう教えられたのではないかな?


 戦地にゆく兵士(英雄)は褒め称え、尊敬し、万世に伝えるものと。

 

「我々は何のために戦ってきたのか」


 そう何度もこの一世紀にも満たない短い生涯に何百回と問い出されてきた。


 戦時中で有れば敗北主義と言う名の無辜(むこ)の罪で拷を受け質疑が問われる。


 軍国主義による軍法に則るものだ。士気を下げる兵ほど強敵は存在しない。


 国家主義という後世では悪とされるものも当時では一種の催眠術にかけられていた。


 と、自身の権威を守る保守派は我々軍を必要悪として今現在蔓延(はびこ)っている。


 そして戦争を知らぬ子に戦争を始めた因果も告げず豚のように死んでいった。


 何とも無責任、何とも徒疎であるか。


 これが敗北した国家方針であると言うならば、敗北した国民の総意であるならばこの国はかつての国ではない。


 ただの私利私欲に塗れる雑種の国だ。


 そんな国を守る為に俺の戦友や肉親は死んでいったのかと思うと怒りを通り越して呆れしか無い。


 先日、靖国を穢す輩が現れ、一人の婆が泣く報道を見た。


 彼女の意見を共感できた。


 それと同時に報道組織の腐敗も見て取れる。


 戦前の報道組織も糞で有ったが今も変わらぬとは。


 これではいつまで経っても腐敗した立て直しが出来ぬぞ。


 軍部が作ったとはいえ、命令したとはいえ、プロパガンダを流布していたのは何処の誰だったかを俺は忘れてはいない。


 そして今では政権と芸能の悪事を流す偽善となる。


「悪の小競り合いほどの醜いものは無いな」


 昔、名のある寺で一つの絵を見た。


 その絵は来世を表している物だと坊主は説いた。


 題材は餓鬼道。


 飢えに苦しんだ者をモデルに描いた苦渋の作品。


 餓鬼道とは欲望にかられた者が落ちる地獄の上の道。


 容姿は違うが心の色、行いは似て似つかぬものだ。


 金という飯に群がり、取られようとすれば汚職という爪で相手を殺す。


「まぁ、国を抜け出した俺が言えることでは無いが」


 地球と呼ばれる土の塊の星に人の外皮の様に海という塩水が浸っている。


 いや土というのは語弊があった。


 詳しくは個体の鉄が核となりそこから黒餡饅頭のように過大な圧力によって液体と化した鉄と岩石が纏い、数十基米(キロメートル)の岩盤となって地球は構成されている。


 その上にガラスの素となる砂のケイ素や空気の酸素によって酸化した酸化鉄が地平線を保っていた。


 と、後に公とされた。


 しかし人類は直接見たわけではなく爆弾による反射効果、領域外からの異物によって地球の構成物を仮定しただけに過ぎない。


 霊長類の頂きに立つ人類はいつしか太平洋と呼んでいた。


 名の由来は太平の様に常に穏やかであり一切の無常を感じさせる大海だと。

 

 大西洋とは違い氷山が千人を食す、多くの奴隷を一瞬で食す、海に生きる財産を食す賊、万人が沈むことしかしない忌み海とは違うと地中海の様に五千年という人類有史の戦を繰り広げる海とは違う意として付けられた。


「だが、それは違うな。地中海ほどの死は呼んではいないが先の大戦により数多くの人が生きる願望を持って底に落ちた。暗い海の底にな」


 迫りくる鉄の鳥より降り注ぐ弾雨の中我々はそれを打ち落とす。


 海に潜む潜水艇により打ち込まれエンジンを焼かれ金属装甲の船艇は塊へ、人は肉へと、海の餌となる。


 致命傷を受けて伏せる者、火傷を負って沈む者、愛船と共にする者を海は無惨にも貪り食す。


「俺は運が良かったのだろう。残り少ない補給物資が詰まった荷に捕まり最も近かった島に辿り着いた。その島も戦場ではあったがな」


 そう告げるのは半世紀の雨風によって錆びた骨組みの九七式中戦車に腰を下ろした翁。


 白髭を生やし移り変わった東洋人の証のその黒髪は白髪となっていた。


 側から見ればただの老いぼれにしか見えぬ。


 手足を見れば並の翁では無いと、直感で知ることになる。


 歳相応の肉体を払拭する大木の手足には多くの銃槍と剣傷が歴戦の英雄を彷彿とさせる。


 その腕で鉄塊を触る様は、まるで孫を連れる翁にしか見えない。


「次いつ来れるか分からんからな」


 その言葉に嘘偽りはなかった。


 実際俺の身体はあと何年持つか分からん。


 歳を食うことによって少しずつ意識が薄れていくことが多くなった。


 それもある、それもあるのだが。


 もう一つ懸念があった。


 杞憂であって頂きたい。


 その太平洋に今にも石炭、石油など、数億年の年月を経て生成された有機物を電気と呼ばれる万能エネルギーに変えては地球温暖化現象を引き起こし小島と判別させたこの島に沈むことを余儀なくされる。


 一部の学者は地政学的に氷河期が訪れ地球平均気温が零下四度下がると推測しているがそれもまことしやかに信じがたいものだった。


 論より証拠と呼ばれる様に地球平均気温のグラフは鮭の川上りのように上がっていく。


 何は人だけでは飽き足らずこの島も食すだろう。


 その元凶は我々(人類)なのにな。


 その前にこの戦友(戦車)に別れを告げたかった。


 あと何度来れるだろうか。


 ………。


 噂をすればだ。


 また来たか。凄まじい強い眠気。


 古希(七十)を迎えてからかこれが習慣となってしまっている。


 最初はただの昼寝感覚だったが三ヶ月も続けば病の種と思い始めてくるのも無理はなかった。


 一応、国の保険を使いMRI?とかいう奴を使い脳を調べたが異常は見られなかった。


 この国技術も良くなったとも思えるが良いか悪いか。


 のちに知ったがこれがあの原爆を元に作られた物だと知った時は驚かされた。


 憎きあの核の光は、あの目に見えぬ原子の光は使い方によっては人を解体せずに見れる物にさせるとは。


 物は使いようとは言うがここまで。


 化学技術というのは発展するほど革新的になるほど戦時にななった際には人類の敵になるものだ。


 戦前、汽車ほど便利な物は皆無いと思えるほどだった。


 しかし戦時になった瞬間、それは軍備を最速で運搬するものとなり、最速で兵を動かすものとなり、捕虜の死の箱へと化していく。


 車も同じだ。船も同じだ。科学とはそう言う物だ。

 

 ダイナマイトも本来は鉱山を効率的に発掘される為に作られた、飛行機も空に憧れを抱いた音たちが作った物だ、核も増えずぎた人口を裕福にさせる為に膨大なエネルギーを生み出す目的として作られたものだ。


 しかし軍部はこれらの機器を人を殺す為に作らせたものだ。


 人に恩恵を与える物は人の意思で思想でいとも簡単に人を死に至らしめる。


 悲しいな。人類の敵は人類とは。これが墓穴を自身で掘ると言う事だ。


 ……。


 これ以上起きていると強制的に脳が眠る。


 戦友に腰を下ろし、瞼を閉じる。


 海馬の底の底に沈めていた記憶が海豚が貯めていた息を吐き出す為に海面に上昇する速度と同等で浮かび上がってくる。


 思い出したくもない記憶。捨てようとも捨てようとも、忘れようとも忘れようとも、肉に群がる蛆虫のように蘇る。


 今の日本ではトラウマと言うのだろう。


 生物学では危機管理能力によるもので同じ恐怖体験が行われた際に前回より速い速度で対処できるようにする為のものであるとされている。


 いや実際この記憶は良い効果を発揮した。


 アメリカ南北戦争の際の名言、アメリカ将軍の友が言っていたある言葉を思い出した。


「戦争がむごたらしいのは良い事だ。でなければ我々(人間)は戦争を好きになりすぎる」


 と言う言葉だ。


 的確で正論で人間の本質の皮肉った喜劇のような言葉だ。


 実際そうだ。


 孫に見せてもらったゲームと言うものをやった事がある。


 FPSと呼ばれる戦争ゲームが今現在流行っている。


 よく言われる事はこれはただのゲームで二次元内で電子演算で行われている事だ。


 だがやっている事は違わない。


 仮想の敵を殺す(・・)と言う事には変わりはない。


 やはり人というものは誰でも生を貪りたい獣である。


--------------------


 面白かったという方は、

・ブックマーク

・評価「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」

 をしていただきますと嬉しいです‼︎

 次作もお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ