48.売れっ子錬金術師
ローガンに礼を言われたレオノアは、すぐに去って行ってくれたことをありがたく思いながら、本を閉じた。見つからなくてよかった、という心境である。
(さっきまであの子たちがいたものね)
一応は近づいて来なくなったが、どうしてか悪意はまだ自分に向いている気がした。そもそも、本当になぜレオノアに構うのかわからない。
溜息を吐いて、立ち上がった。
(今から寮に戻って、着替えてシュバルツ商会……サミュエルに呼ばれたけれど、何かあったのかしら)
課題は終わった、と鞄に入れるふりをして空間魔法の中に入れた。最近、鞄が水没していることもあるが、中身がいらないものばかりであることに気づかれていないのは幸いか。
図書室から出ると、金色の髪が視界に移った。第一王子ルーカスだ。話すこともあまりないが、やはり近くで見ることが多い気がする。だが、雲の上の存在のことを考えても仕方がない。そう考えて、レオノアは本日の予定をこなすために動き出した。
いつものようにシュバルツ商会を訪れると、ご機嫌な様子のサルバトーレとカロリーナがいた。そのままサミュエルの部屋に行くように言われる。
扉の前まで来て、ノックをしようとすると「入っていいよ、レオノア」と声がかかった。
「なぜわかったの?」
「足音でなんとなく……かな。それより、来てくれてありがとう」
嬉しそうに微笑むサミュエルに一瞬、ドキリと胸が高鳴った気がした。そして、胸を押さえて「なんだったのかしら?」と首を傾げた。
「君が作ったアミュレットだが、主に高位貴族の間で非常に売れている」
「……よほど、疑うことが多かったのね」
「生まれた時からそうあるべしと育ててきた子どもたちが、たった一人の女に侍り、貴族としての義務よりもその女を優先するようになっていったら、流石に魅了を疑うだろう。ハーバー侯爵は認めていないが、周囲からの突き上げもあって立場を落としているようだ」
「まぁ……」
自ら引き入れた愛しい女とその娘によって破滅するならば、それもきっと幸せだろう。そんな皮肉を口に出さぬまま口角を上げた。悪いことを考えています、といった顔だが、その表情がよく似合うのがレオノアという少女だった。むしろ、その姿が美しい。
「それにあたって、作った錬金術師……つまり君に直接依頼をしたい、お抱えにしたいという問い合わせが多く寄せられている。現状、君も関わりたくないだろうと判断して隠しているが」
「このまま隠しておいてくれると助かるわ。貴族との縁なんて、厄介だもの」
「欲がないな、君は」
「あら、私ほど欲深な人間はそういないと思うけれど」
髪を耳にかけて微笑む。
レオノアは欲しいものは欲しい。時間がかかっても必ず手に入れる。自分にそういった資質があると思っている。欲がないと言われるならば、まだそういったものに出会っていないだけだ。
「説得力がないよ」
サミュエルの声音は優しい。きっと、本当だとは思っていないのだろう。
「まぁ、自分が売れっ子になった、ということは自覚しておくといいよ」
サミュエルはそう言ってレオノアの前に袋を置いた。中から金貨が見えてレオノアは小さく悲鳴を上げた。
「やっぱり、欲がないな」
サミュエルは苦笑しながら「そろそろ、オーダーメイドの錬金釜にしたら?」と売上金の袋を指先で弾いた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
レオノアは持っているのも怖いのでサミュエルの相談に頷く。
「まさかこんなに早く作ることになるなんて……」って思ってる。




