96.セイランのスキル
とりあえず一旦、セイランにカードに戻ってもらった。
見るとカードの絵柄が、目元に手を添えて「キラッ☆」って感じのポーズに代わっていた。
……夜空といい、そのポーズ流行ってんの?
『名前 晴嵐 LV15
種族 ハーフ・エルフ
戦闘力 ☆☆☆
スキル 偽装、逃走、色魔法(lock)、精霊魔法(第一段階)
忠誠度 最良』
忠誠度が最良になってる。早いな。小雨なんてまだ『高い』なのに。
そして以前よりもレベルが上がり、『偽装』、『逃走』、『精霊魔法』の三つのスキルが使用可能になっていた。
(……これ、間違いなく終末の楽譜の影響だよな?)
というか、それ以外考えられない。
あの時のセイランは明らかにおかしかったし。
(終末の楽譜って終末の力を解放するって効果だったよな?)
だとすれば、やはりセイランも終末世界と関係があるのだろう。
その繋がりや理由はまだ分からないけど……。
とりあえず今はスキルの確認だな。
『精霊魔法』の後ろにある第一段階ってのはなんだろうか?
初めて見る項目だ。
・偽装 アクティブ
自分の姿を変えられる
但し、極端にサイズの違う姿にはなれない
CT60秒
・逃走 パッシブ
逃走時における敏捷上昇(+30%)
・精霊魔法(第一段階)
物体に宿る精霊を召喚する
CT60秒
「……物体に宿る精霊?」
どういうことだろう?
他の二つのスキル――偽装と逃走は説明で分かったが、精霊魔法に関しては実際に使ってみないと詳細は分からないな。
セイランをカードから戻す。
「……つれてってくれるよね?」
セイランはじっとこちらを見つめてくる。
「……駄目だ」
「!」
がーんとセイランの表情が一気に暗くなる。
雷蔵や夜空たちも「えぇ!?」って表情になる。
……お前ら、そっちの味方かい。
「うぅ……りゅーぅ……」
セイランも目じりに涙を浮かべる。
「話は最後まで聞けって。まずは装備を整えて、スキルを検証してからだ。じゃないと危ないだろ? それが終わったら……連れてってやるから」
「……! うんっ」
一転、花の咲いたような笑みを浮かべる。
雷蔵たちも「やったー」と大喜びである。
おかしいなー、セイランの奴、俺より慕われてない?
(まあ、待機室のおかげで、事前にスキルが検証できるようになったからな)
以前なら、ストーリーなりデイリーなりに挑んで、そこでぶっつけでスキルを試すしかなかった。
でも今は訓練所がある。
俺も新しく獲得したスキルを試そう。
「えーっと、セイランの装備は……どんな武器がいいか……」
「りゅーぅとおんなじのがいい!」
「俺と?」
「うんっ」
「……それは駄目だ」
「なんで?」
「俺と同じ装備だと変態装備になるだろ」
「じゃあ、へんたいがいい!」
キラキラした目で言うな!
「絶対に駄目!」
俺だけならまだしも、セイランにそんな恰好させるなんてとんでもない。
パン一に乳首シールだぞ? 女の子にそんな恰好、絶対にいけません。
「う~……」
「セイランにはセイランに合う装備を見繕うから。な?」
「……わかった」
こんな変態装備のどこがいいんだよ、まったく。
俺はショップのリストから、セイランに合いそうな武器をチョイスする。
「あ、これなんていいんじゃないかな」
・シルバーバレット
攻撃+12、防御+5
女性のみ装備可能
銃弾に『浄化』もしくは『不運』を付与可能
俺のファントムバレットに似た効果だが、こっちの方は浄化か不運のどちらかを選択して付与できるようだ。
攻撃値は低いが、有用な装備だな。
「……まるでセイランのために用意されたような武器だな」
というか、確実にそうだ。
俺の変態装備といい、ポイント交換やショップには、その時々で必要になる装備が入荷している。
というわけで、シルバーバレットを購入。
それと防具をいくつか見繕う。
「わぁー♪ りゅーぅ、ありがとうっ」
「ウガォウ♪」
「ウキキッ♪」
セイランは自分の身に着けた装備に、嬉しそうに体を弾ませる。
雷蔵や夜空も「うんうん、似合ってる」とご機嫌だ。
「それじゃあ、スキルの検証だ」
「うんっ」
訓練所で、セイランに『精霊魔法』を使用してもらう。
「――せーれーまほー!」
セイランの声と共に、シルバーバレットから、銀色の精霊が出現した。
親指くらいの人型で背中に小さな羽が生えている。妖精っぽい見た目だ。
精霊はセイランになにかを耳打ちすると消える。
「えいっ」
セイランがシルバーバレッドの引き金を引く。
銃弾は的から大きく軌道を外れたが、次の瞬間驚くべき変化を見せた。
弾の軌道が大きく曲がったのだ。
そのまま用意していた的のど真ん中を撃ち抜く。
「わぁ、あたったっ!」
「これは……まさか弾が自分で軌道を変えたのか?」
物に宿る精霊を召喚する、か。
先ほど現れたのは、シルバーバレットに宿る精霊だったってことだな。
「こりゃまたとんでもないスキルだな……」
セイランの腕が未熟であっても、その武器がセイランの意思に呼応して、最適の結果をもたらしてくれる。
これはかなり強力なスキルだ。
俺のスキルとの相性もいい。
それに第一段階ってことはまだ成長性があるってことだ。
「こりゃ確かに大したもんだ」
「りゅーぅ、あたしすごい?」
「ああ、凄いよ。これからみんなと一緒に頑張ろうな?」
「うんっ」
というわけで、セイランのパーティー入りが決定した。
その後、俺のスキルも検証し、雷蔵たちと陣形やスキルの組み合わせも試した。
「んじゃ、前置きが長くなったがデイリークエストに挑戦すっか」
「うんっ」
『デイリークエストを開始します』
『デイリークエスト 討伐
クリア条件 モンスターを全滅させる
成功報酬 ポイント+10、ランダム装備品』
今度こそイエスを選択。
体が白い光に包まれた。
視界が晴れると、目の前に広がっていたのは静かな廃墟だった。
といっても、終末世界のような現代風じゃなく、中世ヨーロッパ風の石造りの建物だ。いかにもゲームのフィールドでありそうな感じだ。
「昨日とフィールドが違うのか……」
昨日のフィールドは湿地帯だった。
土曜日の採取クエストは森林、日曜のボスクエストは闘技場だったし、ひょっとしてデイリークエストって曜日ごとにフィールドが変わる設定なのか?
それはそれで面白そうだ。
さっそく雷蔵たちを呼び出すと、前方からモンスターが現れた。
「ブヒヒ……」
でっぷりとした体躯に豚の頭。
手には石で出来た斧を握りしめている。
『モンスター図鑑が更新されました』
『モンスター図鑑№18 オーク
アルタナ全域に生息する人型のモンスター
嗅覚に優れ、人並外れた怪力を誇る
肉質は脂が乗って旨味が強く、部位によっては高級食材
特に睾丸は精力剤として希少性が高い
討伐推奨LV9』
「……オークか」
ゴブリンと並ぶメジャーなモンスターだな。
てか前半の説明はともかく、後半よ。
あれ、食べるの?
あと睾丸って……。いや、確かに現実でも食材か。
フグの白子とか普通に高級食材だもんな……。
鶏とか豚の睾丸も普通に食えるんだったっけ?
海外だと割とメジャーな食材だった気がする
「まあ、ともかく今の俺たちの敵じゃないな」
俺はさっそく『ソウルイーター』を構えると、オークに接近。
一気に首を刎ねる。
『経験値を獲得しました』
『ソウルイーターが魂を吸収します』
『現在のストック数は19』
『攻撃補正は+0.1%』
『使用可能なスキルはありません』
まだまだストックが足りないか。
「ブモォォ」
「ブーゥ」
「プギゥー」
すると更に三体、オークが出現する。
「皆、今回はサポートを頼む。止めは俺に譲ってくれ」
「ウガォゥ!」
「きゅー!」
「ウッキィ!」
「うんっ」
『ボー』
その後、俺たちは次々と現れるオーク、ゴブリン、シャドウ・スネイクを倒していった。
そして十五体を倒したところでアナウンスが鳴った。
『おめでとうございます。デイリークエストをクリアしました』
昨日と同じで討伐クエストは十五体で打ち止めのようだ。
ソウルイーターに十五体分の魂をストックすることが出来た。
『ソウルイーター
現在のストック数33
攻撃補正+0.3%
使用可能なスキル 魂魄斬り(消費ストック10)』
攻撃補正は10体ごとに0.1%のようだな。
最大で20%だったはずだから、ストックは二千体ってことか。
魂魄斬りってスキルも使えるようになったし、次の周回で試してみよう。




