やっぱりパワーレベリング
ガハハガハハと笑っていたトッドさんを追加した我ら王子様パーティ。
騎士が3人、侍が1人、闘士が1人に賢者が1人に高司祭が1人。そして子供が1人だ。
だいぶ前衛に偏っている。そして子供1人が意味不明である。
村だった場所からダンジョンまでは軽い調子で来ていた。
で、引き締めるときは引き締めると言っていたメンバーだけど……。
「ふっ!」
「きゃうん!」
トッドさんの蹴りがさく裂し、コボルドが宙を舞った。
ダンジョン内、洞窟のエリアにあたるこの場所で天井が低い。天井にたたきつけられたコボルドは、そのまま空中で消えていき、地面にドロップ品であるコボルドの毛が落下するのみだ。
「これは楽でいいな」
「目的の階層まではすぐに着きそうですね」
周りはこんな感じで緊張感はまったく感じない状況だ。
1階から3階まではコボルドとレッドウルフのエリアで、どちらも敵と見るやまっしぐらに向かっていくタイプの魔物らしい。
そんな魔物を見かけると、まっしぐらに突っ込んでいき敵を葬るトッドさん。
なんかやる気に満ちているね。
そんな状況を眺めている僕はまた千早の腕の中だ。ダンジョン内で再びだっこである。自分の足で歩きたい、ダンジョンを動き回りたいっ!
「コボルドはつまんねーんだよなぁ」
「その割にはきっちり片付けてくれますな」
「なに、暇だっつってついてきたんだ。それなりに働かないとだろ?」
「普段からダンジョンにこもってるわけじゃないんだな」
レオン殿下が代表して聞いている。
「いつもなら下の層に潜ってライドブッカーを倒してるんだけどな。聞いての通り外のコボルドの対策に人を取られちまっているんだ。ライドブッカーがいるエリアは自動人形もいるからソロじゃキツイ。だから暇してたんだわ」
「なるほど」
「魔法が飛んでくるもんね」
「そういうこった」
個人的な感想になるんだけど、魔法って厄介だよね。基本的に避けるか同じく魔法で相殺するくらいしか対策がないんだもん。
「ライドブッカーの特性を知っているんだな。よく勉強をしている」
「というか、他にやることなかったという感じ?」
トランプもどきを作る前まで、やることといえば本を読むことくらいだったもの。
今は本を読む、勉強をする、魔法の練習をするとやることは多めだ。
「ジルベールくらいのころなんか満足に本も読めないような気が……」
「どうだったかなぁ」
「オレァ今でも本は読めん! というか簡単な字しか読めんし書けん」
「冒険者だとそうだよな」
「いや、冒険者になってから覚えたってやつは結構多いぜ? 依頼書とか自分で読めないとわかんねーからな」
確かにそうだ。
「でもトッドは今でも読めないのか」
「勉強はしたぜ? 簡単な依頼書なら読めるが、本となると読めん」
「僕も辞書を片手に読む感じかなぁ。知らない単語が多すぎる」
「辞書を引く5歳児?」
「我が弟ながら……」
「実際に辞書を片手に本を読んでましたよね」
「ずいぶん見慣れましたけど、確かに……」
「ジルベールちゃんはお勉強家なんですね」
「……今度辞書をプレゼントしよう」
「貰えるなら魔法の本とかのが欲しいかなぁ」
「本か、軍盤の本なら大量にプレゼントされたな」
「それは殿下が迂闊なことを言うからですよ」
「ですな」
殿下は軍盤の本が欲しいとか人前で言ったのかな? もしそうなら取り入ろうとした貴族達から大量に届きそうだ。
そんな話をしつつ、ダンジョンの中でも特に緊張感なく進んでいった。
特に危険もなく、イベントもなく、目的の階に無事に到着するのであった。
「わあ!」
洞窟エリアから一遍、小高い丘のような景色のいい世界が広がる。
意味不明だけど、これがダンジョンだ。
「ここが目的の階層だ。ジルベール、おさらいをしよう」
「はい、おじさん」
「お前が倒す魔物はなんだ?」
「ヒュージヒューマスポアです!」
「そうだ。どんな魔物だ?」
「人の大人みたいな形の、歩くキノコ!」
「ま、まあそうだな……間違ってはいない」
イラストも見たからね!
「倒し方は?」
「遠距離から火の魔法で攻撃します!」
「注意することは?」
「爆発系の火の魔法を使わず、アロー系かスピア系で、できれば一撃で倒すことです!」
「そうだ。なぜ爆発系を使わない?」
「爆発させると、キノコの胞子が飛び出すからです!」
「その通りだ。千早、ジルベールを下ろしなさい」
「はい」
出かける前と、出かけた後の馬車の中、そしてここに向かう前の村の跡地、その三か所すべてで何度も聞かされた注意事項を口にする。
他の注意事項といえば、攻撃をする際にはどうやって攻撃をするかを口に出すこと、同じマップ内にいる牛の魔物『ミルオックス』に手を出さないこと、おじさんの指示には必ず従うことだ。
抱っこ紐で括られて千早に運ばれていた僕が、ついに大地に降り立った!
うん、みんなの行軍速度に明らかについていけないとはいえ、こうやって運ばれるのもなかなか堪えるんだぜ?
「では早速。あいつに魔法を撃ちなさい」
「は、はい。ファイア・アロー行きます」
初めての反撃してくるものとの戦闘に、自然と体が強張る。スリムスポアや穴の上から魔法を撃つのと違い、こいつは真っすぐ僕に向かってくる相手だ。
緊張をしつつも僕は杖を前に出すと、杖の先から炎の矢を10発ほど放った。
人間の大人サイズのヒュージヒューマスポアは、炎の矢に貫かれあっさりと絶命。体が光に包まれて消えていく。
スポアの時より急激にではないが、体の中から力が湧き上がってくる感じがする。
「威力を考えると3発で十分だ。魔力も無限ではないからな。次、右の相手だ」
「はい、ファイア・アロー行きます!」
おじさんの指示のもと、ターゲットを次々と倒す。
その間に殿下達はミルオックス退治だ。本来僕の護衛である千早と千草はそちらについていった。トッドさんが来てくれたので、バランスを考えてそっちに二人はいかせた。
ただ立って眺めさせるにはもったいない。二人にも経験値を稼いでほしい。
「おーおー、やるなぁ」
代わりに一緒にいるのはトッドさんだ。彼が僕達の護衛を買って出てくれたのである。
「次、奥の」
「ファイア・アロー!」
「最後はあいつだ。スピア系で倒しなさい」
「フレイム・スピア!」
丸太のような太さの炎の槍が、ヒュージヒューマスポアを上半身ごと飲み込み、大地を削った。攻城兵器でも生み出した気分である。
「よし、いいぞ」
いや、威力がおかしいでしょ……。
「よしじゃねえだろ。ガキに何を教えてんだ」
「うん、僕もそう思う」
今のは頭のおかしい威力だったと思う。僕はシーフなのにえらい威力だ。本職の魔術師系統になったら30パーセントの威力上昇補正がつくんだよ? しかも威力上昇補正の装備で固めたらもっと上がるんだよな。
「威力は高いに越したことがなかろう」
「後ろがあぶねえっつう話だよ。打ち下ろしの地形だから被害は出てねーけど、おもっくそ地面を掘ってるじゃねえか」
「言われれば確かに。忘れていたな……ジルベール、もう少し威力を下げて構わないぞ」
「うーん? でもどうやるの?」
「手を抜いて打てばよい。魔法名も言わず、こう出ろとイメージして放つのだ。このようにな」
おじさんは言いながら手を上げると、細身の炎の槍を生み出す。
そう、槍といえばそんなイメージよね。
「やってみる」
「では標的はあいつだ」
おじさんに言われるがまま、フレイム・スピアを放つ。
炎の槍に貫かれたヒュージヒューマスポアは、あっさりと光の粒子となり消えていった。
「そんな簡単にできるもんなのか?」
「現物を見せればイメージしやすかろう」
「うん。分かりやすかった」
「そ、そうか……なんかすげーな」
トッドさんが動揺している。他の魔術師や魔法使いはこんな感じじゃないのかもしれないな。
「見える範囲のスポアがいなくなったな。少し移動しよう、湧きポイントを知っている」
「ああ、案内を頼む」
「おねがいします」
トッドさんは先導を始めて、ほんの4,5歩で僕を掴んで肩に乗せた。閣下ばりの安定感である。
「お前の足に合わせるのはきつい」
「すみませんね」
僕の3歩4歩分がトッドさんの1歩になるんだもん、移動速度に関しては勘弁してください。




