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命名:ミニスカ袴

「では儀式を取り仕切る。ジルベール=オルト、前へ」


 お父さんの言葉に、僕は慌てて立ち上がる。


「はぁ……はい」


 危ない。お父さんに睨まれてしまう。

 それと僕が前にでるの? 首を捻っていると、お母さんが小声で教えてくれた。


「せっかくだから、ジルちゃんもするのよ。してなかったでしょ?」

「あ、うん」


 お父さんとお母さんは前から儀式を行うつもりだったらしい。

 これも家族の愛だろうか。そう考えるとこそばゆい。


「千草=シャーマリシア、前へ」

「はい」


 僕と同じように千草さん……千草も前にでる。ただ僕には並ばず、一歩後ろに立った。


「千草、並んでいいから」

「ですが……」

「お姉さんにいいところを見せたいでしょ? こんなことで命令させないで」


 横目で確認すると、千草が遠慮がちにうつむいた。


「ジルの言う通りだ。それにこれは古より伝わっている大切な儀式でもある。並びなさい」


 お父さんにも言われてしまえば、千草も観念するしかない。

 彼女は意を決して一歩前に出た。

 頼むよ、転ばないでくれ。


「二人とも、それぞれの職業の書を前に」

「「 はい 」」


 お父さんと僕達の間には横に長いテーブルがある。その上に僕は僕の使った魔術師の書を、千草はこれから使う高司祭の書を取り出した。


「ジルベール=オルト」

「はい」


 間近で見るお父さんは、いつもの騎士服ではないし、かといって儀式を取り仕切るような神職者の格好でもない。

 僕のお披露目式でも着ていた礼服で、オルト家の家紋も入っている。領主としてのかオルト家の当主としての正装かな?


「これより汝には、魔術師としての力を授かる。その力を正しいことに、人々のために使うことを誓うか?」

「誓います」


 もうなっているけど、正式に儀式として受けるならこんな流れらしい。


「よろしい、オルト家領主アーカム=オルトが、汝の誓いを確かに聞いた。では書を開き、序章を読み上げなさい」

「はい」


 僕は魔術師の書を開いた。


「魔術とは世界の神秘。その神秘を扱う者を魔術師という。知識の神が生み出せしその魔力を研ぎ澄まさん。その力を持って神秘に近づかん」


 シーフだった僕が、もう一度魔術師に戻ってしまった。あとで直そう。


「千草=シャーマリシア」

「はい」


 今度は千草の番だ。


「これより汝には、高司祭としての力を授かる。その癒しを平等に、傷付いた人々に使うことを誓うか?」

「誓います」


 どうやら職業によって、問いかける文言が違うらしい。

 でもあんまり難しくないね。殿下でもできたんじゃない?


「よろしい、オルト家領主アーカム=オルトが、汝の誓いを確かに聞いた。では書を開き、序章を読み上げなさい」

「はい」


 千草が本を開く。


「神官を極め、司祭を上り詰めた者が高司祭と呼ばれるのではない。癒しの女神の神意に従い、苦しむ者、救いを求める者に手を差し伸べるものを高司祭と呼ぶ」


 千草が職業の書を読みあげると、徐々に職業の書が光を放った。


「汝らが得た力は常軌を逸する力になる。誓いを忘れず、己を律し、人々の希望になることを我は望もう」

「「 ありがとうございました 」」


 お父さんの言葉を最後に、僕と千草は頭を下げた。

 一応クレンディル先生に教わった作法のとおりにできたはずだ。


「千草、息子の世話も頼む。こうみえてやんちゃでな」

「は、はい! こちらこそ、このような機会を与えていただき、感謝しかありませんっ」


 嬉しそうに職業の書を胸に埋めて返事をする千草。


「やんちゃ? かな?」

「ジルちゃんはしっかりしてるけど、結構大胆だものね」


 前科は一犯しかないと声高に言いたい! 実際にはシーフの書も使ったから二犯ですけど!

 お母さんの言葉に、儀式を見守っていたみんなから笑いが漏れる。

 千草が僕の肩に手を置いて、振り返るように指示をくれた。

 その誘導に従い、千草と一緒に振り向いて、みんなに礼をする。

 拍手だ。

 こういうイベントは恥ずかしいけど、ちょっと嬉しい。

 日本では子供の頃以降、こういったお披露目的なのはなかったからね。






「うう、ありがとうございばじだ、わがざま」

「なんで千早が号泣なの?」


 千早さん、巫女さんみたいな袴姿なのに袴がミニってちょっとエロくない?

 しかも白いハイソックスで肌面積減らしてるところがまたエロい。


「私は、神官になった時以来、こういった公の場での儀式に参加できませんでしたから」

「ああ、なるほど」

「ぞのどぎは、あだじはみれながっだがら!」

「はいはい、次は姉さんの番だからね? 姉さんの格好いいところ、ちゃんと見せてよ?」

「あだじは、ぞういうのごないがもじれないじ」

「その、侍の次のやつ? 剣豪だっけ? なれたらしようね」

「はい~」

「うう、良かったわねぇ」

「あ、お母さん」


 お母さんも潤んでるよ。


「おぐざま! いしょうまでおがりじでじまい」

「いいのよ、予備のが入って良かったわ。そのまま使っていいから、あとで裾とかは直しましょうね」


 スタイルが近くて良かったね、でも手足はお母さんの方が長いらしい。その辺も日本人っぽい。


「そうですね。奥様のスタイルの良さに絶望しました。腰回りはゆとりがないし、胸も余ってますし……詰め物でなんとか……」


 そういうのは男がいないところで話してね?


「しばらく殿下の補佐に入ってくれるんだってな? 千早、千草、よろしく頼む」

「私も同行しますので、一緒に殿下を守りましょう」

「殿下のJOBって聞いていいのかな?」

「ああ、騎士だぞ?」


 お兄ちゃんとお義姉さんだ。


「つまり、騎士が3人に侍が1人、高司祭が1人……バランス悪いね」

「ビッシュ伯父上が来るから問題ないさ」

「そうなんだ……大人数だね。いいなぁ」


 みんなでダンジョン、楽しそう。


「あはは、でもごめんね。連れてはいけないの」

「いいよ。僕の足じゃ文字通り足手まといだし。お義姉ちゃん、お兄ちゃんと僕の従者をよろしくお願いします」


 歩幅も体力も違うのだ。子供ボディは伊達じゃない。


「素直ないい子ね! やっぱり可愛いっ!」


 お義姉ちゃんの好感度が上がったらしい。頭を撫でてくれる。


「そういえば噂のビッシュおじさんは?」

「殿下の仮屋敷の警備体制と護衛の兵士や騎士達のシフト調整だな。殿下が帰った後は自分の屋敷にするらしくってそれなりにやる気になっていた」

「ビッシュお義兄様も夜には来るわ。晩餐を共にする予定ですもの」

「おじさんは一緒に住まないんだね?」

「一緒に住めばいいって言ったんだけどね。ジルに気を使ったらしいよ」

「僕に?」


 なんだろ?


「訓練以外でも顔を合わせてたら可哀想だろってさ」

「どんだけ厳しくするつもりなんだろうか……」


 恐ろしい。

 ついでに気になっているもう一人についても。


「クレンディル先生は? 一緒に来られるって聞いたけど」

「先生は、こっちに来る直前に腰をね」

「ああ、いい歳だもんね」


 どうせ重い軍盤を持とうとしてギックリきちゃったとかだろう。


「それ、先生に直接言うなよ?」

「先生の弱点は知ってるから平気」


 必殺技は、軍盤の相手をしないぞだ。

 この屋敷には軍盤を嗜んでいて手が空いているのは僕だけだったから、これを使えばある程度大人しくなるのである。


「治ったら来るのかな? 無理しないでもいいのに」

「ああ。千草っていう教育係が増えたからな。先生には王都に行ったときに確認をお願いしますって言っておいた」

「それ、軍盤の確認とかじゃないよね?」

「……多分」


 礼儀作法にうるさい人だったけど、ある程度の課題をこなすと一気に軍盤ジジイに変身する人だからなぁ。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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