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異世界に転生した僕は、チートな魔法の杖で楽しい冒険者ライフを始めました!  作者: 月ノ宮マクラ


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073・人助け

 洞窟内に、僕らの足音が響く。


 コツ コツ


 結晶の床なので、音色も綺麗だ。


 でも、洞窟内には僕らの足音以外にも、時々、別の音が聞こえていた。


 耳を澄ますと、 


 カツーン カツーン


 ほら、今も遠くから、規則的な音が鳴っていた。


 この『南東ダンジョン』には、僕ら以外にも冒険者が入っている。


 時々聞こえてくる規則的な音は、その冒険者たちが採掘場などで鉱石を掘っている音なんだって。


(いい鉱石、採れてるかな?)


 ちょっと思いを馳せてしまう。


 ともあれ、ダンジョンは広い。


 全部を踏破すると、3日以上かかるとか。


 そのせいか、こうして洞窟内を歩いていても、他の冒険者に出会うことはなかった。


 ただ、原因は広さだけじゃなくて、


「また、どうも、既存の採掘場とは違う場所に向かってるな、俺たち」


 と、地図を確認するカーマインさん。


 そうなんだ?


 そのせいで、余計に他の冒険者に会わないのかもしれない。


 チラッ


 僕らは、先を行く道案内の『光の蝶』を見る。


 ヒラヒラ


 一定のペースで、見知らぬダンジョンの奥へ。


(……うん)


 でも、きっと、この先に『魔力結晶』があるはずなんだ。 


 僕は杖君を信じてる。


 獣人兄妹も同じようで、


「こりゃあ、また未発見の鉱脈でもあるのかもなぁ」


「そうかもね、兄さん」


 なんて笑っていた。


 アシーリャさんも、


「…………」


 特に何も言わないけれど、文句もなく蝶を追ってくれていた。


 それが嬉しい。


 僕も、つい微笑んでしまう。


 杖君の見つけた魔力結晶は、いったい、どこにあるのかな……?


 ちょっと楽しみだよ。


 …………。


 そうして僕らは、更に洞窟内を進んでいった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 あれから10分ほど、白い洞窟の中を歩いた。


 その時だった。


 ピカピカ


(ん……?)


 歩いている途中、不意に杖君が光った。


 杖君……?


 この光り方は、何かを訴えるものだ。


 僕はキョトンとする。


 同時に、


 ピクッ


 アシーリャさんが何かに反応した様子を見せた。


 いや、彼女だけじゃなくて、カーマインさん、フランフランさんの2人も表情をしかめた。


 その鼻をヒクヒクと動かして、


「おい、フラン」


「ええ、兄さん」


 2人は、厳しい表情だ。


(???)


 僕は首をかしげて、


「どうしたの?」


「血の臭いだ」


「……え?」


「この先の空間から、人の血の臭いがするんだよ」


「…………」


 血……って。


 思わず足を止めて、僕らは白い洞窟の先を見つめてしまう。


 そして、その方向に、


 ヒラヒラ


 道案内の『光の蝶』は飛んでいく。


 僕は頷いた。


「行こう」


「おう」


「は、はい」


「……は、い」


 3人も頷いてくれる。


 ここからは、何があっても対処できるように、アシーリャさんが先頭に立った。


 次にカーマインさん。


 僕は、その次。


 最後尾は、弓使いのフランフランさんだ。 


 コツコツ


 足音だけを響かせながら、進む。


 3分ほどすると、


(あ……)


 白い曲がり道の先に、人影が見えた。


 2人だ。


 若い男女の冒険者で、男の人は壁に寄りかかって座り、女の人がそのそばにしゃがんでいた。


 男の人の座る地面には、赤い水が広がっていた。


「…………」


 僕の足が止まる。


 すぐに、


「おい、ニホ」


「あ、うん」


 カーマインさんに軽く背中を叩かれ、前に足を動かした。


 2人の元へ。


 男の人は、脇腹に傷を負っていた。


 防具の革鎧が破けて、下の肉体にも損傷が及んでいる。


 これは……。


 男の人は生きている。


 でも、感覚的に、かなりまずい……と感じた。


 女の人は、幸い無傷だ。


 でも、泣きそうな顔で、必死に男の人の傷を布できつく縛っていた。


 フランフランさんは、口元を両手で押さえる。


「おい、大丈夫か?」


 カーマインさんが声をかけた。


 女の人は、ハッとする。


「結晶生物にやられたのか?」


「は、はい」


「そうか」


「わ、私を庇って……でも、ポーションもなくて、彼も気を失って……」


「…………」


 人に出会って緊張の糸が切れたのか、涙がこぼれ始めた。


 そっか、魔物に……。


 僕は、顔をしかめる。


 その間、アシーリャさんは周囲を見回して、危険がないかを確認してくれていた。


 彼の具合を確かめ、 


「出血が酷いな」


「うぅ……」


 女の人の顔に絶望が滲む。


(――うん)


 僕は、強く頷いた。


 杖君を握り締めて、


「カーマインさん、僕が治すよ」


 と、宣言した。


 みんなが僕を見る。


「できるのか?」


「わからない」


 正直に答えた。


 ここまで酷い怪我を治せるのか、自信はない。


 でも、杖君なら。


 そんな気持ちと感覚もあった。


 だから、


「やれるだけ、やってみるよ」


「そうか」


「お、お願いします、お願いします!」


 ギュッ


 彼女は地面に伏せ、僕のローブを掴む。


 僕は微笑み、頷いた。


 このまま見捨てるなんて、できない。


 何より、困っている人は助けたい。


(お願い、杖君)


 僕は、手の中の白い杖を見つめて、


「杖君、回復魔法を」


 と、高く掲げた。


 ピカァン


 杖君が神々しく輝いた。


 空中に光の魔法陣が生まれて、そこから光の柱が怪我をした男の人へと降り注ぐ。


 シュウゥゥ……


 途端、男の人の傷口が再生を始めた。


 肉が塞がり、白い肌が見え、そして、青白かった顔の血色も戻っていく。


 ヒィン


 光の魔法陣が消えた。


 あとには、規則的な呼吸を繰り返す、無傷な男の人の姿があった。


「ふぅ……」


 僕は息を吐いた。


 みんな、驚いたようにその光景を見ていた。


 そして、


「う……あ、あれ?」


 男の人は、意識を取り戻した。


 女の人は「ああ、よかった!」と叫んで、男の人に抱きついた。


 男の人は、びっくりした顔。


(……うん)


 その様子に、僕は笑った。


 すると、


「本当に凄いな、ニホの魔法は……」


「ニ、ニホ君が、まるで天使様に見えました」


 と、獣人兄妹。


 2人とも、半分呆けたように僕を見ていた。


 何、その目?


 僕は苦笑してしまう。


 と、そんな僕の手を、


 ギュッ


 アシーリャさんの両手が握って、


「聖なる光……お疲れ様、でした、ニホ、さん」


 と、言った。


 彼女は、凄く優しい眼差しだった。


(う、うん)


 その視線がくすぐったい。


 …………。


 ともあれ、無事に助けられてよかった。


 僕は、杖君を見る。


「今回もありがとう。さすが杖君だよ」


 と、笑った。


 ピカピカ


 杖君は『どういたしまして』と明るく光った。


(あは)


 その輝きに、僕も、また笑ってしまったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 その後、助けた若い男女の冒険者から、事情を聞いた。


 やはり、2人も『南東ダンジョン』に採掘に来たEランクの冒険者だった。


 そして、洞窟内で結晶生物と戦闘になったらしい。


 だけど、


「物凄く大きな個体がいたんです」


 とのこと。


 ダンジョンランクは『E』だ。


 出てくる結晶生物の強さも、それに準じたものになる。


 だけど、その大型個体は違った。


「あれは、多分、Dランク以上かと……」


 と、怪我をした男の人。


 僕らは、顔を見合わせてしまった。


 ここからは、カーマインさんの予想だけど。


 ダンジョンには、外部から地中を移動して侵入する魔物も存在する。


 それが、このダンジョン内で死亡。


 そして、それが結晶化して、結晶ゾンビ……つまり『結晶生物』になったのではないか、とのことだ。


 だから、ランク上の強さだったのでは?


 という予想らしい。


(なるほど……)


 というか、怖い話だね。


 そんな結晶生物がいるんじゃ、僕らも他人事ではないのだ。


 どうする?


 まさにイレギュラーの事態。


 安全を優先して、魔力結晶を諦める決断だって考えてもいいだろう。


 4人で、顔を見合わせてしまう。


 その時、


「その大型個体の背中に、凄く大きな『魔力結晶』の塊があったんです」


(え……?)


 僕らは、彼らを見た。


 女の人も、同意するように頷いた。


「あんな大きな結晶、今まで見たことありません」


「…………」


 まさか?


 僕は、杖君を見た。


 杖君が案内しようとした先にある『魔力結晶』って、もしかして……?


 獣人兄妹も気づいた顔だ。


「……嘘だろ?」


「え……え……?」


「…………」


 アシーリャさんだけは、ぼんやりした表情が変わらない。


 そして、杖君は、


 ピカァン


 まるで『正解』と頷くみたいに、明るく輝いたんだ。

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