070・3種の鉱石
「やったな」
「うん」
パンッ
僕とカーマインさんは、お互いの手を打ち鳴らした。
今日の目標だった『赤色鉄鉱石』は無事に集め終わり、その採取袋は彼に背負われていた。
「やりましたね、ニホ君」
フランフランさんも嬉しそうな笑顔だ。
僕も「うん」と頷く。
手を上げると、
パン
彼女は照れ臭そうに、手を合わせてくれた。
僕は、
「アシーリャさん」
と、彼女にも小さな手のひらを向けた。
彼女は、その手を見つめる。
「…………」
ギュッ
なぜか両手で握られて、優しく微笑まれてしまった。
…………。
何か、照れる。
ま、まぁ、いいか。
赤色鉄鉱石は集め終わった。
でも、本日は他にも2種類、『研磨石』と『アダマン鉱石』も集める予定である。
と言うことで、
「よし、次行こうぜ、ニホ」
「うん」
僕は頷き、
「杖君、お願い」
ピカン
杖君が輝くと、僕の頭に止まっていた『光の蝶』がヒラリと再び飛び立った。
ヒラヒラ
その輝きは、洞窟の奥へと向かう。
(あっちだね)
僕らは頷き合った。
そして次の鉱石を求めて、洞窟の中、光る蝶を追いかけた。
◇◇◇◇◇◇◇
道案内された先は、既存の採掘場の1つだった。
(ここ……?)
不思議に思いつつ、
「杖君、探査の魔法を」
ピィイン
僕の願いに応じて、杖君の先から同心円状の光が広がった。
すると、採掘場のあちこちが光った。
(わ……凄い数だ)
20~30箇所はありそう。
他のみんなも呆気に取られた。
試しに1箇所、『ドリルの魔法』で掘ってみた。
ガガガッ
光のドリルによって、岩壁が崩れる。
赤毛の獣人青年が、破片を1つ拾って、
「こりゃ、研磨石だな」
と、呟いた。
(へぇ、これが?)
黄色くて、少しザラザラした硬い鉱石だ。
カーマインさんは、言う。
「研磨石ってのは、結構、見つかる鉱石でな。実は、珍しくはないんだ」
「そうなんだ?」
「何回か掘れば、1つは出るって言われてるしな」
「…………」
僕は、周囲のハイライトされまくった採掘場を見回した。
(なるほど)
それで、この光り方なのか。
フランフランさんも同じように「だからなんですね」と、この現象に納得していた。
ガシャッ
アシーリャさんがつるはしを構えた。
無言のアピールだ。
あ、うん。
「そうだね。じゃあ、掘ろっか」
「おう、そうだな」
「は、い」
「は、はい、がんばりましょう」
僕らは頷き、作業に取り掛かった。
アシーリャさんとカーマインさんはつるはしで、僕は『ドリルの魔法』で掘り、フランフランさんが採取袋に集めていく。
カツン カツン ガリガリッ
採掘場に、作業音だけが響く。
…………。
…………。
…………。
やがて20分もすれば、必要量の『研磨石』が集まった。
「うん、終わり」
僕は、ホッと一息だ。
他の3人も、大きく息をついていた。
残すは、あと1種類。
最後の目標は『アダマン鉱石』だ。
僕は、3人を見る。
「それじゃあ、次、行くね」
「おう」
「は、い」
「い、行きましょう」
アシーリャさんと獣人兄妹も頷いた。
僕も頷いて、
「杖君、お願い」
ピカン
杖君は輝き、三度、『光の蝶』が洞窟内に羽ばたいた。
◇◇◇◇◇◇◇
アダマン鉱石は、かなり希少な鉱石らしい。
出土量は、少ない。
さすがにミスリル銀ほどではないけれど、それなりの高額で取引されるとか。
見つかることも稀らしい。
でも、
「こっちには、ニホがいるからな」
と、カーマインさん。
自信満々な表情は、僕を信じている裏返しに思えた。
(……うん)
期待に応えたいな。
そんなことを思いながら、10分ほど歩く。
やがて辿り着いたのは、洞窟の行き止まりだった。
折れたつるはしとか、壊れた一輪台車とかが、地面に乱雑に放棄されていた。
カーマインさんは、地図を見る。
「ここは、放棄された採掘場だな」
「放棄?」
「おう。掘っても何の鉱石も出なくなったってことだ」
「…………」
それで、この寂れた印象か。
彼は笑う。
「だが、ここにあるんだろ?」
「うん」
僕は、頷いた。
僕も杖君を信じてる。
だから、杖君の導いたここに『アダマン鉱石』が必ずあると思っていた。
フランフランさんも、
「きっとありますよ」
と、両手を握って、笑顔で言ってくれた。
僕も微笑む。
それから、
「杖君、探査魔法をお願い」
ピィイン
本日3度目の光の円が、この放棄された採掘場に広がった。
(お……?)
輝いた場所は、たった1箇所。
でも、光っている。
「あそこか」
カーマインさんは、獣人らしく舌舐め摺りして呟いた。
僕は「うん」と頷いた。
アシーリャさんは、
「…………」
ガシャッ
無言でつるはしを担いで、そのハイライトされた場所に歩きだした。
僕らも続く。
「杖君、ドリルの魔法を」
ピカン
杖の先に『光のドリル』を生み出して、その岩盤に押し当てた。
ガリリッ
2人もつるはしを振るう。
カツン カツン
フランフランさんは、新しい採取袋を用意して待機中だ。
そうして僕らは、岩を掘った。
…………。
…………。
…………。
あれから5分経った。
掘った距離は、3メートル以上……でも、アダマン鉱石は出てこなかった。
ただ、ハイライトは続いている。
掘っても、掘っても、光った岩盤が出てくる。
カーマインさんが作業の手を止め、息を吐く。
額の汗を拭って、
「どういうことだ、こりゃあ?」
と、呟いた。
僕は、作業を続けながら、
「多分、かなり奥にあるんだ」
「…………」
「でも、杖君が教えてくれた。なら、掘り続けたら必ず出るよ」
「……おう、そうだな」
彼は頷いた。
覚悟を決めた顔で「おっしゃ」と気合を入れ、再びつるはしを振るう。
カツン カツン
アシーリャさんは、
「…………」
何も言わず、休むこともなく、ただ黙々とつるはしを振るってくれた。
多分、僕を信じて。
…………。
何か、嬉しい。
その姿に、僕も心に力が湧いてくる。
フランフランさんは、僕らの作業の邪魔にならないように、足元に崩れた岩や破片を外に出してくれていた。
それにも感謝。
そうして、僕らは作業を続行した。
10分。
20分。
30分。
そして、1時間。
掘った長さは、20メートル以上だ。
それでも、僕らは文句も言わず、目の前のハイライトされ続ける岩盤を掘っていく。
その時だった。
ガガガ……ギャリン
(ん?)
突然、ドリルの感触が変わった。
手を止める。
一緒に作業していた2人も「ニホ?」「?」と僕を見た。
僕は、ドリルをどける。
ハイライトされた岩盤の一部が、紫色の石になっていた。
表面に、波紋みたいな模様がある。
ランタンの灯りを近づけると、それは美しくキラキラと輝いた。
赤毛の獣人青年がハッとした。
彼は顔を近づけ、
「……間違いない」
「…………」
「これは『アダマン鉱石』だ。あぁ、ついに見つけたぞ!」
「!」
僕は、息を飲んだ。
すぐに言う。
「掘ろう!」
それに、3人も頷いた。
「おう!」
「は、い」
「ほ、掘りましょう!」
それぞれに応えると、これまでの疲れを忘れたように掘り進めた。
ガガガッ カツン カツン
洞窟の中に、作業音が反響する。
掘れば掘るほど、紫色の鉱石は大きく露出し、また広範囲に出現した。
(……凄い)
多分、結晶体だ。
それも、複数の。
30~50センチぐらいの巨大な鉱石の集合体が、3~4個、ゴロゴロと採取できた。
「うはは……」
カーマインさんが笑う。
目が少し怖い。
石を集めるフランフランさんは「お、重いですぅ」と嬉しそうな悲鳴をあげていた。
アシーリャさんだけは、通常運転。
やがて、作業も中断した。
まだ、鉱石は埋まっている。
でも、必要量は確保できた。
と言うか、これ以上は、重過ぎて持ち帰れなかったんだ。
「杖君、光翼の魔法を」
ピカン
採取袋に『重量軽減の魔法』を使い、光の翼を生やして背負う。
それでも、重い。
ずっしりしてる。
でも、嬉しい重さだ。
獣人兄妹も満足そうな笑顔で、目が合ったら、大きく頷かれた。
僕も頷いた。
アシーリャさんを見る。
彼女も、重そうな採取袋を背負っていた。
でも、体幹がしっかりしているのか、安定した姿勢だ。
アメジスト色の瞳と目が合う。
僕は笑って、
「やったね」
「は、い……ニホ、さ、ん」
彼女もはにかんだ。
(うん)
その笑顔に、僕の心も温かくなった。
…………。
そうして必要な3種の鉱石を手に入れた僕らは、北東ダンジョンの出口へと歩きだしたんだ。




