表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生した僕は、チートな魔法の杖で楽しい冒険者ライフを始めました!  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/81

062・旅路

「いい天気だなぁ」


 青い空を見て、僕は呟いた。


 旅が始まって、3日目。


 僕らは今、2羽の走り鳥に揺られながら、レイクランドから南西方面へと続く街道を走っていた。 


 周囲は、緑の草原だ。


 あちこちに、灰色の巨岩が転がっている。


 遠くには、森と山脈。


 ここまでは幸いにも天候に恵まれて、予定の7日間で鉱山の町ロックドウムに到着できそうだった。


 初めての長旅だ。


 この2日間の夜は、途中の村と町で宿泊した。


 街道沿いには、宿場村や宿場町が意外と点在してるんだよね。


 規模は、大きくない。


 けど、旅人向けなのか、料理は美味しいし宿屋も綺麗だった。


(お風呂もよかったなぁ……)


 昨日の町の宿屋は、温泉だった。


 うん、旅してるって感じがするよね?


 そんなことを思いながら、今日も数時間、風を切って走り鳥を走らせた。


 …………。


 やがて、夕方。


「お、見えたぞ」


 隣の走り鳥に乗るカーマインさんが、前方を指差した。


 僕も目を凝らす。


 街道の先に、小さな町があった。


 宿場町だ。


「今夜は、あそこで泊まろうぜ」


「うん」


「……は、い」


「そうね、兄さん」


 ピカン


 その提案に、僕らと杖君も賛成する。


 彼も「決まりだな」と笑った。


 そうして僕らは茜色の街道を、宿場町へと走り鳥を走らせたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(あぁ、お腹いっぱい……)


 ベッドに仰向けになりながら、僕は満足していた。


 泊まった宿屋は、とても料理が美味しかった。


 この地方でしか取れないという鹿肉の料理だったんだけど、あまり癖もなくて味も良く、最高だったんだ。 


 自家栽培してる山椒のソースも、よかったね。


 他の3人も満足してた。


 うん、いい宿屋を選んだよ。


 そんな僕らは、4人で1部屋を借りていた。


 男女2部屋借りるより安いからね。


 1週間の旅だし、少しでも節約することにしたんだ。


 幸い、フランフランさんは少し恥ずかしそうだったけど反対しなかったし、アシーリャさんも気にしてない様子だった。


 という訳で、4人部屋。


 でも、今は僕とカーマインさんの2人だけ。

 

 女性陣は、お風呂中なんだ。


 僕はベッドで横になり、カーマインさんは愛用の小剣の手入れをしていた。


 と、その時、


 カチャッ


「た、ただいま」


「…………」


 客室の扉が開いて、女性陣が戻ってきた。


 妹たちに「おう、おかえり」と赤毛の青年は言う。


 僕も、


「おかえり、2人とも」


 ピカン


 杖君と共に声をかけた。


 2人は、嬉しそうにはにかむ。


 フランフランさんは、いつもの三つ編みを下ろしていて少し新鮮だった。


 濡れ髪も、ちょっと色っぽい。


 見ていると、


「……ぁ」


 気づいて、少し恥ずかしそうにしていた。


 あ、ごめんなさい。


(あまり見ちゃ、失礼だよね)


 親しき仲にも礼儀あり。


 反省した僕は、視線を外した。


 するとその先で、


「は、い」 


 と、僕に両手で持ったブラシを差し出すアシーリャさんがいた。


 受け取ると、


 ポフッ


 こちらに背を向けながら、ベッドに座る。


 濡れた黄金色の長い髪が、艶やかに輝きながらシーツまで広がっていた。


(はいはい)


 僕は苦笑する。


 いつものように、ブラシで丁寧に髪を梳いてあげた。


 シュッ シュッ


 アシーリャさんは気持ち良さそうだ。


 そうしていると、


「お前らって、本当に仲のいい姉と弟みたいだな」


 と、獣人兄妹の兄に言われた。


 そう……?


 うん、そうかも。


 でも、彼女と家族みたいと言われて、悪い気はしない。


 僕は笑って、


「だって、アシーリャお姉ちゃん?」 


 なんて言ってみた。


 すると、


「…………」


 彼女は無反応……かと思ったら、その頬がポウッと赤くなった。


(わ……?)


 照れてる?


 予想外だけど、何か可愛い反応だ。


 少なくとも、嫌がられてないみたいなのでよかった。


 うん、僕も安心だ。


 そんな僕らに、彼は笑う。


 そして妹の方は、何だか羨ましそうな顔で僕ら偽物の姉弟を見ていた。


 そんな妹に気づいて、


「なぁ、ニホ?」


「ん?」


「よかったら、フランの髪も梳いてくれないか?」


「え……?」


「に、兄さん……!?」


「コイツも髪長いから、いつも大変みたいでな。どうだ?」


「別にいいけど……」


「ニ、ニホ君!?」


 頷く僕に、彼は「そうか」と笑った。


 当のフランフランさんは顔が真っ赤だった。


 でも、兄に「ほら、行ける時に行けって」と背中を押されて、自分のブラシを持ってくる。


 恥ずかしそうに、


「お、お願いします……」


「うん」


 受け取り、僕は頷いた。


 彼女は、アシーリャさんと反対に座る。


 アシーリャさんは不満そうだったけど、ちょっと待っててね。


 フランフランさんの髪に触る。


 真っ赤な髪だ。


 アシーリャさんの髪より柔らかくて、いつも三つ編みにしてるからか、少し癖があった。


 そこに丁寧にブラシを通していく。


 シュッ シュッ


「……んっ」


 くすぐったいのか、フランフランさんの肩が時々震える。


 パタン パタン


 合わせて、彼女の尻尾も左右に揺れていた。


(……うん)


 何か楽しい。


 2匹の大型犬のペットのブラッシングをしてる気分だ。


 そう言えば、


(ペットを撫でるのって、撫でられるペットだけじゃなくて、撫でる人間の方も幸せを感じるんだっけ?)


 まさに、そんな感覚。


 シュッ シュッ


 やがて、赤毛の髪も梳き終わる。


 フランフランさんは、


「あ、ありがとうございました……気持ちよかったです、ニホ君……」


 と、上気した顔で言った。


 僕は「ううん」と首を振る。


「またして欲しかったら、いつでも言ってね」


 と、笑った。


 彼女は「は、はい!」と嬉しそうに答えてくれた。


 その兄も、


「よかったな、フラン」


「う、うん」


 と、戻ってきた妹の背中を軽く叩いていた。


 その様子を見ていると、


 クイッ


(ん……?)


 僕の袖が引かれた。


 振り返れば、アシーリャさんがブラシを突き出していた。


「…………」


 無言の訴えの視線。


 あ、はいはい。


 僕はブラシを受け取り、彼女のブラッシングを再開する。


 シュッ シュッ


 うん、髪質がやっぱり違う。 


 アシーリャさんの方が少し芯があって細く、するりと真っ直ぐだった。


 こっちを梳くのも楽しい。


 でも、今夜の彼女は、なかなか満足してくれなかった。


 結局、いつもの2倍の時間、ブラッシングをしてしまった。


(う、う~ん?)


 ま、アシーリャさんが望むんなら、僕としてはいいけどね。


 そんな僕に、


「また今度……で、す」


 彼女は艶やかな金色の髪で、そう微笑んだ。


 …………。


 そんな風にして、宿場町の宿屋での僕らの時間は過ぎていったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 翌日、僕らは宿場町を出発した。


 トットットッ


 軽快な足取りで、2羽の走り鳥は街道を走っていく。


 今日もいい天気だ。


 ただ、前方の空には、少し雲が多かった。


 雨、降るかな?


 そんなことを思っていると、


「おい、ニホ」


(ん?)


 隣を並走するカーマインさんに、声をかけられた。


 彼は見ると、


「この先は、気をつけろよ?」


「え?」


「ここからの街道は人里が遠くて、時々、野盗も出るんだ」


「野盗?」


「おう。結構、被害があるんだよ」


「…………」


「人間は、ある意味、魔物より怖いからな?」


「……うん」


「ま、必ず出るとは限らんが、周辺警戒だけはしとこうぜ」


「うん、わかった」


 僕は頷いた。


 彼も頷いて、獣人兄妹の走り鳥は、また前へと出る。


 その背中を見ながら、


(……野盗、か)


 ここには、そういう人たちもいるんだね。


 さすが、異世界だよ。


 そう思っていると、


 ポムッ


 僕の頭に白い手が乗せられた。


 アシーリャさんだ。


 彼女は、僕を見つめて、


「大丈夫……で、す」


「…………」


「ニホさん……守り、ます」


「うん」


 彼女の優しさに心が温かくなった。


 すると、


 ピカン


 杖君も、自身をアピールするように光っていた。


(うん、杖君もありがとう)


 僕は微笑む。


 そして、顔を上げた。


 目の前には、巨岩の転がる草原の景色がある。


 トットットッ


 そこに伸びる街道を、僕らを乗せた2羽の走り鳥は真っ直ぐに走っていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ