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異世界に転生した僕は、チートな魔法の杖で楽しい冒険者ライフを始めました!  作者: 月ノ宮マクラ


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061・遠征

 鉱石集めから3日が経った。


 見つけた『ミスリル銀の結晶体』は、クエスト対象の『火鉱石』、『水鉱石』とは別枠で納品された。


 そして、特殊ボーナス発生。


 その額、何と6万ポント。


 日本円にして、約600万円の大金だった。


 さすがに1000万円には届かなかったけど、あれは最高額だからね。


 これでも充分。


 1人150万円もの収入なのだ。


 …………。


 納品時も大変だった。


 ミスリル銀の結晶体は、かなり重かった。


 そこで、僕が『光の翼の魔法』で重量軽減して何とか運べたんだ。


 でも、おかげで凄く目立った。


 町の通りを歩いている時は、たくさんの人に『何あれ?』って見られちゃったよ。


 少し恥ずかしかったな……。


 それから、冒険者ギルドで納品。


 受付では、


「本当に……ニホ君は、もう……本当に何なのかしらね?」


 と、マーレンさんに呆れられた。


 他の冒険者や受付嬢たちも、カウンターに置かれた巨大結晶にあんぐり口を開けていたっけ。


(あはは……)


 その反応に、僕も苦笑しちゃったけど。


 ちなみに、これだけ大きなミスリル銀の結晶体が持ち込まれたのは、30年ぶりって言っていた。


 やはり珍しいことだったんだね。


 そのあと、火鉱石、水鉱石の納品分と合わせて報酬をもらった。


 約630万円だ。


 1人、157万5000円。


 冒険者ギルドでは預金業務もやっていて、150万円分だけ預けた。


 さすがに現金で持つのは怖いからね。


 引き出す時には、冒険者カードで本人確認して行うそうだ。


 冒険者カード、絶対になくせないね。


 …………。


 そんな感じで、僕らは一獲千金の冒険者ドリームを叶えて、一躍時の人となったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 3日目のことだった。


 冒険者ギルドのレストランで、


「今度は、鉱山の町ロックドウムまで出稼ぎに行かないか?」


 と、カーマインさんが言い出した。


(はい?)


 僕はフライドポテトを口に咥えたまま、キョトンとなった。


 彼は笑って、


「鉱山の町ロックドウムの近郊には、たくさんの採掘用ダンジョン遺跡があるんだよ」


「…………」


「そこで、また一山当てようぜ?」


 ビシッ


 と、親指を立てる。


 あれまぁ……。


 カーマインさん、今回のことに味を占めちゃったのか。


 フランフランさんは「兄さん……」と、怒ったような情けなさそうな複雑な顔だ。


 ちなみに、アシーリャさんは


 モグモグ


 完全無視して、フライドポテトを1人食していた。


 僕は苦笑して、


「あんまり欲深いの、よくないよ?」


 と忠告した。


 でも、彼は心外だ、という顔をする。


「別に金のためだけじゃないぞ?」


「そう……?」


「あぁ。今回、元手も手に入った。なら、次は手に入れた希少な鉱石で新装備を作りたいじゃないか」


「新装備?」


「そうだ」


 彼は、大きく頷いた。


 コン


 自分の鎧を叩いて、


「俺たちの武器はいい」


「…………」


「俺の魔法剣、アシーリャのアルテナの長剣。Eランクではいい装備だ」


「……うん」


「フランフランの弓も、金をかけて高品質の物を使ってるしな」


「そうなんだ?」


「あぁ。だが、比べて防具は貧弱だ」


「…………」


「俺とアシーリャは、普通の革鎧。フランなんて革の胸当てのみ。挙句にニホ、お前はただの旅服と厚手のローブだけだ」


「…………」


「さすがに、どうかと思わんか?」


 どう……何だろう?


 何か、そう言われると駄目な気がしてきた。


 フランフランさんも、思わず、自分の胸当てを見てしまっている。


 その兄は言う。


「金も欲しいが、装備も欲しい」


「…………」


「だから、そのためにも鉱山の町ロックドウムまで遠征するのも悪くないかと思ったのさ」


「そ、そっか……」


 確かに、説得力がある。


 それと、まだ見ぬ知らない町にも興味があった。


 どんな場所なのか?


 転生した異世界生活を満喫しようと決めてる僕には、少し惹かれるものがあった。


(うう~ん?)


 少し悩む。


 すると、


「あとな、もう1つ理由がある」


「もう1つ?」


 僕は、赤毛の青年を見る。


 彼は頷いて、


「最近、俺らの周りがうるさいんだ」


「あ……」


「竜殺しに、太陽の恵みの花に、今回のミスリル銀結晶だ」


「…………」


「他の冒険者からの詮索、勧誘、嫉妬、色々あってな。特にニホ、お前に関する質問をしょっちゅう聞かれてるんだよ」


 その声には、疲れが見えた。


 まぁ、確かに……。


 実は僕も、多くの視線は感じていた。


 気にしないようにしてたけど、少し居心地悪いな、とも感じていたんだ。


 彼は、直接、声もかけられてるらしい。


 見れば、フランフランさんも思い当たることがあったのか、少し神妙な顔だ。


(…………)


 そっか。


 彼女も声かけられてたんだね。


 獣耳を倒して、カーマインさんはため息をこぼす。


 僕を見て、


「後ろ盾に男爵家がいるおかげで、嫌がらせとかはないけどな」


「…………」


「ただ正直、うざい」


「……うん」


「だから冷却期間も兼ねて、少しレイクランドを離れるのもいいんじゃないかと思った訳だよ」


「…………」


 僕も考える。


 確かに、人の感情って難しいものだ。 


 今はよくても、その内、何かが起きてしまうかもしれない。


 そして、起きてからでは遅いのだ。


(…………)


 僕は、隣のアシーリャさん見る。


 モグモグ


 彼女は、一心不乱にポテトを食べていた。


 うん、平和な姿。


 これ以上、彼女の身には何も起きて欲しくない……と、強く思う。


 僕は頷いて、


「わかった。じゃあ、そうしよっか」


 と、彼に同意した。


 彼は嬉しそうに「そうこなくっちゃ!」と笑って、パチンと指を鳴らした。


 その片目を閉じて、


「がっぽり稼ごうぜ?」 


「…………」


 僕は、苦笑してしまう。


 その様子に、妹の方は呆れ顔で「兄さん……」とため息をこぼしていた。


 僕は、アシーリャさんを見る。


「アシーリャさん」


「?」


「これからしばらく、少し遠くの町に行くけど、いい?」


「……は、い」


 長い金髪を肩からこぼして、彼女は頷いた。


 僕を見つめて、


「ニ、ホさん、と、一緒……なら」


 と、はにかんだ。


 綺麗で、とても柔らかな笑顔。


 …………。


 少し頬が熱いや。


 そんな僕の手元で、


 ピカピカ


 杖君は楽しそうに光を明滅させていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 旅の準備に、3日間かかった。


 鉱山の町ロックドウムは、この町から南西に1週間ほどの距離にあると言う。


 滞在は、約2週間の予定。


 つまり、合計1ヶ月もの長旅だ。


 なので、転生してからお世話になっていた宿屋も、一旦、解約することにした。


(お世話になりました)


 客室を出る時は、少し寂しかった。


 ちゃんと一礼。


 宿の主人とも挨拶して、宿屋を出発した。


 ロックドウムに行くことは、マーレンさんにも話してあった。


 事情を聞いて、


「それもいいと思うわ」


 と、彼女も理解を示してくれた。


 ……彼女とも、1ヶ月間のお別れだ。


 まぁ、また戻って会えるけどね。


 そして、マーレンさんを通じて、何とレオナ男爵様にも話が伝わってしまった。


 すると男爵様は、


『懇意にしている鍛冶師に一筆書いておいた。よければ、活用しなさい』


 と、紹介状をくれた。


 貴族の紹介。


 これ以上、身元も腕も確かな相手はいないだろう。


 本当にありがたいや。


 カーマインさんも、


「さすが、男爵様だな」


 と笑っていた。


 鉱山の町ロックドウムに着いたら、その鍛冶師を探すことが決まった。


 …………。


 ちなみに余談だけど。


 僕らの旅立ちを聞いて、男爵令嬢のファルシンティア様は酷く嘆かれたそうだ。


 また会う約束をしたのに……と。


 う、う~ん?


 たった1ヶ月だし、悪くないよね?


 ともあれ、男爵様に窘められてようやく落ち着かれたそうな……。


(でも……うん)


 そうやって泣くぐらい元気になられたんだと思ったら、安心したし、何だか嬉しかった。


 つい笑いながら、


(帰ったら、1度、顔を出そう)


 そう思ったんだ。


 …………。


 …………。


 …………。


 そして、旅立ち当日。


 クワッ


 僕らの前には、鳴き声を上げる2羽の『走り鳥』がいた。


 ふふふっ。


 今回は、この走り鳥で1週間、街道を走るのだ。


(楽しみだなぁ)


 そう思いながら、


 モフモフ


「どうかよろしくね」


 と、柔らかな羽毛を撫でたんだ。


 円らな瞳が僕を見つめ、退化した小さな翼をパタパタと羽ばたかせた。


 うん、可愛い。


 今回は素敵な旅になりそうだ。


 そうして撫でる僕の姿を、獣人兄妹は微笑ましそうに見ていた。


 そして、もう1人。


「…………」


 アシーリャさんは、僕に撫でられる走り鳥の方を、何だか羨ましそうに見ていた。


(…………)


 あ、うん。


 ちゃんと、あとでブラッシングするからね。


 そうも思う僕でした。


 やがて、走り鳥の鞍に荷物を括りつけ、僕らは馬上ならぬ鳥上の人となった。


 今回も、僕はアシーリャさんと一緒。


 もう1羽には、獣人兄妹が2人乗りだ。


 アシーリャさんの身体を背もたれにするようにして、僕は身体を固定する。


 そして、


 パシン


 彼女は両足で挟むように胴体を蹴り、走り鳥は走り始めた。


 トットットッ


 軽やかなリズムで進む。


 町の門を抜け、


「お、ニホ! 気をつけてなぁ!」


 門番のおじさんの笑顔に、僕も手を振り返した。


 そのまま、南西の街道へ。


 森と湖と草原の景色が、後方へと流れていく。


 空は青く、美しい。


 目指すは、鉱山の町ロックドウム。


 まだ見ぬ町へと、暖かな日差しの中、僕らは風を切って街道を走っていった。

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