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異世界に転生した僕は、チートな魔法の杖で楽しい冒険者ライフを始めました!  作者: 月ノ宮マクラ


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053・誰が1番

「たった1日なんて……さすが、ニホ君ね」


 マーレンさんは、感心半分、呆れ半分にそう笑った。


 鑑定眼鏡をかけた彼女の前の受付カウンターには、3本の『太陽の恵みの花』が置かれていた。


 ザワザワ


 周囲の冒険者が、少しざわめいている。


 カウンターの奥にいる他の受付嬢やギルド職員も、驚きの表情だった。


「まさか……嘘だろう?」


「開花しているのを見つけるだけでも難しいはずなのに……」


「それを3本も……?」


「……信じられないわ」


 そんな声が聞こえてくる。


(……う~ん)


 なんか、思った以上に目立ってるね?


 集まる視線に、けれど、アシーリャさんはぼんやりした表情のまま、フランフランさんは少し気恥ずかしそうだった。


 ま、いいか。


 気持ちを切り替え、


「品質、大丈夫だった?」


 と、僕は聞く。


 ハーフエルフの受付嬢さんは鑑定眼鏡を外して、微笑んだ。


「えぇ、問題ないわ」


「そっか」


 よかった。


 僕も一安心だ。


 彼女は他の職員に「これ、すぐに依頼主に納品して」と声をかけた。


 慌てた様子で職員2人がやって来て、虹色に輝く3本の美しい花を緊張した様子で奥へと運んでいった。


 それを見送ると、


「じゃあ、報酬です」


「あ、うん」


「はい、6000ポントよ。受け取って、ニホ君」


 ジャラッ


 硬貨の入った革袋が渡される。


 うん、重い。


 でも、この重さが嬉しいね。


 僕は笑って「ありがとう」とお礼を言った。


 彼女は苦笑する。


「それは、こちらの台詞よ?」


「そう?」


「ふふっ、今回は急な頼みを聞いてくれてありがとう、ニホ君。本当に助かったわ」


「ううん」


 お役に立てたのなら、何より。


 報酬ももらえたしね。


 彼女は息を吐き、


「実はね。今回の依頼人は、私の古い知り合いだったの」


「そうなの?」


「えぇ。その、子供が病気でね」


「……あぁ」


「だから、薬草花が手に入って私も安心してるわ」


「…………」


「きっと彼女も、後日、お礼を言いに来るかもしれないから、その時はよろしくね」


 と、笑った。


 僕は「うん、わかった」と頷いた。


 お礼なんて、別にいいんだけどね?


 でも、


(その子の病気、これで治るといいな……)


 素直に、そう思う。


 それから、僕らは冒険者ギルドをあとにする。


 …………。


 報酬は3人で3等分、1人2000ポント(約20万円)だ。


 いい報酬だね。


 赤毛の獣人少女も、尻尾を揺らして嬉しそう。


 僕も笑って、


「今日はお疲れ様」


 と、彼女を労った。


 彼女は「ニホ君も」とはにかむ。


 それから別れの挨拶をして、フランフランさんは兄の待つアパートへと帰っていった。


 それを見送り、


「じゃあ、僕らも帰ろっか」


「は、い」


 ピカン


 アシーリャさんは頷き、杖君も光った。


 キュッ


 彼女は、僕の手を握る。


 指が温かい。


 そうして僕らは手を繋いだまま、自分たちの宿屋へと歩いていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 翌日、冒険者ギルドで、カーマインさんとも再会した。


 昨日の話をすると、


「ほう? 1日で無事に達成するとは、さすがニホだな!」


 バシ バシ


 と、笑って背中を叩かれた。


 って、痛い痛い。


 僕は慌ててアシーリャさんの背中に避難して、彼は「悪い悪い」と笑った。


(全くもう……)


 憎めない笑顔に、僕も苦笑してしまう。


 フランフランさんは「もうっ、兄さん!」と、ちょっと怒っている。


 アシーリャさんも、赤毛の獣人の青年を軽く睨んでいた。


 彼は、バツが悪そうに赤い髪をかく。


 僕は、聞く。


「そっちは休日、楽しめた?」


「おう」


 彼は頷いた。


「実は、前から頼んでおいた武器も完成してな。無事、受け取ってきたぜ」


「え、武器?」


「これだ」


 ガシャッ


 彼は、腰に差していた小剣の1つを外して、こちらに向けた。


 鞘から抜くと、


 パチッ


 青い放電の散る刀身が現れた。


(え、何これ?)


 僕は、目を丸くする。


 彼は笑って、


「魔法剣だ」


「魔法剣?」


「おう。前に雷爪熊の素材、もらっただろ? あれだよ」


「へぇ……?」


 あの魔物の爪が、この剣に?


 少しびっくりだ。


 彼が言うには、武器屋で加工してもらったとのこと。


 金額は、7000ポント。


 約70万円だ。


 結構、高い。


 でも、素材持ち込みだったので、これでも安い料金らしい。


 僕は、輝く小剣を見る。


「うん、格好いいね」


「だろ?」


 素直な感想に、カーマインさんも嬉しそうだ。


 魔法剣、か。


 僕も1本、欲しいな。


 杖君があるから別にいらないんだけど、サブウェポン的な……ね?


 うん、男のロマンって奴です。


 目を輝かせて話す僕らに、女性陣の2人は少し呆れた表情だった。


 …………。


 ま、そんな一幕もありつつ、2日ぶりに集まった僕ら4人は、本日もクエストを受注した。


 薬草採取と討伐の2種類。


 いつもの奴だね。


 受注した僕らは、ギルドの建物をあとにした。


 町の通りを歩いて、


「そういや、ニホ」


「ん?」


「昨日は3人だけだったろ。どうだったんだ?」


「どう……って?」


 僕は首をかしげた。


 チラッ


 カーマインさんは、後ろを歩く女性2人を見る。


 また僕を見て、


「何かあったか?」


「何か?」


「あぁ……そうか」


 彼は何かを察したように、妹に残念そうな視線を向ける。


 妹の方は、少し赤くなった。


「に、兄さん……っ」


 何か言いたそうだ。


 でも、僕の様子をチラチラ見て、結局、何も言わない。


 アシーリャさんは、


「……?」


 と首をかしげていた。


 そんな2人に、カーマインさんはため息を1つ。


(???)


 僕もキョトンだ。


 彼は苦笑して、


「いや、まぁ、ニホもまだ12歳だもんな」


「? うん」


「まぁ、いいさ」


「…………」


「そうだな……とりあえず、昨日はどっちが役に立った感じだ?」


 と、聞いてきた。


(どっち?)


 言われて、考える。


 アシーリャさんとフランフランさん。


 どっちも凄かった。


 2人とも魔物を次々に倒していたし、おかげで僕は、凄く楽ができたんだ。


(あとは……)


 うん、フランフランさんのサンドイッチは、美味しかったな。


 あれは、また食べたいと思ったよ。


 役に立ったと言えば、アシーリャさんもロープ代わりの蔦を見つけてくれて、本当に助かったっけ。


 いい機転だったよね。


 ……うん。


 僕は、頷いた。


 カーマインさんを見て、


「役に立ったって言うか、2人がいて楽しかったよ」


 と笑った。


 フランフランさんは驚き、それから「わ、私も……」と呟く。


 アシーリャさんも「ニ、ホさん……」と嬉しそうだ。


 彼は苦笑する。


「そうか」


「うん」


「ま、ニホが楽しかったならいいさ」


「うん。……あ」


「?」


「もしどうしても役に立った1人を選ぶなら、やっぱり杖君だよ」


 気づいた僕は、そう言った。


 3人は目を丸くする。


 僕は、杖君を高く持ち上げて、


「杖君は、やっぱり最高だよね」


 と、笑顔で断言した。


 ピカン ピカン


 杖君は、少し照れたように点滅を繰り返していた。


 あはは。


(うん、可愛い)


 僕は微笑み、杖君を大事そうに両手で握った。


「…………」


「…………」


「…………」


 3人の仲間は顔を見合わせる。


 それぞれ、何とも言えない表情を浮かべた。


 やがて、


「ま、ニホらしいな」


「は、い」


「ですね……」


 何かを受け入れたように、そうため息をこぼして笑ったんだ。


(???)


 何のこっちゃ?


 僕は杖君を握ったまま、少し首をかしげてしまった。

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