043・受注
火炎蜥蜴の討伐。
討伐目標数は、1体。
ただし素材目的なので、倒し方には注意が必要みたいだ。
報酬は、3000ポント。
日本円で約30万円。
素材があまりに傷んでいると減額される。
冒険者ガイドブックによれば、火炎蜥蜴の生息場所は、レイクランドから徒歩で3日の隣町トルパの近くの岩場だそうだ。
3日か……。
往復で6日、討伐で1日と考えると、計7日間かな。
7日間で1人7万5千円……。
いつもなら1日で稼げる金額なので、安く感じる。
(でも、いいんだ)
今回はお金じゃない。
竜殺し、という名誉を求めて行くんだ。
採算は度外視だ。
ちなみに、僕は、この20日間で100万円以上稼いでいた。
月収なら150万円。
結構、高給取り。
もちろん、杖君の力があってこそ。
普通のEランク、Fランクの冒険者は、10日でだいたい1~2クエスト、5~10万円の収入だそうだ。
月収なら15~30万円。
僕は5倍稼いでいるらしい。
ちなみに、この辺の常識は、獣人兄妹から教わったことだった。
2人は、
「おかげで、懐があったかいぜ」
「え、えへへ」
と、報酬の硬貨の山を見ながら笑ってたっけ。
きっとお金に余裕ができたから、今回は名誉を求めて、火炎蜥蜴のクエストに挑戦しようと思ったのかもしれないね。
でも、悪くない。
新しいことに挑戦する気持ち。
そういう冒険心があるからこそ、僕らは『冒険者』なんだ。
…………。
個人的には、新しい町に行けるのも楽しみだ。
トルパの町。
レイクランドより小さい宿場町で、冒険者ギルドもないらしい。
だから、トルパの町の近くでの魔物討伐でも、少し離れたレイクランドに依頼が出されるんだって。
(どんな町かな?)
レイクランド以外の初めての町。
少しワクワクする。
警備局から、アシーリャさんの街の移動も解禁されたし、ちょうどいいタイミングだったかもしれないね。
(楽しみだなぁ)
期待する僕に、
ピカピカ
杖君も同意するように光っていた。
◇◇◇◇◇◇◇
「はい、手続き完了よ」
受付嬢のマーレンさんはそう微笑んで、4人分の冒険者カードを返してくれた。
僕らは「うん、ありがとう」とカードを受け取る。
(さぁ、出発だ)
僕は、獣人兄妹と笑顔で頷き合った。
それを眺めて、
「4人とも、これからも一緒に続けることにしたのね?」
と、マーレンさんが言った。
あ、そうだった。
お試し期間が終わって、正式なパーティーを組んだこと、まだ伝えてなかったっけ。
僕は頷いて、
「うん、マーレンさんのおかげだよ」
と答えた。
ハーフエルフの受付嬢は「あら?」と目を丸くする。
クスッと笑って、
「私は、ただ申請を仲介しただけよ?」
と言う。
僕は「ううん」と首を横に振った。
「正直に言うと仲介された時は、僕、その話を断ろうと思ってたんだ」
と告白した。
獣人兄妹は、少し驚いた顔だ。
マーレンさんも「そうなの?」と意外そうな顔を作る。
僕は「うん」と頷いて、
「でも、マーレンさんの助言があったから」
「…………」
「だから、お試しする気になって、それで今、こうして2人と冒険していく気持ちになったんだよ」
「そっか」
彼女は頷いた。
少し嬉しそうに、
「私の言葉で、ニホ君の役に立てたのならよかったわ」
と、はにかんだ。
僕は、大きく頷いた。
役に立てた所ではない。
彼女にとっては、ただの仕事の1つだったかもしれない。
でも、僕ら4人を引き合わせ、結び付けるきっかけを作ってくれた恩人なのだ。
縁結びの神様?
うん、そんな感じなんだ。
獣人の兄妹も「マーレンさんのおかげだったのか」、「あ、ありがとうございます」とお礼を伝えていた。
受付嬢さんは、少し照れ臭そう。
それから、
「あ……そうだわ」
と呟いた。
ハーフエルフの美女は、僕を見る。
(ん?)
僕も彼女を見返した。
「あのね、ニホ君」
「うん」
「その、今回のクエストから帰ったら、少し時間をもらっていいかしら?」
「時間……?」
僕は、キョトンとする。
彼女は、少し言い難そうに、
「えぇ……その、少し頼みがあって」
「…………」
「駄目かしら?」
「ううん、いいよ」
心配そうな彼女に、僕はそう答えた。
どんな頼みかわからないけど、でも、マーレンさんの頼みならいいかと思う。
彼女には、ずっとお世話になっているしね。
僕の答えに、マーレンさんは安心したように息を吐く。
胸に手を当て、
「ありがとう、ニホ君」
と、僕に微笑みかけてくれた。
(うん)
僕も笑って、頷いた。
マーレンさんの話は、それで終わり。
その後、彼女に「いってらっしゃい」と見送られて、僕らは冒険者ギルドを出発した。




