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異世界に転生した僕は、チートな魔法の杖で楽しい冒険者ライフを始めました!  作者: 月ノ宮マクラ


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35/81

035・ポーション

(ふぅ……)


 僕は、大きく息を吐いた。


 1つ上のランクのクエストだったけど、何とかなったみたいだね。


 うん、よかった……。


 そのことに、僕は安堵してしまう。


 ふと見たら、カーマインさんが2本の小剣を鞘にしまいながら、こちらに歩いてくる。


 僕と目が合って、


「やったな、ニホ」


 と、白い歯を見せて笑った。


 僕は『うん』と答えようとして……でも、できなかった。


 カーマインさんの左腕。


 その服の布地がバッサリ切れて、赤く染まっていた。


(え……?)


 怪我してる?


 そこで思い出した。


 さっき、剣角の鹿が僕とフランフランさんに方に突進しようとした時、それを阻止しようとした彼は、大きく弾き飛ばされたんだ。


 その時、あの鋭い角でやられたのかも……。


(た、大変だ)


 僕は、慌てて駆け寄る。


 彼は苦笑して、


「大丈夫だ、これぐらい。傷薬を塗っておけば、すぐに治るさ」


「ううん」


 僕は、大きく首を振った。


 そして、杖君を構えて、


「――お願い」


 ヒィィン


 僕の声に応えて、杖君が輝いた。


 すると、カーマインさんの真上に魔法陣が生まれて、そこから光が柱のように降り注ぐ。


 シュオオ


 ほんの2~3秒で、彼の怪我が治った。


「おおっ?」


 カーマインさんは金色の目を丸くする。


 驚いたように、治ったばかりの左腕をグルグルと回転させたりした。 


 妹さんの方も、


「ニ、ニホ君って、回復魔法も使えるんですか?」


 と、びっくりした表情だ。


 僕は「うん」と頷いた。


(治ってよかった……)


 僕は、ホッとする。


 そんな僕のことを、獣人の兄妹は唖然としたように見ていた。


「お前は、本当に凄いな」


「ど、どれだけの魔法が使えるんですか、ニホ君は……?」


「あはは……」


 僕は、笑って誤魔化した。 


 凄いのは、実は僕ではなくて杖君なのだ。


(ありがとね、杖君)


 僕は、こっそりお礼を言う。


 ピカピカ


 杖君は、内緒話をするみたいに、控え目に光り返してくれた。


 するとその時、


 ポムッ


(ん……?)


 僕の頭に、誰かの手が乗った。


 見れば、アシーリャさんだった。


 彼女はぼんやりした表情のまま、まるで褒めるみたいに僕の髪を撫でてくれた。


(…………)


 少し恥ずかしい。


 でも、何だか心地好かった。


 …………。


 やがて、僕らは討伐の証として、鹿の角を確保。


 そして、4人と1本で、意気揚々とレイクランドの町に帰っていったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 帰り道の街道で、


「回復魔法があると、生存率は大分違うな」


 と、カーマインさんが教えてくれた。


(そうなんだ?)


 彼曰く、5割以上違うらしい。


 5割は凄いね……。


 魔法以外にも、回復の手段としてこの世界には『ポーション』もあるという。


 だけど、


「高くてな」


 と、彼は渋い顔である。


 値段を聞くと、品質の違いで変わるけど、最低でも2000ポントからだとか。


 え……20万円?


 めっちゃ高い。


「深手を治すなら、1万ポント以上だぞ?」


「…………」


「万能回復薬と呼ばれる最高品質の物は、それこそ50万ポント以上するしな」


「……うはぁ」


 僕は、呆れ顔だ。


 僕の反応に、彼は笑った。


 フランフランさんは困ったように微笑んで、


「それで命が助かるのなら、安いとも言えます。でも、庶民には手が出ませんよね?」


 と、言った。


 う~ん、確かに。


 ちなみに普通は、怪我をしたら傷薬と縫合で治すんだって。


 そうなんだね……。


 カーマインさんは、


「だから、ニホが回復魔法を使えるのは、本当にありがたいことなんだ」


 と、強く言った。 


 妹さんも「本当に」と頷いていた。


(そっか)


 僕としては、役に立てるのは嬉しい。


 彼は少し考え、


「ただ、ニホ自身が怪我をして魔法が使えなくなる可能性もあるからな。奮発して、ニホ用のポーションを1つ用意しておくか」


 と、呟いていた。


 僕のために、最低20万円の保険を用意しておくってこと……?


 う、う~ん。


 ありがたいやら、申し訳ないやら。


 そんな僕に気づいて、


「いや、ニホの安全は、そのまま全員の安全に繋がるんだからな?」


 と、言われた。


 そ、そっか。


 僕1人のためじゃなくて、みんなのためだね。


 自意識過剰で、少し恥ずかしい。


 フランフランさんは優しく笑って、


「でも、ニホ君を心配しているのも本当なんですよ?」


「…………」


「…………」


「……うん」


 僕は、少し照れながら頷いた。


 カーマインさんは「はははっ」と、そんな僕らに白い歯を見せて笑っていた。


 一方でアシーリャさんは、


「…………」


 そんな僕とフランフランさんの様子を、珍しくジッと見ていた。


(?)


 彼女を見る。


 すると、視線を逸らされた。


 はて……?


 そんな僕の右手にある杖君は、


 ピカピカ


 何だか『やれやれ』とでも言いたげに光っていた。


(???)


 どうしたの……?


 そんな1人と一本の様子に、僕は困惑したまま首をかしげてしまった。

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