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異世界に転生した僕は、チートな魔法の杖で楽しい冒険者ライフを始めました!  作者: 月ノ宮マクラ


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034・剣角の鹿

「杖君、お願い」


 ピカン


 森の中、僕の頼みに応えて、杖君は道案内の『光の蝶』を生み出した。


 ヒラヒラ


 光る蝶は、森の奥へ。


 僕ら4人は、それを追いかけた。


 …………。


 草木を踏み分け、森の奥へと進んでいく。


 やがて、10分ほど歩いて、


(あ……いた)


 茂みの奥、樹々の間に流れる小川の近くに、大きな鹿の魔物が4体、集まっていた。


 あれが『剣角の鹿』。


 体長は、約2~3メートル。


 名前の通り、広がる角の先端が無数の剣みたいな鋭利な形状になっていた。


 うん、刺されたら痛そう……。


 突進には、要注意だ。


 カーマインさんも「いたな」と呟く。


 剣角の鹿は、3体が水を飲み、1体が見張りなのか、周囲を見ていた。 


 でも、まだ、こちらには気づいていない。


(うん)


 今回も、先制できる。


 この道案内の魔法は、大きなアドバンテージをくれるね。


 さて……どうするか?


 考えていると、カーマインさんが僕を見た。


(ん……?)


 彼は、小声で言う。


「先手はフランフランの弓でいこう」


「…………」


「そのあとは、俺とアシーリャが前線で魔物を足止めする」


「…………」


「その間に、フランフランの弓で、また1体ずつしとめていく。――この戦法でどうだ?」


「……うん、いいと思う」


 僕も頷いた。


 さすがEランク冒険者。


 戦い方に慣れている、と思えた。


 フランフランさんも「う、うん、兄さん」と頷いた。


 アシーリャさんは、


「…………」


 ぼんやりした表情のままだけど、多分、理解してくれてるだろう。


 僕も言う。


「じゃあ、僕も魔法で牽制するよ」


「できるのか?」


「うん」


「そうか、なら任せる。ニホは、フランフランのそばにいてくれ」


「うん、わかった」


 僕は頷いた。


 杖君には、防御魔法もある。


 足止めを抜けられても、最悪、彼女を守れるだろう。


 僕は、獣人の少女を見た。


「よろしくね、フランフランさん」


「は、はい」


 彼女は、少し恥ずかしそうに頷いた。


 …………。


 作戦は決まった。


 カーマインさんは2本の小剣を、アシーリャさんは長剣を鞘から抜いた。


 僕も、杖君を構える。


 フランフランさんも弓に矢をつがえて、


 キ……ッ


 ゆっくりと引き絞る。


 その時、


 ピクッ


 見張りの剣角の鹿が反応し、こちらをパッと見た。 


(!)


 気づかれた?


 瞬間、


「やれ、フラン!」


 カーマインさんが合図する。


 同時に、フランフランさんは茂みから立ち上がり、手にした弓からバシュンと矢を放ったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ドシュッ


 フランフランさんの矢は、見事、見張りの鹿の眉間に命中した。


 深く刺さっている。


 魔物は眼を見開いて、


 ズズゥン


 そのまま、横倒しになって地面に倒れた。


 突然、仲間が殺されて、残された3体の『剣角の鹿』は驚いた様子だった。


 そして、僕らの存在に気づく。


 その眼球に、憤怒が灯った。


 剣のような巨大な角をこちらに向けて、足で地面を蹴りながら突進する体勢を取った。


(!)


 まずい、と思った。


 あの巨体と角での突進は、かなりの脅威だ。


 けど、その寸前、カーマインさんとアシーリャさん、こちらの剣士2人が飛び出した。


「りゃあ!」


 ガキィン


 彼の振るった2本の小剣が、剣のような角とぶつかり火花を散らした。


 アシーリャさんの青い長剣は、


 ヒュパン


 魔物の1体の前足を浅く裂いて、たたらを踏ませていた。


(上手い)


 突進される前に、攻撃を止めた。


 そのまま2人は、3体の魔物の前方で動き回りながら、その剣を振るっていく。


 魔物は、その場に釘付けだ。


 見事な牽制。


 そして、その間に、フランフランさんは第2の矢を用意して、


 バシュン


 その鋭い矢を放った。


 ドシュッ


 矢は狙い確かに、2体目の剣角の鹿の心臓を貫いた。


 ズズン


 巨体が地面に倒れた。


(よし)

 

 これで、あと2体。


 勝利まで、もう少し……。


 そう思った時、剣角の鹿の1体がフランフランさんの存在に気づいた。 


『ブフォ!』


 咆哮し、こちらに突進してくる。


 慌てて、カーマインさんが間に入るも、


 バキィン


「ぐっ!?」


 体格と体重差で、簡単に弾かれた。


 気づいたアシーリャさんが素早く反応して、アルテナの長剣を振るった。


 ヒュパッ


 腹部を斬った。


 けれど、魔物は止まらない。


 紫色の鮮血を散らしながら、僕らへと迫ってくる。 


 その眼には、強い覚悟があった。

 

 僕は、白い杖を前方に構えた。


「杖君、射撃準備」


 ピカン


 杖の先端に、光が集まる。


 僕は息を吐き、


「――発射」


 杖の先端の光から、無数の『光の弾丸』がバシュシュッ……と、マシンガンのように撃ち出された。


 狙いは、魔物の頭部。


 その眼球だ。


 ボパパァン


 何十もの弾丸の内、数発が命中した。


 視界が奪われ、突進が鈍る。


(――今)


 僕は射線を変更して、今度は、魔物の足へと攻撃を集中する。


 ボパパァン


 殺傷力はない。


 でも、衝撃は相当だ。


 光の弾丸はその右足で無数に弾け、それに耐え切れずに巨体のバランスが崩れた。


 ズザァッ


 魔物が膝をつき、転倒する。


 突進が止まった。 


 その瞬間、


 ドシュッ


 動きの止まった眉間に、フランフランさんの3本目の矢が突き刺さった。


 グラッ ズズゥン


 魔物の巨体は、横倒しになった。


「ふぅ」


 彼女は息を吐く。


 そして、4本目の矢を弓につがえて構え……けれど、それを放つことはなかった。


 その視線の先では、


 ヒュパン


 アシーリャさんの青く輝く長剣が、最後の1体の首を斬り落としていた。


(うわ……)


 一緒に、巨大な角も斬れている。


 なんて威力だ。


 それには、獣人の兄妹も驚いた顔だった。


「…………」


 アシーリャさんは無言のまま、ぼんやりと魔物の死体を見ていた。


 ポタ ポタ


 長剣の先から、紫色の血が垂れる。


 森を吹く風に、彼女の長い黄金の髪がたなびいていた。


 …………。


 こうして僕らは、初めてのEランククエストを無事に成功させることができたのだった。

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