030・お試し
無事、パーティーは結成した。
なので、
「じゃあ、クエスト受けてみようか?」
と、僕は提案した。
カーマインさんも「おう、そうだな」と頷いた。
妹さんの方も見る。
彼女も「は、はい」と同意してくれた。
(うん、よかった)
まずはお互いを知るためにも、一緒にクエストをやるのが1番だよね。
アシーリャさん、杖君にも異論はない様子だ。
と言うことで、掲示板の前へ。
(何にしようかな?)
少し悩む。
僕とアシーリャさんはFランクで、獣人の兄妹はEランクの冒険者だ。
1つ、ランクが違う。
冒険者ガイドブックによれば、その場合は、一応、Eランクのクエストまで申請できるんだって。
ただ受注許可は、冒険者ギルドで判断する。
クエスト難度とパーティーの総合力を比較して、難しい場合は、ギルド側で却下されてしまうのだそうだ。
(う~ん?)
と、考えていると、
「今日は初日だし、いつも、ニホたちの受けてるクエストはどうだ?」
と、カーマインさん。
僕は目を丸くする。
「え……いいの?」
「あぁ。ま、様子見だ」
「…………」
「それにお前たちのやり方を、1度、見てみたいしな」
と、彼は笑った。
妹さんも「う、うん」と頷く。
そっか。
「うん、わかった」
僕は頷いた。
じゃあ、いつもの……っと。
ペリ ペリ
薬草集めとホーンラビットの討伐、その2つの依頼書を確保した。
それを見たカーマインさんは、
「ほぉ……」
と、呟いた。
(ん……?)
僕の視線に、
「いや、本当に2つのクエストを受けるんだと思ってな」
「…………」
「今日中にできるのか?」
「うん、もちろん」
僕は頷いた。
当たり前に頷いた僕を、彼はしばらく見つめた。
「そうか」
「…………」
「よし、じゃあ、受注しようぜ」
「うん」
軽く肩を叩かれ、僕らは受付に向かった。
受注は、すぐに完了。
ホーンラビットは素材目的だったので、保存箱もレンタルした。
ガシャッ
保存箱は、アシーリャさんが背負ってくれた。
カーマインさんは「俺が持とうか?」と言ってくれたけど、今回は僕らのやり方を見せるってことで遠慮した。
アシーリャさん本人も、気にしてない様子。
と言う訳で、準備もOK。
「じゃあ、行こうか」
「は、い」
「おう」
「が、がんばりましょう」
ピカン
僕らは頷き合って、この4人と1本で初めてのクエストに出発した。
◇◇◇◇◇◇◇
町の正面門を出て、街道を歩く。
天気は快晴。
木立の向こうには、キラキラ輝く湖の水面が見えた。
「いい天気だね」
「は、い」
僕とアシーリャさんは、いつもの会話を交わしながら歩く。
獣人の兄妹はそれを眺めて、
「なぁ?」
「ん?」
「ニホとアシーリャは、どんな関係なんだ?」
「え……?」
「姉弟っぽいけど、違うんだろ? 少し気になってな」
「あ~、うん」
彼の言葉に、僕は曖昧に頷いた。
関係……か。
僕は言葉を選びながら、
「アシーリャさんは、クエスト中、たまたま僕が助けてね」
「ほう?」
「でも、彼女、記憶がなくて。それで放っておけなくて、僕が引き取ったんだ」
「…………」
「僕、他に身寄りがないからさ。出会って間もないけど、一緒に暮らしているし……今は、うん、家族みたいな感じかな」
「そうか……」
僕の言葉に、2人は頷いた。
そして、アシーリャさんのことを見る。
彼女は、ぼんやりした様子だ。
うん、いつも通り。
僕は、それに笑って、
「普段はぼんやりしてることが多いけど、でも、いざという時には、本当に頼りになるお姉さんだよ」
と、2人に教えた。
チラッ
アシーリャさんが僕を振り返る。
「…………」
少しうつむいた。
(おや……?)
少し照れてる?
カーマインさんが「なるほどな」と苦笑した。
そして、
「お前ら2人の仲が良いってことは、充分、伝わったよ」
と頷いた。
フランフランさんも「ふふっ」と口に手を当て、微笑む。
(…………)
何だろう?
改めて言われると、少しくすぐったい。
ピカピカ
杖君もからかうように点滅した。
(もう……)
そんな杖君に、僕も苦笑する。
…………。
そんな会話をしながら街道を歩き、やがて僕らは、湖の東の森に到着した。
◇◇◇◇◇◇◇
4人で、森の中へと入る。
大きな樹々が並び、草花が生い茂る空間だ。
当たり前だけど、植物だらけ。
獣人の兄妹は、その獣耳をピクピクと周囲に動かしていた。
(さてっと)
僕は、足を止めた。
みんなも止まる。
カーマインさんとフランフランさんの視線を感じながら、僕は白い杖を構えた。
「杖君、お願い」
ピカン
杖君が光る。
同時に、光の波紋がピィンと周囲に同心円状に広がった。
「うおっ?」
「きゃ?」
兄妹の驚きの声。
そして、波紋が消える。
あとの森の中には、薬草だけがハイライトされたように光っていた。
(うん)
僕は、新しい仲間を見て、
「さ、薬草を集めよう?」
と笑った。
でも、2人は茫然としていた。
お兄さんの方が、
「いやいやいや……何だよ、こりゃあ?」
と、呟いた。
光る薬草に、びっくりしている様子。
僕は、キョトンだ。
フランフランさんが僕を見る。
「これって……もしかして、探査魔法、ですか?」
と聞かれた。
探査魔法?
僕は、目を瞬く。
「あ……うん。多分、そうかな?」
「…………」
「…………」
「……凄いですね。こんな魔法、私、初めて見ました」
「そ、そう」
僕は、曖昧に頷いた。
考えたら、僕、他の人の魔法を知らないっけ。
(う~ん?)
杖君の魔法、普通と少し違うのかな?
今更、気づく僕でした。
カーマインさんも、
「なるほど、薬草集めの天才児……か」
「…………」
「やるじゃないか、ニホ。こんな魔法があるとは、さすがに驚いたぜ」
バシッ
明るく笑って、背中を叩かれた。
(ぐはっ)
ちょっと痛い。
でも、2人の感心したような視線は、少し気持ちいい。
サクッ サクッ
その間にも、アシーリャさんは1人で採取を始めていた。
あ……。
僕はハッとして、
「僕らも集めよう、カーマインさん、フランフランさん」
「お? そうだな、やるか」
「は、はい」
2人も頷いた。
小さなナイフを手に、採取を始める。
サクッ
薬草を集めながら、
「杖君、ありがとね」
手元の白い杖に、小声で感謝を伝えた。
ピカン
杖君も控えめに光った。
…………。
そうして僕らは4人で、ハイライトされた薬草を集めていったんだ。




