028・勧誘
僕は驚きながら、
「それって……僕らと『パーティー』を組みたいってこと?」
と確認した。
マーレンさんは「ええ」と頷く。
彼女は笑いながら、
「自覚があるかわからないけれど、ニホ君たちは今、ギルドでも注目の新人冒険者なのよ?」
「そうなの……?」
「そうよ。だって、1日で2クエストもこなしてるじゃない。それも毎日」
「…………」
「そのハイペースに、みんな、驚いてるのよ」
マーレンさんは、そう言い切った。
(う、う~ん?)
でも、僕は半信半疑。
すると、そんな僕に気づいて、マーレンさんは「ニホ君、後ろを見て」と囁いた。
後ろ……?
キョトンとしながら、振り返る。
(あ……)
同じフロアにいた冒険者の何人かが、僕らのことを見ていた。
振り向いた瞬間、サッと視線を外す。
…………。
僕は、ちょっと呆然だ。
「ほらね?」
「…………」
「みんな、ニホ君たちの動向を気にしてるの」
「……うん」
「それで話を戻すけれど、そうした人たちの誘いをニホ君たちは受ける気あるかしら?」
「…………」
マーレンさんの言葉に、少し考える。
どうしよう?
チラッ
アシーリャさんを見るけれど、彼女は関心がなさそうだ。
いつも通り、ぼんやりしている。
杖君は、
ピカン
思った通りにすれば? という風に光った。
(…………)
僕は悩む。
正直、メリットが浮かばない。
だって今の所、僕らはクエストで困っていないんだ。
ある意味、順調。
もしパーティーを組んだら、人数が増えた分、報酬の分け前は減ってしまう。
むしろ、デメリットだ。
だったら、このまま2人と1本でいた方がいい気もする。
と思ったら、
「私は1度、試してみるのをお勧めするわ」
と、マーレンさん。
(え?)
僕は、彼女を見た。
長年、多くの冒険者を見てきた受付嬢さんは、
「ニホ君、今はFランクでしょ?」
「うん」
「でも、その内に昇格してランクが上がると思うの。そうすると、受けるクエストのランクも上がる。つまり、難易度も上がっていくわ」
「…………」
「そうなると、2人では厳しい場面も出てくると思うの」
「…………」
「だからね、今の内から他の人と組む経験するのも悪くないと思うわ」
彼女は、そう微笑んだ。
そっか……。
確かに一理ある気がする。
信頼する受付嬢さんのアドバイスに、僕はまた考え込んでしまった。
そんな僕を、マーレンさんは見つめる。
彼女は、少し首をかしげて、
「そうね……もし判断が難しいなら、短期間で組んでみるのはどうかしら?」
「え?」
「お試し期間っていうのかしら? まず10日間ぐらい一緒にやってみて、問題がなさそうなら、そのまま正式にパーティーを組むとか、ね」
「そんなやり方、いいの?」
「もちろん」
驚く僕に、彼女は頷いた。
むしろ、その方がパーティーを組む方法としてはお勧めらしい。
(そうなんだ?)
でも、そうか。
人間には、やっぱり相性がある。
性格のいい人同士でも、相性の合う人、合わない人もいるだろう。
特に冒険者は、お互いの命を預けるのだ。
それを考えたらね。
(うん、お試しもありかもしれない)
僕は頷いた。
「じゃあ、1度、お試しで」
「わかったわ」
僕の返答に、マーレンさんは微笑んだ。
それから、現在、勧誘は3件あると教わった。
ただし、
「1件はDランク冒険者たちで、少しランク差が大きいの。もう1件は、言い方は悪いけど、金銭主義な面があって仲間とか軽視してる人たちなのよね」
とのこと。
それはちょっと……。
僕らとしても、遠慮したい。
マーレンさんも、あまりお勧めできない感じだった。
そして、
「最後の1件は、Eランク冒険者の兄妹ね。ニホ君たちと同じ2人組で、年齢も近いみたいだわ」
「ふぅん」
彼女としては、それがお勧めみたいだ。
僕は頷いた。
「じゃあ、その人たちで」
「いいの?」
「うん」
「わかったわ。それじゃ、連絡しておくわね」
「うん、お願いします」
と、頼んだ。
それから、隣のアシーリャさんを見る。
「アシーリャさん」
「……は、い」
「えっとね、今度、他の人とクエストすることになったんだけど……いいかな?」
「…………」
彼女は、ぼんやり僕を見つめた。
それから、
「は、い」
と、長い金色の髪を肩からこぼしながら頷いた。
(よかった……)
事後承諾だったけど、僕は安心した。
それから、杖君も見る。
「杖君も、いいかな?」
ピカン
杖君は明るく光った。
(うん)
その輝きに、僕も笑った。
…………。
そうして僕らは、1度、知らない冒険者たちとパーティーを組むことになったんだ。




