022・弾丸魔法
今日も、僕らは森で薬草を集めた。
「よし、終わり」
サクッ
これで、目標数30本を確保。
ナイフで刈った薬草を、僕は肩かけ鞄にしまう。
日課が終わったら、次は受注していた討伐クエストの開始だ。
今回も、火狼の駆除。
指定数は、5体。
前回よりも多い。
その分、期日は10日で、報酬も700ポントになっていた。
そして今日は、
(新魔法の試し撃ちだ)
どうなるかな?
ドキドキ
少し緊張しながら、湖の北側の森に向かった。
1時間ほどで到着。
「杖君、お願い」
ピカン
杖君は輝いて、光の蝶を生み出した。
それを追いかけ、僕とアシーリャさんは森の中へと入った。
…………。
20分ほどで、火狼の群れを見つけた。
数は、7体。
うん、ちょうどいい数だ。
アシーリャさんを見て、
「じゃあ、始めるよ」
「は、い」
シャリン
彼女は頷いて、白刃の煌めく長剣を鞘から抜いた。
低く構える。
それを見届けて、僕はまず自分たちの周囲に防御魔法の『光の球体』を展開した。
そして、杖の先に『虹色の光球』を作る。
(えいっ)
杖を振るって、
ドパァン
火狼の群れの上空で、光球は爆発した。
閃光と衝撃波が広がる。
森の樹々は激しく揺れ、火狼の内の2体が吹き飛ばされて気絶し、3体が転倒、残った2体だけが無事だった。
タッ
瞬間、アシーリャさんは走った。
風のように接近して、
ヒュパン
長剣を振り抜き、無事だった1体の首を刎ね飛ばした。
首無しの胴体から、鮮血が噴く。
残ったもう1体は牙を剥いて、長剣を構えるアシーリャさんと向き合った。
ガルルッ
激しい威嚇の声。
そして、その間に、転倒していた3体が起きあがる。
あの3体も加勢したら、1対4の状況だ。
(そうはさせない!)
僕は、杖君を構えた。
さぁ、練習の成果を見せよう。
「杖君、撃って!」
僕は告げた。
ピカン
杖君が光る。
その先端に魔法陣が生まれ、光球ができあがった。
ヒィン
光が強まり、
パシュン
そこから3センチほどの『光の弾丸』が発射された。
ボパァン
起き上がりかけた火狼の腹部に命中して、魔物はもんどりうって再び地面に転がった。
残った2体は、ギョッとする。
そこに僕は、
パシュッ パシュッ
更に2発、光弾を発射した。
ボンッ ドパン
火狼たちの頭部と、太い後ろ足に命中する。
頭部に当たった1体は、脳震盪を起こしたのか、そのまま気絶してしまった。
もう1体は立っているけど、足を痛めて動けなくなったようだ。
(よし)
上手く、足止めできている。
その間に、アシーリャさんは向き合った火狼の攻撃をかわして、そのがら空きの首に長剣を振り下ろしていた。
ヒュパン
またも、首が飛ぶ。
紫色の返り血が、金髪の美女に少しかかっていた。
すると、その時、
(あ)
転倒していた火狼が大きく口を開けていた。
喉の奥が赤く輝く。
まずい。
僕はすぐに白い杖を構えて、
パシシュッ
光弾を連射した。
同時に、火狼は口から『火の玉』を吐き出して、そこに光弾が命中した。
ボバァン
火の玉が爆発する。
至近距離で爆発して、火狼の顔面が焼かれてしまった。
悲鳴をあげて、のたうつ。
ドシュッ
そこに、アシーリャさんの長剣が突き立てられた。
狙いは正確に、心臓だ。
火狼は、すぐに絶命する。
「…………」
アシーリャさんは血濡れの長剣をクルンと回転させて、血を払った。
その視線は、次の獲物へ。
足を痛めた火狼は、必死に逃げていく。
それを見て、
「アシーリャさん」
僕は、彼女に声をかけた。
彼女の足が止まる。
無理に全部を殺す必要はなかった。
クエストの目標数は、5体。
襲ってくる個体はともかく、逃げる個体までは追わなくてもいいだろう。
……甘いかな?
でも、それが僕だ。
アシーリャさんも文句は言わなかった。
(うん)
そのあと、気絶した3体は、
トス トス トス
アシーリャさんの長剣に心臓を刺されて、絶命した。
合計6体。
1体多いけど、クエスト達成だ。
「ふぅ」
僕は息を吐く。
新しい『光の弾丸』の魔法は、思った以上に役に立った。
正直、嬉しい。
おかげでアシーリャさんも、余裕を持って戦えたと思うんだ。
どうだった?
そう聞く前に、
ポムッ
彼女の手は、また僕の頭に乗せられた。
髪を撫でられる。
「…………」
見れば、アシーリャさんは、どことなく優しい表情だ。
……うん。
その表情だけで満足だ。
(よかった)
僕も、つい笑ってしまった。
そんな僕らに、
ピカ ピカ
杖君も穏やかに虹色の光を放っていた。
◇◇◇◇◇◇◇
今回の報酬は、1300ポントだった。
クエスト報酬、700ポント。
それに加えて、魔物素材が6体分、600ポントで買い取ってもらえた。
うん、いい収入だ。
日本円で約13万円。
僕は、その内の12万円を使って、アシーリャさんの『革鎧』を買った。
「どう?」
「いい、で、す」
彼女は頷いた。
革鎧は、金属鎧ほど重くない。
アシーリャさんの動きを邪魔することもないだろう。
グイ グイ
彼女は、身体を捻ったりして感触を確かめている。
でも、不満はなさそうだ。
(よかった)
これで、彼女の防御力がまた上がった。
……うん。
そろそろ、考えてもいいかもしれないな……。
◇◇◇◇◇◇◇
「明日、雷爪熊の討伐に挑戦してみない?」
その夜、僕はそう聞いた。
お風呂上がりで、ベッドに座っていたアシーリャさんは、キョトンとした。
ちなみに僕は、その長い金髪をタオルで拭いていた。
ポフ ポフ
手を止めないまま、
「杖君もどうかな?」
と、聞く。
雷爪熊。
冒険者ガイドブックによれば、帯電した爪を持つ熊の魔物らしい。
ただ、かなり手強そう。
Fランクのクエストは色々ある。
けど、雷爪熊の討伐だけは、いつも対象が1体なんだ。
しかも、報酬も高い。
なんと、1500ポント。
日本円で約15万円。
これは、他のどのFランクのクエストより高かった。
通常、討伐クエストは、素材目的の方が高く、駆除目的の方が安くなる。
これは、駆除の方が倒し方の制限がないためだ。
つまり、難易度が低い。
雷爪熊のクエストは、駆除目的だ。
なのに、素材目的の他のクエストよりも報酬が高くなっているのだ。
その意味は、自ずとわかるだろう。
そう、
(それだけ雷爪熊は、強いんだ)
他の魔物に比べて。
それも、格段に。
正直、僕も迷った。
でも、火狼のクエストを2度こなして、僕らも意外と強いとわかった。
アシーリャさんの剣。
杖君の魔法。
それは、火狼の群れを無傷で制圧できるレベル。
なら、
(雷爪熊にも、通用するんじゃないかな……?)
そう思うんだ。
今回、アシーリャさんの防具も増えた。
ここで、1度、Fランクの最高峰に挑戦してみるのも悪くないかと思ったんだ。
もちろん、安全が最優先。
無理そうなら、逃げる。
クエスト失敗になってもいい。
大事なのは、現在の自分たちの位置を知ること。
僕らの強さ。
それは、どこまで通用するのか?
それを知っておくことは、今後、予期せぬ状況に出会った時にも生き延びるための役に立つと思うんだ。
余裕がある今、だから。
少し冒険してみようかと思ったんだ。
…………。
僕は、アシーリャさんと杖君を見つめた。
すると、
「は、い」
と、彼女は濡れた金髪を揺らして、頷いた。
表情は、ぼんやりしたまま。
意味がわかってるのか、わからない。
でも、
「…………」
その瞳には、信頼の光があった。
僕が決めたことなら構わない――そう言外の声が伝わってきた。
(……アシーリャさん)
何か、胸に来る。
そして杖君も、
ピカン
明るく輝いた。
杖君は、いつだって僕の味方をしてくれる。
うん……。
「ありがとう、アシーリャさん、杖君」
僕は、はにかんだ。
ポフッ
彼女の手が、僕の頭に乗せられる。
また撫でられた。
僕はしばらく青い目を閉じて、その行為を受け入れた。
…………。
雷爪熊の討伐。
Fランク最高峰のクエストに、明日、僕らは挑戦することにした。




