002・異世界
転生した僕は、
「……本当に転生したんだね」
と、呟いた。
周囲の森を見回して、それから、右手に握った白い杖を見る。
杖の先端が、ピカンと虹色に光った。
(……あれ?)
そこで気づく。
杖を持つ自分の手が、妙に小さい。
まるで子供の手だ。
ペタペタ
全身を触ったり、眺めたりしてみると、うん、どうやら僕は子供の身体になってしまったみたいだ。
多分、10~12歳ぐらいかな?
(そっかぁ)
これが転生ってことか。
何だか不思議な感覚だよ。
また今の僕は、白っぽい布服の上下を身につけていた。
あと、丈夫そうな革靴。
それらの上から、白色のローブを羽織っていた。
うん、旅人らしい姿。
それともう1つ、肩かけ鞄も提げていた。
中に何か入っている。
(何だろう?)
ガサガサ
「……お?」
確認してみると、小さなナイフ、果物2つ、水筒、硬貨の入った革袋があった。
旅の道具だ。
転生のプレゼントかな?
(ありがとう、おじいさん)
僕は、そう心の中で手を合わせておいた。
中身を鞄にしまい、
「さてっと」
僕は、立ち上がった。
周りを見る。
周囲は、360度、森の景色だ。
できれば、まず森を出て、町や村などの人里に出たいと思った。
でも、
(どっちに行けばいいんだろう?)
ちょっと困った。
その時、
ピカッ
白い杖の先端が光った。
(ん?)
先端の先の空中に、小さな魔法陣が生まれた。
ポン
そこから『光の蝶』が出た。
(えっ?)
その光の蝶は、僕の頭上を1周すると、
ヒラヒラ
森の奥へと飛んでいく。
そこで停止。
僕が近づくと、
ヒラヒラ
また森の奥へと一定の距離を保ったまま、飛んでいく。
もしかして、
(道案内してくれてる……?)
僕は、白い杖を見た。
ピカピカ
その先端が点滅した。
そっか。
『――その杖は……君の思考を読み、必要な魔法を具現してくれるじゃろう』
おじいさんは、そう言っていた。
つまり、そういうことなんだ。
僕は笑って、
「ありがとう、杖君。じゃあ、お願いするね」
ピカン
杖君も強く光った。
そうして僕は、光る蝶を追いかけて、森の奥へと進んでいったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「あ、川だ」
光る蝶を追っていると、途中で小川を見つけた。
綺麗な水だね。
透明度が高くて、水中に泳いでいる小魚の姿もはっきりとわかる。
覗き込んでいると、
(あ……)
僕は、ふと水面に映る子供の姿に気づいた。
日本人っぽい黒髪に、澄んだ湖みたいな青い瞳をした10歳ぐらいの男の子だ。
一瞬、女の子かと思える顔立ち。
「…………」
ふ~ん?
これが今の僕、かぁ。
小さな手で、自分の頬を撫でる。
すると、水面の男の子も同じ動作で自分の顔を撫でていた。
(あはっ)
僕は笑って、
「うん、これからよろしくね、新しい僕」
そう声をかける。
そんな僕に、水面の男の子も優しく笑ってくれたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
光る蝶を追いかけて、1時間ほど歩いた。
まだ森の中だ。
(ふぅ、ふぅ)
少し息が切れる。
子供の身体になったから、体力が少ないのかな?
足も少し重い。
…………。
僕は息を吐いて、
「杖君、ごめんね。ちょっと休憩」
ピカピカ
謝ると、杖君は『構わないよ』と明滅してくれた。
ありがとう、杖君。
そうして僕は、近くの大きな樹の根を椅子代わりにして、腰を下ろした。
ヒラヒラ
光る蝶は、僕の頭に着地。
あはは……。
僕は笑って、水筒の水を飲んだ。
(うん、美味しい)
まさに生き返る心地だ。
深く息をついて、僕は顔をあげた。
目の前には、どこまでも森の景色が広がっていた。
爽やかな空気。
吹き抜ける風も心地好く、樹々の葉の隙間からは木漏れ日が差していた。
(綺麗だな……)
思わず、青い瞳を細めた。
その時、
ピカピカッ
突然、何かを警告するように、杖君の先端が激しく明滅した。
(え、何?)
驚く僕。
すると、
ガサッ
5メートルほど離れた茂みが揺れ、何かが飛び出してきた。
「!?」
ビクッ
思わず、硬直する。
そこにいたのは、フワフワした丸い毛玉に長い耳が生えた、ウサギみたいな生き物だった。
その額に、細長い角が生えている。
(え……何これ?)
動物?
というか、もしかして、魔物?
僕は、目を瞬く。
でも、その間も杖君は、何かを訴えるように激しい明滅を繰り返していた。
(……まさか?)
その意味に、ようやく気づく。
慌てて、立ち上がった。
その瞬間、
ドンッ
その目に強い殺意を漲らせた角ウサギは、僕へと飛びかかってきたんだ。




