016・達成
僕らは、草の茂みから飛び出した。
ガサッ
大きな音が響き、5体のホーンラビットは一斉にこちらを振り返った。
その眼に、敵意が灯る。
ダダッ
魔物の群れは、5体同時に僕らに襲いかかった。
(――来た)
僕は白い杖を構えて、
「杖君、防御魔法!」
ピカッ
杖君が輝き、僕らは『光の球体』に包まれる。
パキィン
先頭のホーンラビットが弾かれた。
パキッ パキィン
続けて、2体目、3体目も弾かれて、地面に転がる。
その間に僕は、杖君を上に構えた。
ヒィン
白い杖の先端、その空中に光の粒子が集まる。
ジジ……ッ
そして、直径10センチほどの『虹色の光球』が生まれた。
行くぞ!
僕は前に踏み込み、
「えいっ!」
白い杖を前方へと大きく振るった。
先端にあった虹色の光球は、そのまま空中へと放り投げられて、
ドパァン
凄まじい爆発を起こした。
白い閃光。
そして、同心円状に衝撃波が広がった。
地面の草が踊り、太い樹々の枝が揺れて、たくさんの葉が舞い散った。
「!!!」
アシーリャさんは、びっくりした顔。
杖君の攻撃魔法だ。
僕ら2人は防御魔法の光の球体に守られて無事だった。
でも、ホーンラビットは違う。
衝撃波をまともに浴びたホーンラビットは、3体が気絶、2体は意識があるけど、ヨロヨロとしていた。
僕は言う。
「アシーリャさん、お願い!」
「は、い」
彼女は頷いた。
金髪をなびかせ、前に走る。
走りながら長剣を鞘から抜いて、白い閃光のように振るった。
ヒュコン
意識のある2体の首が飛んだ。
トサ トサ
軽い音と共に、草むらに転がる。
(よし)
残ったのは、気絶した3体だけだ。
アシーリャさんは、3体の前に立つとその首目がけて、トス、トス、トス……と長剣を刺していった。
血だまりが広がる。
5体のホーンラビットは、全滅した。
こちらは無傷。
「ふぅ」
僕は、安堵の息を吐いた。
5つの死体。
それを見て、
(…………)
少しだけ命を奪う罪悪感を覚え、10秒ほど黙祷する。
目を開けて、
「お疲れ様でした、杖君、アシーリャさん」
と、微笑んだ。
ピカピカ
杖君は明るく光る。
アシーリャさんは、長い金髪を尻尾みたいに揺らしながらこちらに来て、
ポム
僕の頭に手を乗せた。
「…………」
無言のまま、撫でられる。
(えっと……)
多分、褒めてくれたのかな?
何はともあれ、これで素材は5体分、追加だ。
保存箱にしまう。
残りは、あと2体。
(うん、がんばろう)
僕は気を引き締めて、
「じゃあ、次のホーンラビットを探しに行こう」
「……は、い」
ピカン
僕ら2人と1本は、獲物を探して、また森の奥へと進んでいく。
…………。
やがて、30分後。
更に2体のホーンラビットを無事に倒して、僕らは町への帰路に着いたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「たった1日で……!?」
冒険者ギルドの受付で、マーレンさんは唖然としていた。
期日5日のクエスト。
それを僕らは、1日で完了したのだ。
証拠に、受付カウンター上には、10体分のホーンラビットの死体が積み上がっていた。
僕は笑って、
「今回も、魔法を使ったから」
ピカン
杖君を光らせる。
ハーフエルフの受付嬢さんは放心し、やがて、首を振る。
「そうね、ニホ君だもんね」
「うん」
「薬草採取だって、当たり前のように1日で終わらせてるんだもの。彼なら、こういうこともあるわよね……?」
「……うん?」
「ええ、深く考えたら負けだわ、マーレン」
彼女は、そう頷いた。
…………。
何だか、大袈裟だなぁ。
それから、マーレンさんは『鑑定眼鏡』で品質を確認。
どれも問題なし、となった。
(うん)
僕は、隣のお姉さんを見上げて、
「アシーリャさんの剣捌きのおかげだね」
「…………」
ムフン
金髪のお姉さんは、少しだけ得意げに鼻を鳴らした。
そして僕らは、報酬を受け取った。
薬草集めの分も合わせて、610ポント。
約6万1000円だ。
アシーリャさんと山分けすると、1人3万500円だね。
「はい、アシーリャさん」
僕は、彼女に半額を渡す。
でも、アシーリャさんは受け取らない。
(?)
アシーリャさん?
キョトンとなる僕に、
「ニホ、さん……持って……て、くださ、い」
「え……」
彼女が喋った。
それも、いつもより意味のある長い文章を……。
僕は、びっくり。
そして、その意味を理解して、
「僕が預かってて、いいの?」
「は、い」
彼女は、頷いた。
表情は、ぼんやりしてる。
でも、頭の中はもしかしたら、馬車に閉じ込められた前の状態に治り始めてるのかもしれない。
それは、きっといい兆候だ。
僕は笑った。
「うん。じゃあ、大切に保管しておくね」
「は、い」
長い金髪を揺らして、彼女はまた頷く。
……うん。
何だか嬉しいな。
そんなアシーリャさんのことを、僕はしばらく見つめてしまったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
宿屋への帰り道。
(明日は、どうしようかな?)
僕は、そんなことを考えていた。
転生して13日。
僕は毎日、薬草集めのクエストをこなしていた。
でも、そのせいかな?
ここ数日、いつもの森で見つかる薬草の数が極端に減ってしまっていた。
取り尽くしてはいないと思うけど。
でも、このままだと薬草は全滅してしまうかもしれない。
元々、薬草集めのクエストは、2~3日かけてやるものだし、受ける人自体が少ないクエストみたいだったから、毎日、取るのは想定外なんだろう。
違う森に行くか?
(でもなぁ……)
そこは、湖の東の森より魔物の遭遇率が高そうだ。
危険度が違う。
それなら、最初から討伐クエストも受けた方がいいかもしれない……とも思う。
ただ、討伐クエストは常設じゃない。
薬草集めは常設だから、毎日できた。
でも、今日のホーンラビットのクエストは、達成したら、また次に出るまでしばらく期間が空くんだ。
だから、違う討伐クエストを受ける必要がある。
(…………)
ホーンラビット以外の魔物、か。
手強そうだよね?
魔法使いの僕はともかく、剣士のアシーリャさんは接近戦を行うんだ。
現在の装備は、長剣だけ。
さすがに心許ない。
やはり、防具を買うべきかな?
幸いにして、今日の収入で少しお金に余裕もできたしね。
とすると、
「明日は、買い物かな?」
僕は呟いた。
ずっとクエストの毎日だったし、1日休みにして買い物するのもありかもしれない。
うん、そうしよう。
僕は頷いて、
「アシーリャさん」
「?」
「明日は、一緒に町に出かけたいんだけど……いい?」
「……は、い」
コクン
長い金色の髪を揺らして、彼女は頷いた。
(ん、よかった)
僕はホッとする。
そんな僕らに、杖君も、
ピカピカ
柔らかく光っていた。
…………。
そうして僕とアシーリャさんは、明日、2人で買い物に出かけることが決まったんだ。




