嘘
「信じてたよ誠くん……大好き」
俺の顔を見ながらうっとりとした表情で美鈴は言う。
俺は、美鈴を選んだ。
その判断が正しいか間違ってるかは分からないが少なくともどうであれ後悔はしない。
しないと言うか……したくない。
自分の信念に従って決断した以上どうなろうとその先の未来を受け入れて進む。
それが、俺なりのケジメだ。
と何か大層な選択をしたような口ぶりだが実際は美鈴の肩を持って嘘に乗ることを決めただけである。
意味のない嘘はあの局面では絶対につかない。そう信じていいんだよな?
いや、勝手に信じさせてもらう事にしよう。
今は俺の部屋で美鈴と改めて反省会のようなものを開いている。
というのも俺が美鈴を助けたすぐ後に生徒会長は突然
「……そうだったんだ!ならいいや!疑ってごめんね桜。私はこれで失礼するよ」
なんと納得するような素振りを見せたのだ。
ついさっきまであんなに疑っていたと言うのに
そうして俺たちの返事も待たずに帰って行ってしまった。
俺は追及地獄が待ち受けていることを覚悟していたのだが。
そんな事はなく、さっきまでの勢いを捨ててあっさりとその場を退いたのだ。
さすがにこの豹変っぷりが異常だと俺でも分かる。
そして、残った俺たちは戻って部屋で話し合いをすることを決めたんだが……
「本当にありがとうね誠くん……合図もしてないのに咄嗟に合わせてくれるなんて……これが愛の力?」
美鈴は心底嬉しそうに顔をほころばせながら俺にすり寄ろうとしてくる。
何とかそれを全力でかわす。
愛って言うか……うん、信頼の力と言おうじゃないか。
まぁ何だ、咄嗟についた嘘に協力してくれた事が余程嬉しいそうだ。
その気持ちは分からないでもないんだが……
「一回落ち着けっての美鈴……ちゃん。話進まねーからさ」
「あ!美鈴ちゃんって呼んでくれた!」
「いや一週間お前が呼べって言ったんだが!?」
この通りすっかり浮かれきっていて話が進まない。
もう時刻は19時手前まで来ているというのに。
桜庭呼びから美鈴呼びに戻した時並みの喜びようだ。
俺は何とか話を戻そうとするも暴走した美鈴は止められない。
結局時間も時間という事で晩飯をうちで食べていく事になった。それはまあ全然いいんだが。
「で、改めてなんだけど御子柴先輩は絶対に信用しちゃダメだから」
俺に示すように人差し指を立てながら美鈴はきっぱりと言う。
一応ご飯を食べたら暴走は止まった。エネルギー不足とかそういうアレだったりするのだろうか。
そして落ち着いたと思ったら開口一番にとんでもない事を言いやがる。
一応、俺は真意を問う。
「絶対にって……何でそこまで?」
「最初から嘘ついてた。だから私ずっと警戒してたの」
最初から……嘘?
少なくとも俺は見当もつかない訳だが。ていうか嘘ならお前もついてなかったか?
それはさておき、会長を怪しむ気持ちは俺にもある。
最初こそ無警戒に相談を持ち掛けようと思っていたが……美鈴と話すにつれどんどん印象が変わっていった。
特にあの笑顔が消えていく様は下手のホラー映画よりも怖かったくらいだ。
そして追及が始まり……かと思ったら俺が口裏を合わせたら咄嗟に止める。
なんて言うべきなんだろうか……スタンスが無い?
味方か敵か、っていう見方は極端すぎるが、そういう面ではあの人は全く一貫していないだろう。
だから疑う気持ちは今なら分かるが……嘘ってなんだ?
「先輩ってさ、何で誠くんの事知ってたのかな?」
「……え?」
予想外の質問に戸惑う。
それは……会長が説明してたよな?
「お前が話したんだろ?」
会長から聞いた事実をそのまま口に出す。
あの人は確かに桜から聞いた、と言っていた。
だから、何でも何もなくないか?
しかし、そうじゃなかったのだ。
俺の返答に美鈴はゆっくりと首を横に振る。
「は……?」
その所作で、思わず身震いをしてしまう。
だって、それを否定するってことはつまり…
俺はひたすらそうであってほしくない、と願う。
頭に浮かんだ可能性をひたすら否定する。
しかし
「私、今まで先輩に誠くんの話した事……一回たりとも無いから」
人生において嘘であってほしい事こそ、悉く真実なのだ。
味方か敵かっていう見方は(激ウマギャグ)




