好きになっちゃいそう
生徒会長、ぶっちゃけ俺は話したこともない。
クラスどころか学年も違うのだ。そもそも接点というものが存在しない。
正に雲の上の存在と言う表現が正しいだろう。
俺なんか視界に入ってるのかすら疑わしい。
ただ、美鈴は別である。
同じ生徒会に所属していることもあって、話を聞く限りではそこそこ仲は良さそうだ。
実際周りに対して関心を持たない美鈴も生徒会長には一目置いているのが節々から伝わる。
まぁ、具体的な関係は本人に確認するしかない。
向こうの手が空いたら聞いてみようか。
さて、今できることを考えよう。
俺は再び浅野の方に向き直る。
「浅野……お前は会長と仲いいのか?」
と、浅野と会長の関係を探る質問をしてみる。
確か、トイレでついつい話しこんでしまったとか言ってたよな?
さすがにそれなりの知り合いでもなければそんなことは起こらないだろう。
接点も、部活等の先輩付き合いの繋がりでいくらでも出来そうなものだしな。
「いや、ぶっちゃけまともに話したのあの時が初めて」
「……え?」
浅野はあっけらかんとした様子で答える。
予想していなかった答えが返ってきて面喰ってしまう。
……初対面でトイレで十数分以上話し込む?
???
脳の理解が追い付かない。
「あのねー、めっちゃ可愛いの御子柴先輩。しかも声めっちゃ綺麗だし、間近で聞くとやばいよ」
聞いてもいないのに突然浅野は語りだす。
まぁ、整った顔立ちなのは遠目からでもよく分かる。
しかし今俺が気になるのはそんな周知の事実ではない。
「んーとだな……お前、何でそんなに会長と話せたんだ」
コミュ力の基準にもよるだろうが、初対面でばったり会った所で精々会釈程度が関の山だろう。
ただ浅野はそれどころか時間を忘れて話すまでに至っている。
空白の時間に何が起きたというのだろうか。
浅野は考え込むような素振りを見せた後、口角を上げながら話し出す。
「いや、御子柴先輩演説の時から思ってたけど話めっちゃ上手いの!すぐに打ち解けちゃってさー」
至極楽しそうに浅野は会長との思い出を振り返っている。
確かに選挙時の演説を聞いて思った。あの人はスピーチが死ぬほど上手い。
元々フリーWi-Fiだの寝れる時間だの水道ジュース化計画など……
話の根幹自体も他人の興味を惹き寄せるのに特化していたが真価は合間にあった。
途中途中に丁度いいタイミングで笑える空気を作る。
学年間の身内ネタだったり、校内でも有名な先生の失敗談だったりを上手く説明に織り交ぜていた。
当然、体育館内では定期的に笑いが起こる。皆の間に面白い存在と言う認識を一瞬で焼き付けたのだ。
最終的にはイジりで角が立たないように自虐ネタで締める。
単刀直入に言って完璧な演説だと言えるだろう。
「いやもう本当反則だよー私マジで先輩の事好きになっちゃいそうだったもん」
「どんな話されたんだよ……」
浅野はすっかり先輩との楽しい過去に浸っている。
十数分、出逢って十数分でこれだと?
俺と比べて……いや比べることすら烏滸がましい。
本当にどんな話をされたのか気になってくる。
何ならもう惚れる域まで行ってるんだぞ。
しかし俺に確認されるまで会ってたのは忘れてかけてたみたいなんだが。
そこは浅野らしい所だ。せめて勉強したことはテストまでは覚えててくれ。
そりゃ凄い、と言えばそりゃ凄い話だが……
異常なほど生徒会長に心酔している浅野を見て、俺はほんの少し恐怖心のようなものを覚えていた。




