やらかし王子の末路
通された侯爵家の応接室は、私の発した身の程知らずの言葉に緊張感が高まっていた。
「婚約とは家同士の繋がりであり、当主同士で結ぶものであって、当人同士が好いた惚れたで結んだり破棄したりできる代物ではない。それを知らぬ貴公でもないだろうに、なぜ婚約破棄などと願い出た」
「ご理解いただけない事は重々承知しております。これは私の弱さが招いた結果であって、決してミレーヌ様に非はございませんので……」
「だからその弱さとやらを聞かせろと言っておるのだ」
私を問い詰めるザグレフ・ピオネッテ閣下は、ピオネッテ侯爵家御当主であり、デッセンバーグ王国第二騎士団の副団長を務める武人である。剣の腕は国で五指に入り、数多の戦場で武勲を立てている猛者だ。子爵家の嫡男である僕には、その威圧に耐えるだけで精いっぱいの状況だ。
「マクシム・ヘルーセン様。私たちの婚約が成ってまだ二月ほどしか経ってはおりません。お会いしたのも数えるほどですが、決して弱い方だとは思えませんでした。正直に話していただく事は叶わないのでしょうか」
そう優しく問いかけてきたミレーヌ様は私の2歳年下ではあるが、背筋を伸ばして私を慮るように言葉を紡ぐ。
「……、信じてはもらえないでしょうが。狂人の戯言とお聞き流しください」
この国では貴族の男児は13~18歳の間に3年間、王都に在る学院で学ぶことが義務付けられている。家督を継ぐものには領地経営などを、家督を継がぬ者には武官や文官になるための知識や技能を得るために通うのだ。総じて卒業を前にして婚約者が決まることが多く、将来性を見極められる場所とも言える。
ご令嬢方は10~15歳の間に2年間ほど王立学園に通い、交友を広めると共に嫁ぎ先や婿を探して婚約する事となる。婚約者が得られなければ裕福の商家などに嫁ぐことになるのだが、高齢貴族の後妻になるくらいならば貴族籍を失っても平民に嫁ぐ方が良いと考える者も多い。
私は最終学年に上がる少し前、学院内で行われた剣術大会で優勝したことを侯爵閣下に認められて婚約に至った。侯爵家は男児に恵まれず、三姉妹の長女であるミレーヌさまの婿の婿を探していたのだ。そうでもなければ、下級貴族である子爵家の嫡男を侯爵家の跡取り婿になど有りえない事だろう。
そして婚約のなった日から悪夢を見るようになった。
毎回、見たことも無いご令嬢と婚約者として仲睦まじく語らう所から始まる夢は、婚約者が王太子に純潔を散らされ取り巻き共に犯されている所を、王家の陰共に取り押さえられながら見せられるところで終わる。夢に出てくる婚約者は四人居て、毎日のように順繰りに夢に現れては繰り返し見せられる。
その彼女たちの暴行を受けて腫れあがった顔や痣だらけの体、なにより生気を失い何も映さない瞳が頭から離れない。
どうしても気になって少し調べたところ、彼女たちは存在するが皆が皆心に傷を負っているかのように男性を拒絶し、この学園に入る事を拒んで領地に引きこもっているそうだ。
そして思い至ったのだ。
見た夢は現実に起きたことで、深い傷になって魂に刻まれている故に夢として見るのだと。
何らかの理由で王太子に不興を買った自分への当てつけで、婚約者はそうして穢されることになるのだと。
王太子が呟いた『さて、生まれてくるのは俺の子か、お前の子か、はたまた今も盛っている彼らの子か、見ものだな』と言う言葉が耳に残っている。
ならば身辺をきれいに整理し、自死を選ぶほかないのだと考えた末で今回の訪問となった。
「ですので何卒。王家に対する不敬を働いたと婚約を破棄し、憲兵隊に突き出していただけないでしょうか」
閣下は聞き終わると腕を組んで目を瞑ったまま動かなくなった。
ミレーヌさまは扇で表情を隠してはいるが、顔色を失っている事が窺い見える。
当然だろう。自身にも降りかかるかもしれない惨劇なのだ。
「貴公は……。貴公は自身の出自を聞いてはいないのか?」
「……出自、とは」
私はヘルーセン子爵家の嫡男で、現当主であるニコラスと妻エリーゼの子として生を受けた、はずだ。
年子の弟であるブロディとも似ているので、出自を疑ったことなどこれまで一度も無かった。
「本来であれば私から話す内容ではないのだが、貴公は王家の血を引いている可能性を否定できない。貴公の母上であるエリーゼ殿は、婚約中も続けていた王宮侍女の職務中に現王陛下のお手付きとなった。無理強いされたとは言え、ニコラス殿やヘルーセン家を裏切る形になったことを悔い、自死を選ぼうとしたところを止めたのが当時近衛騎士をしていた私だ。ニコラス殿に陛下を諫められなかったことを謝罪し、エリーゼ殿さえ承知してくるのであれば私が娶ろうとも申し出たが、ニコラス殿は『この事は他言無用。エリーゼを娶り幸せにするのは私の役目だ』と追い返された」
「否定できない理由は」
「出生の時期だ。初産で遅れたとすれば符合するだろうし、元々結婚直前であったことからニコラス殿との子と言えるはずだ。容姿は兄弟そろってニコラス殿にも似ており、陛下に似ている部分は瞳の色だけだが、エリーゼ殿と同じ色だとも言える。もっとも、王宮内でのことで王妃陛下の耳に入っていないとは思えず、殿下がその件を知っている事も否定できない。貴公が文武共に殿下よりも優秀となれば猶更、恨みを買うであろうことは貴公も理解できるであろう」
理解などできるわけがない。狭くとも領地持ちの貴族嫡男として領民を導くために知識を得、末席の貴族として先頭に立って国を守るために武芸に勤しんだ。その全ては与えられた物ではなく努力して得たものだ。それを逆恨みし、ましてや幼気な少女を穢すなど理解しようとも思わず、許そうなどとは絶対に思わない。
とは言え僕にはそれらを阻止する力も権力も無い。
「なぁ、婿殿」
この期に及んで婿と呼ぶのか、この御仁は。
「三日。いや、二日で良い。時間をくれ。時間を繰り返すと言うことに心当たりがないわけでもない。検証させてくれ。場合によっては協力を仰ぎたい」
「……はい。仰せのままに」
その日は結論が出ないままでの帰宅となった。学院寮の自室に戻っても気分は晴れない。
貴族院の法務局には、血縁関係を明確にする魔導具と言う物がある。没落貴族を騙る者や、家督争いに御落胤だと担ぎ上げられる者も居る。そういった者達の審議をするのに用いられ、血液と魔力の質から血の繋がりや濃さを測定できるのだとか。
父上と私とで確認に行けば済む話だとは思うが、貴族院になんて説明すれば母上の名誉を傷つけずに済むかが分からない。どうしたって母上の不貞を疑っているとの噂に繋がってしまうだろう。それは絶対に避けたい。
悶々としながら講義を受けて日が過ぎるのを待つ。
二日後に寮まで来た迎えの馬車に乗ってピオネッテ侯爵家にやって来た。通された応接室のソファーには侯爵閣下が既に座していて、対面のソファーを勧められた。
「まず確認のとれた事を共有しよう」
そう話し始めた室内には、閣下と私の他に三名の男たちが居た。彼らは紙の束を持ち、一日半で奔走した内容を順に読み上げ始めた。
「お聞きしたご令嬢方ですが、学園の入学手続きまでは間違いなく行われておりました。が、直前になって婚約を理由に入学を辞退しておりました。半数ほどはお相手の確認がとれましたが、残りのご令嬢には婚約者がいる様子はございません」
「領都の文官および邸内の全ての者に聞き取りを行った結果、ここ最近は既視感を覚えることが多かったとの証言が多数上がっております。特に定期報告を行う部署では噂話も出ていました。噂の内容ですが、複数の者が皆揃って『今秋の収穫量が下がる』と、さも見てきたように話をするのです。その収穫量の数値さえ、口裏を合わせたかのように一致していて、我々も気味が悪く感じたほどです」
「『中立派閥のヘルーセン家は王家への不信感を抱いており、貴族派閥に寝返るためにピオネッテ家に近づいた』と王妃陛下が話しているのを、陛下の傍使えから証言を得ました。不信感の発端は国王陛下の戯れが原因であり、その事は王妃宮では公然の秘密であるとの証言も得ています」
「実は儂も既視感を感じることがあった。が、既視感を感じるも結果が伴わない事もあり、気にしない様にしていたのだ。そしまだ疑惑の範疇を出ない話なのだが、王太子殿下は【タイムリープ】と言う能力を持っているそうなのだ。これは特定の時に戻ってやり直せるそうで、幼少期に本人が話しているのを聞いた者が居た。ただ内容が荒唐無稽なのと、今回の聞き込みで思い出した者が居て発覚したこともあって追跡調査中だ」
「覚えていた者の証言はこの様なものでした。『僕は特別な選ばれた人間なので、学院の最終学年を何度も経験する事ができる。その中で僕は、いろいろな女性と親密になって最高の王太子妃を決めるんだ』だそうです」
妄想癖があったと言うことなのだろうか。
それとも本当にその様な効力を持って生まれてきたのだろうか。
だが、本当にその能力を持っているのであれば、全てのことに説明がつく。
そして再度時間を戻されてしまえば、被害者が無限に増えてしまう事も想定される。
やはり……。
「さて婿殿。死よりも辛い目に合うかもしれないが、一連の流れを止めるのに身を差し出す気は有るか」
「どういう事でしょう」
「とある魔法具が当家には有る。悪魔の誘惑と呼ばれるその魔法具は、見合った対価を差し出せば奇跡さえも起こせると聞く。もしかすると他人の能力でさえも使えなくする事ができるやもしれん。さてどうする」
「もし本当にその様な魔法具が有るのであれば、是非お貸しいただきたく思います。仮に命取られるようなことが有れば、この身は打ち捨てていただいて構いませんので」
そう答えると、閣下は小振りな箱を持ってこさせた。
中には紫の布に包まれたものが入っており、布を取り除くと水晶玉のような物が現れた。『水晶玉のような』と表現したのは、その玉の中で黒い靄のような物が渦を巻いて動いているのが見えるからだ。普通の水晶玉では決してないだろう禍々しさを感じる。
触れて願えば良いそうで、聞き届けられたならば割れてしまうらしい。
ためらう理由は無い。
触れて願いを強く込める。
『心に傷を負った彼女たちに安息が訪れ笑顔が戻り、この先同じように被害にあう者が現れない様、関わった全ての者が相応の報いを受けることを切に願う。』
『承った。対価は……』
誰かの言葉が頭に響いたところで僕は、砕け散った水晶を視界に捕らえながら気を失った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「宜しかったのですか」
隣室で事の次第を除き見ていた娘が、入出早々に発した言葉がそれだった。
儂に問いかけた言葉だが、その視線はマクシム・ヘルーセンに向けたままで、終ぞ見たことのない心配そうな表情を浮かべている。
「お前とて、止め立てはしなかったではないか」
「止めれば私は被害者になるでしょうし、惨劇のループを断ち切れる唯一の存在がマクシム・ヘルーセンさまなのであれば、早い方が良いと考えました」
陛下より内々で聞かされたのは殿下のスキルだった。
それは素晴らしい能力だと陛下はおっしゃられた。確かに失敗を無かったことにできれば国を豊かにすることもできるだろうし、王家に対する信頼も盤石の者になるであろう。
だが、正しく使われなかったら。殿下が己の欲望のままに力を使い、それを無かったことにされてしまったら。
そんな未来が頭をよぎると、その考えは頭から離れず、妄想と恐怖が膨らんでいった。
同じく考えた者のひとりが宰相閣下だった。宰相閣下は極秘裏に殿下の能力を封じ込める魔道具を探し始め、いくつか手に入れた中で一番効果的であろう魔導具を渡してくれた。私が全ての責を負う事で陛下を納得させるために。
だからこそ儂が使う訳にはいかなかった。
儂が願い、命を落とせば娘が責を負う事になる。
それは是が非にも避けたかった。
なのに……。
「だからと言って、お前まで被る必要はなかったのではないか」
「それこそ、お父様は止めなかったではないですか」
「後悔するのはお前で、儂ではないからな」
娘は他家を巻き込み、その嫡男を生贄のように使って事を止めようとすることを良しとしなかった。
ただ、事は公にできない以上は関与する人間を絞る必要もあり、他に適任を探す時間的余裕も無かった。
だから娘には妻として、彼の心身に異常が出た場合の介添えを頼んだわけだ。が、娘は対価の半分を背負うと言い出した。それによって自身の身体にも何らかの不都合が起きようとも、巻き込んだ家の跡目として責任を負いたいと言ってのけた。
実際、そういった魔導具も無いわけではない。商家の契約などで連帯責任を負う際に使われるものだ。
今回の特殊な魔導具の対価に効果があるかは不明だが、昨晩の内に仕込みを完了している。
今、娘は気絶することなく会話ができているので、もしかすると効果が無かったかもしれないと思うのは楽観視し過ぎなのだろうか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
目覚めは良かったが体の調子が悪い。声が出し難いほどに喉が渇き、体の左半分に力が入らない。
記憶をたどると閣下に手渡された魔道具に願ったところで途絶えている。おそらくはそのまま気を失っていたのだろう。
起きた気配に気づいたのだろう、部屋に控えていた者が廊下に出て行った。
少しすると足音が聞こえてきて年配の男性を筆頭に、三人がベッドサイドまで来た。
「調子はどうですか」
おそらくは医者であろう男性が尋ねてきたので答えを返す。
「喉が渇いていますが空腹感は有りません。左半身に力が入ったままで動かせませんが、それ以外は問題無いように感じます」
「そうですか。貴方様は一昨日に倒れられ、そのままこちらの部屋で寝たきりの状態でした。侯爵閣下からは魔道具の影響だとは伺っておりますが、少しお体を確認させていただきます」
毛布を捲られ衣服の上から手や足を触られるが、左側はほとんど触られている感触が無い。手を添えて曲げ伸ばしをしようと試みている様だが、筋肉が収縮しっぱなしなのか曲がる気配はない。これも願いの対価だとすれば納得もするし、この程度が対価で良いのだろうかとも思える。見る限り萎れているとかもなさそうなので、立っている分には異常が有る様に見られることは無いだろう。
『いや、対価はふたつだったな。悪魔との契約なのだから、これは手付のようなものか』
食事は消化の良い物から始めるように指示が出され、男たちは退出していった。
部屋付のメイドだろうか、年嵩のメイドがスッとベッドに近づき水を飲ませてくれた。礼を言って下がってもらい、もうひと眠りする事にした。
翌日には両親が見舞いにやって来たが、侯爵閣下が「当家で起きた怪我なので、完治まで面倒を見させてくれ」と申され、未だ侯爵家の客間で過ごしている。
婚約は解消されずにいるのは結果が出てからと言うことなのだろうか。いつ悪魔の契約が履行されるか定かではないが、納得できる結果に見合うだけの満足する対価を払え切れるかが心配だ。
食事は翌日から普通の物になった。左手が使えないために肉などはある程度切ってあるものが出され、フォークやスプーンで食べられるので介添えは必要なくなった。移動も左足を引きずる様にはなるが一人でも歩けるようになり、ある程度は自由にさせてもらっている。
ミレーヌ様に誘われて庭を散策する事も有れば、図書館で本を読むこともある。食事もご一緒させていただくこともあり、椅子に座る際には介助が必要となるが高めのフットスツールを使えばテーブルについて食事も可能だった。
学院は支障がるので休学中だ。奴が今どうしているかが気にはなるが、知るすべがない。閣下からも特に話がなされないので今は一つでも一人で出来ることを増やそうと頑張る事で気を紛らわせている。
そうこうしている内に一月が経ち、学院行事のひとつである狩猟際が行われる時期となった。
「婿殿。狩猟際は見学だけでも参加するのが良いと思うが如何する」
「そうですね。このような体になった事であの方を喜ばすのは本意ではありませんが、そろそろ引きこもっているのも飽きましたので学院に戻ろうかと思います」
「そうだな。生活の補助のため、二人ほど付けよう。その事は当家から学院の方には話をつておくので心配はいらない」
「ありがとうございます、閣下」
実際に学院に戻ったのはそれから四日後の、狩猟際前日の午後だった。
学院の狩猟際は恒例行事で、秋になると人里に出てくる魔物の数を減らす意味合いも兼ねて毎年行われている。開催場所は毎年変わるが、複数にでチームを作り三日間森の中に入り行われるのが決まりだ。討伐した魔物は討伐証明となる部位を切り取り、三日目の集合場所で提出する事で順位付けを行う。
「落馬で大怪我をしたと聞いたが、まだ養生していた方が良かったのではないか」
「いえ。医者の見立てではこれ以上の回復は難しいとの事で、体は動かずとも国のためになる事ができればと」
「そうか。明日の狩猟会へは参加できないだろうから、暫くは自習室で遅れを取り戻しなさい」
「はい。ご迷惑をおかけすることが有るかと思いますが、よろしくお願いいたします」
「分かっている。侯爵閣下からも話があったと聞いている。大変だろうが頑張りたまえ」
伯爵家の前当主である担任教諭と言葉を交わし、足を引きずって自習室へと移動する。昼食も弁当を用意してもらっているので食堂へ行く必要もなく、当面は自習室に籠って勉学に励むようになるだろう。
自習室に籠って三日目となった昼過ぎ、学院内がにわかに騒々しくなった。
今日は狩猟際の最終日なため、ほぼ全ての生徒と大半の教職員が出払っているはずなので、本来起きるはずのない騒々しさだ。
窓を少し空けて外の様子をうかがっていると、狩猟際で問題が起きたのが分かった。
昨晩から早朝にかけての間に、王子を含む複数の生徒の行方が分からなくなったそうだ。当然のこととして王家の影も増員されていて、その隙をついての誘拐など起きるはずもない。だが実際には荷が荒らされ、人が消えた様に失踪したのだと言う。
発見は恒久の近衛騎士で、影からの定時連絡が無い事で確認に赴いた事で異変が共有された。現在は大々的な捜索が行われているそうだが、捜索隊の中からも失踪者が出ているらしい。
であるならば、僕の寿命ももうすぐ尽きると言うことだろう。遺書は残してはいないが、閣下と婚約者にだけは手紙を綴ってあるので手配を願い出ておこう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
影に連れてこさせたヘルーセンの子倅に、婚約者の無残な姿を見せつけてやった。さて、その顔は絶望を映すのか怒りに染まるのか。
「お前の婚約者は、そこの者達に味見されているぞ。もっとも最初に味わったのは俺だがな」
「殿下。私には婚約者はおりません」
「何を言う。そこのベッドの上にいるではないか」
「いえ、婚約者はおりません。お間違いではございませんか」
「よく見ろ! あそこで犯されぇい……れろぁ?%$&#”」
「そうですね。あそこで魔物に犯されているのは、殿下ですよね。100回を目前にして、どうやら魂に修復しきれない傷が増えすぎたようですね。これで御終い、と言ったところでしょうか。いやぁ、永かったですねぇ。いえ、繰り返しですから日時はそれほど進んではいませんがね」
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願い通り、関係者を攫ってはゴブリンやオークの巣に放り込み、魔力を縛っておけば絶え間なく魔物に犯され続ける。その内に腸内で注ぎ込まれた大量の精液と魔素から子が形作られ、腹を食い破って生まれてくるのだ。それはもう、とても甘美な絶望だった。そして王子が虫の息になったところで、攫われたところから絶望をやり直してもらった。死んだ者は流石に生き返ることは無いが、王子の脱落は比較的早かったこともあって半数以上はまだ残っている。もっとも王子がこれでは繰り返しもここまでで、残ったものもそれほど長くは持たないだろう。
残念だが今回の報酬はここまでだ。
最後になったが、被害に遭った女性方が笑顔になれる願いを叶えて戻ることにしよう。
それが依頼者の不自由な体を戻し、魂を取らずに去ることになろうとも、そうしなければ公爵令嬢の笑顔は取り戻せないのだから。
まぁ良いさ。
送った別れの手紙をネタに、せいぜい揶揄われて恥をかけば釣りがくるというものだ。




