第8話 モートン様の受験
「アンとステラは、明日が三回目の追試です。落ちたら落第だって先生が言ってました」
なんか緊急避難的に告げ口してしまった。反対側では、義姉たちが固まっていた。
義母は私のことは急にどうでもよくなったらしく、今度はアンとステラに向かって言った。
「どういうことなの? エレクトラが冗談を言っているの?」
二人は何かぼそぼそ答えていたが、どうでもいいわ。
私は、もう開封してある手紙をその場で読みだした。部屋に持って帰って開ける意味がない。
『かわいいエレクトラ、元気にしているか』
全然元気じゃないわ。ひどい思いをしているわ。
『……モートン殿は優秀な少年で、将来性がある。また親族も優秀な方ばかりで、そちらからの援助もある。ただ婚約を少し考えたいと言うのも無理はないので、少し待ってもいいと思う。モートン殿の見込みも一年以内にはわかると思う。受験もあることだだから……』
なんだ。絶対婚約しろなんて書いていないじゃない。
だが、私はハッと気が付いた。
そうか。予定って受験か。
彼は王立高等学院に入学するつもりだと言っていた。
だが、王立高等学院に貴族と平民の区別はない。成績だけで合格が決まる超難関校だ。
受かれば、エリートコースばく進だ。特に彼のように貴族の家出身の者は、人脈と信用があるので非常に有利だ。よほどのことがない限り、十分なお金を稼げる。
だけど、受かるかどうかはわからない。二年、三年受け続ける者の方が多いと聞いた。
モートン様は、遠慮なさって必ず合格するとは言わなかったのだろう。
確かに、受験の合否はわからないし、合格時期も一年先か二年先かはっきりしないことだわね。
そう言うことか。ずっと待ち続けるような話ではないのね。
すっかり気が楽になった私は自分の部屋に行った。
下の食堂では、なにやら義母と義姉たちが騒いでいる。
義姉たちには関わりたくなかったけれど、これで先生との約束は果たしたことになる。義姉たちの成績はいずれわかることでしょうし、なぜ、教えてくれなかったと言われたら困るかもしれないから、言っといてよかったわ。
小さなノックの音がして、セバスの声がした。
「お嬢様、ちょっとよろしいでしょうか?」
私はこっそりドアを開けた。
何か悪いことでもしているみたいに、こっそりしているセバスがいて、小さな封筒を渡してくれた。
「これは、モートン様からのお手紙でございます」
「あら」
「いつもは郵便は全部、奥様にお渡ししているのですが、ええと、お嬢様宛ての封筒を開けてしまわれましたのを見まして、申し訳ないのですが、隠しておきました」
機転の効く家令だわ!
「ありがとう」
私も小声で言った。下ではまだ何か騒ぎになっている。
「お父様には今後セバス宛てに送ってもらうことにするわ」
「わたくしは、絶対に開けませんので!」
「そうして。お願いするわ!」
セバスがいなくなった後、私はちょっとだけドキドキしながら、婚約者予定者からの手紙を開けてみた。




