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エレクトラの婚約者  作者: buchi


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第51話 正体

「マーク・モートンです。ようやくあなたと婚約を表立って結べるようになったと思います」


私は、背が伸びて、私を見下ろしている文通相手を見つめた。


大混乱だ。なんでこんなに変わってしまったの?

それに肩幅と胸の厚みが全然違う。印象が全然違ってるよ。

顔は……そう。顔立ちは同じだった。どうしてわからなかったの? 私。


でも、本当に全然イメージが違う。


「モートン様?」


肌がきれいで灰色の目は澄んでいる。

ソファーの背もたれの後ろから、顔だけ出してくれたら、すぐわかったと思う。


婚約予定者失格だわ! でも、前のモートン様は本当に細かった。今は、包み込まれるように大きい。


相手は赤くなった。


「あちらの方に座れそうな場所がありますよ。行きましょう」


彼は申し分のない態度で私を連れ出した。


これで二歳年下……。


「あなたはとてもお若いのに」


「いや、それはちょっと違います」


モートン様は困ったように訂正した。


「僕はあなたと一年違いなんです。婚約の話が持ち上がった当時は、二歳下でしたけど、誕生月の問題でして。大体、あなたと二年も違ったら、入学は今年になるでしょ?」


は?


それはそうだ。


「あなたは二歳年下をものすごく気になさっていたので、いつ訂正しようか悩んでいたのですが、手紙だとうまく切り出せなくて。お互いの気持ちを深く話す雰囲気がありませんでした」


そう言う手紙にならないように仕向けたのは私かもしれない。

だってお父様から婚約の話を持ち込まれて、仕方なく承諾しました、ってモートン様から返事が来たら寂しくなる。

だから勇気がなくて、婚約について、どうお思いですかとは聞けなかった。


お父様に再婚について聞いて、のろけられたら、私、とても困る。それと同じような気持ちだった。


「僕は留学前、あなたに会いに行くことができなくて大変残念でした。だけど、手紙をやり取りしているうちに、もっと大人になってから会って、見直してもらった方がいいのかなと思い直しました」


私、見透かされてる?


私は恥ずかしくなって目をそらした。今のモートン様は、前と全然違っている。幼さはもうなくて、もう立派な大人の顔だ。


手紙の中のモートン様は、結構皮肉で批判的だった。彼の話はいつでも面白くて、ちょっと笑える。それとなく私を気遣ってくれる言葉の数々は、うれしかった。でも、その結果、モートン様は婚約者ではなくて、気を許せる親友になってしまっていた。


しゃべると、いつものモートン様だが、その姿が目に入るたびに、さっきとても魅力的だと感じた男性の姿がチラチラする。


モートン様はとても安心できる方。でも、目の前の男性には、猛烈にドキドキさせられる。


それに目は口ほどに物を言うと言うけれど、モートン様のきれいな灰色の目は、ずっと私を追い続けている。なんだろう、これは。



「エレクトラ嬢、どうして手紙をくれなくなったのですか?」


彼に聞かれて、私は咄嗟に顔を赤らめた。


忘れていました、とは言えない。忘れていましただなんて、大変失礼だ。それに、目の前のかっちりと肉をつけ、ぐっと肩幅と胸の厚さを増した婚約者候補には、理由の分からない威圧感があった。


それに私は、忘れていたと言うより困った羽目に陥っていて、そこまで手が回らなかったのだ。


私はモートン様相手になんでも書きたいことを書いていた。ただ一つのことを除いて。つまり、私の婚約をめぐる騒動については書かなかった。


ルテイン伯爵のルイス様たちから婚約のお申し出があったことや、アーネスティン様の影の軍団が、淑女には口に出しにくい噂を広げて撃退したことなどは手紙に書かなかった。

そしてアーネスティン様の努力にもかかわらず、義母がルイス様との婚約を認めたので、私は窮地に立たされた。ルイス様が家を訪ねてきたら、会わないわけにはいかない。当然、仲が深まったとルイス様とルテイン伯爵は解釈し、私はがんじがらめになって、ルイス様との婚約から逃れなくなる。


私は自分の家を出るほかなかった。

行くあてはなく、アーネスティン様にすがるしかなかったのだ。


モートン様宛ての手紙に書くような内容ではない。私は手紙を書くことができなくなってしまった。何か書けば、色々な矛盾が出てきて、おかしな事態になっていることがバレてしまう。理由を聞かれるだろう。嘘を書くのは嫌だった。


「手紙は一度途切れて、そのあと一度送られてきました。でも、内容は僕がその間に何回も送った手紙を全く読んでいないような返事でした。なぜですか?」


灰色の目が探るように私の目を見つめる。


「それは、あの、私が……アーネスティン様のお屋敷にいたからですわ」


「王弟殿下のお屋敷にですか?」


モートン様が尋ねた。私はうなずいた。


「アーネスティン様はお友達でしたね? でも、ずっと王弟殿下のお屋敷にいたのですか?」


「仕方がなかったのです。義母が私の婚約者が本決まりではないと知って、ルテイン伯爵家のルイス様を勧めてきたのです」


モートン様がスッと顔色を変えた。私は、いつもやさしくて、私が何を書いても、面白がって返事を書いてくれていたモートン様を、初めて怖いと思った。


モートン様が黙って見つめてくるだけだったので、私は沈黙に堪えられなくなってしゃべりだした。


「家同士のことは、私は未成年ですからどうしようもありません。ルテイン伯爵が家を訪問され、義母はルイス様との婚約を結んだと告げてきました。私にはルイス様には父を通してくださるようお願いしましたが、どうなったのかわかりません」


「あなたは……その方が好きだったのですか?」


モートン様は意外なことを聞いた。















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