第45話 武芸大会
そして武芸大会の当日が来た。
早朝から学園は大変な騒ぎだった。その中でも、アーネスティン様は特別扱い中の特別扱いで、堂々と急ごしらえの観戦席に納まった。
私は少し古いエビ茶色のドレスで本当によかったと思った。ドレスが軽いのと目立たない色合いなので、動きやすい。
アイリス嬢とアラベラ嬢も心得たもので、目立たない色目のドレスを生徒らしく着こんで待機してくれた。
臨時の席にしてはなかなか凝った造りで、アーネスティン様たちと、アイリス嬢とアラベラ嬢の席は全く別で、アーネスティン様からこの二人は見えないようになっていた。
私は間に立って、アイリス嬢とアラベラ嬢に、お茶を持ってきてもらったり、打ち合わせをしたり、忙しかった。だが、その間にも武芸大会の準備は順調に進んでいき、遂にアーネスティン様から声がかかった。
「これ以上は働かないで! もう用事はないわ! 早く来ないと模範演技が終わってしまうわ。いよいよ武芸大会のスタートよ」
私は隅の席に場所を占めた。
とても良い席だ。
会場が全部見渡せる。
なんだか私は胸がドキドキしてきた。
「ほら、出てこられたわ!」
私は詳しくなかったけれど、マチルダ様とローズマリー様はさすがはご自分の婚約者が武芸の達人だけあって、あの防具は貴族学園だの、あちらの格好は騎士学校だとか、よく知っていらした。
「王立高等学院の方々も来られたわ!」
さすがに大半が騎士学校からの参加で、王立高等学院は貴族学園より参加者が少ないくらいだったが、私はモートン様のことを思い出して、ついそちらを見てしまった。
モートン様がいるわけないわよね。
モートン様は留学しておられる。それにまだ子どもだ。剣術がお好きだとはおっしゃってらしたが、例え留学していなかったとしても、こんな場に出てくるわけがなかった。
歓声が湧き、いよいよトーナメントが開始された。
参加者もさることながら、今年の武芸大会は、見物人が昨年とは比べものにならないくらい多いらしかった。
試合場はいくつかに仕切られて、4組くらいが同時に勝負を始めるのでなかなか見物も忙しい。
「あの方、ご覧になって! すばらしいわ。もう、三人抜きよ!」
すらりとした剣士が見事な剣さばきで戦っていた。相手は三倍くらい大きい感じだが、その細身の剣士の鮮やかな動きにはかなわない。あっという間に、剣を飛ばされて勝負あったになった。
わああと歓声が上がった。
大広間は超満員だった。こんなに、この部屋に人がいるところを見たことがない。
「次の方も、素晴らしいわ」
先ほどの細い剣士は、王立高等学院の剣士だった。
今度は騎士学校の剣士で、腕前もさることながら、背も高ければ、胸板厚く筋肉隆々で素晴らしい体格だった。さすがだわ。すごい。
「一撃で相手を倒した。体重と力技ね!」
アーネスティン様もマチルダ様もローズマリー様も、私と一緒に声をあげた。
勝ち進んでいく剣士はぞれぞれ特長があって、みんなとてもステキ。
「かっこいい」
夢中になって見物して居ると、下からアイリス嬢が困った顔をして上がってきた。
「モントローズ家のオーウェン様とおっしゃる方が来られましたが、お入れしてよろしいでしょうか」
オーウェン様が! 私、まだ、見たことがないんですけど! どんな方なのかしら?
すぐに招き入れられたオーウェン様は、柔らかそうな栗色の髪とひげの立派な男性だったが、どう見てもアーネスティン様にメロメロだった。アーネスティン様を見るや否や笑顔になって、並んで腰かけられた。
「では私は下に降ります」
私は率先してアイリス嬢とアラベラ嬢の居る下へ降りたが、なんとマチルダ様とローズマリー様も一緒に降りてきてしまった。
五人になってしまった。ぎゅうぎゅう詰めである。
「だって、あんなところにはいられないわ」
ローズマリー様が苦笑いした。
「そうなのよ。オーウェン様ときたら、アーネスティン様に夢中なのよ」
マチルダ様もおっしゃった。
そしてアイリス嬢とアラベラ嬢はものすごく恐縮していたが、侯爵令嬢と公爵令嬢は、気にしないでと言った。
「そんなことを言っていたらきりがないのよ。だって、私達だって、アーネスティン様の前では身分違いになってしまう。身分を猛烈に気にする人もいますけどね。それを言うなら、エレクトラ嬢のお父様が侯爵になられたことはご存じ?」
「え? 知りませんでした」
アイリス嬢とアラベラ嬢はびっくりしてちょっと引いていた。
「この人は侯爵令嬢よ。じきに外務大臣のお嬢様になるわ。あなた方、平気で付き合っていたのではなくて?」
いつもは無口なローズマリー様が言った。でも、私は、ローズマリー様たちとは違う。私の父は、私より義母や義姉たちが大切なのよ。
「でも、私たちは、この人とが話していると楽しくて、この人が一生懸命だから好きなのよ」
マチルダ様がアラベラ嬢やアイリス嬢に向かって言った。
「ええと、あの、私たちも同じです」
アイリス嬢が遠慮しながらそう言うと、マチルダ様はにっこりとほほ笑まれた。




