第43話 隣国の王位のゆくえ
「国王陛下の王妃様は実は三人目です。皆さま、病で亡くなられ、今の王妃様はご健在ですが、お子様はおひとりだけ、亡くなられた王太子殿下だけでした。でも、ずっと不義の子ではないかとうわさが絶えなかったのです」
うーむ。まるで物語のようだわ。私は一言も発せずピエール夫人の言葉を傾聴した。
「今の王妃様は、伯爵家の出身です。それも後から国王陛下が叙爵されたのです。本当の出自はわかりません。美人ですが気が強く、政治に口出しされるので不評でした。亡くなられた王太子殿下は、国王陛下に全然似ていないと評判でした。国王はずんぐりしておられるのに、殿下は細くすらりとされているのです。目や髪の色も黒く、両陛下は金髪青目なのになぜと不思議がられていました。それに国王は大勢の妻妾がいました。お城に住まわせている方までいたのですが、誰もお子様に恵まれませんでした」
それはおかしい。誰もが王太子殿下の父親は国王ではないのではと疑っただろう。
「ですが、国王陛下が認められ、立派に成長されたので、誰も何も言いませんでした。王妃様は国王陛下のご弟妹たちを、国内に置かないよう工夫されました。アーネスティン様の婚約者の父上は、隣国の王子殿下です。モントローズ家の一人娘と結婚されたのです」
私はあっと小さい声で叫びそうになった。
「隣国の王位継承は今とてもあやふやな状態になっています。誰が継ぐかわからない。一番可能性が高いのが、モントローズ公爵です。国王の実弟ですから。その上、モントローズ家の跡取りオーウェン様は、立派な青年です」
「しかも、婚約者がアーネスティン様」
私はつぶやいた。
今の国王に王女殿下はいない。男のお子様ばかりだ。王弟殿下の娘、アーネスティン様は、いわば王女の代わりを務めることになるかもしれない。
「そうです。王弟殿下の娘なら、隣国の王妃としても十分なくらいです。本来なら王女が務めるべき役割ですが、今後王女殿下が生まれたとしても年齢的に間に合いません」
私は国際政治の問題に、自分が首を突っ込みかけている危険を察知した。万一、アーネスティン様の婚約者の父上が隣国の国王に指名されでもしたら、私は隣国に行かなくてはならなくなるではないか。
「あなたのお父様は先ごろ侯爵に加爵されました」
「父ですか?」
話が急に父の話になって、私は驚いた。この間から、ハワード伯爵なのにハワード侯爵と呼び間違いされることが多くて、私は訂正したものかどうか悩んでいた。
「以前から加爵の話はあったのですが、隣国の国王が決まるこの大事な局面で、担当者が伯爵では少し弱いと言う意見があって、加爵が早まりました」
道理で父が帰ってこないわけだ。相当忙しいのではないだろうか。
「ものすごくお忙しいと思います。王弟殿下も、国王陛下もまさかこんな展開は想像していませんでした」
王太子殿下の事故死のことだな。
「いつ亡くなられたのでしょうか」
「半年ほど前ですわ。もちろん、隣国の国王陛下は、今はまだご健在です。今日明日を心配するような話ではありませんが、後継者を指名しなくては内乱になりかねません」
内乱勃発だなんて、恐ろしい話だわ。
「ハワード侯爵の手腕が期待されている所以ですわ。そして、あなたはハワード侯爵の娘です。万一、アーネスティン様が隣国に赴かねばならなくなったとしても、お付きとして、あなた以上に頼もしい存在はいません。身分と言い、根性と言い、この上なしの逸品ですわ」
逸品……常々思っていたのだが、ピエール夫人の言葉選びには問題があるのではないだろうか。さっき、婚約もうまくいっていないようだしとか言ってなかったっけ。




