第30話 自慢大好き。アンとステラ
ところで、私は例の高貴なお友達の他にも、学園内のお友達は山ほどいた。
と言うのは、アーネスティン様の侍女になる予定の私は、経営学とか農業学の科目も取っていたからだ。そう言った実学を高貴の方々はお取りにならない。経営学だの農業学だのを好んで取るのはいわゆる身分の低い人たちだった。だけど、友達になるのに、身分は関係ない。アーネスティン様だって、私と付き合ってくださっているではないか。
伯爵令嬢としての高貴さが全く身に付いていないと、義母には叱られるが、それが何なのよ。私のお友達は、私が私だから付き合ってくれる人たちばかりだ。
「アン様とステラ様が、また新しいドレスの自慢をしに来られましたのよ?」
経営学の友人の一人が私に言いつけた。
「それ、絶対、私が発注したドレスよ。また、ドレスメーカーに掛け合って変更させたのですわ」
私は怒って言った。道理で届くのが遅いと思った。サイズ直しにも来なかったもの。
義母付きの侍女デイジーが、直接ドレスメーカーへ足を運んで変更したんだわ。
「エレクトラ様に言うのは、申し訳ないのだけど、あの方たち、好きになれないのです」
「高飛車で、多分、あなた方には手が出ないでしょう? みたいな態度でドレスの話題を始めるので」
今お話している方たちは、富豪の娘や地方の有力者枠で入ってきた方だ。国内でも有数のお金持ちで、どんな豪華なドレスでもじゃんじゃん作れる。アンやステラより、本当はお金持ちだと思う。
だが、学園という場所柄と、高位貴族の方々より抑えた身なりをしなければならないから地味にしているだけだ。
「新しいドレスの話をしにわざわざここへ来るんです。経営学を取っているわけでもないのに」
くるくる巻き毛でメガネの令嬢が憤慨して言った。もう一人の顔が長めな令嬢も言った。
「それにね。中には買いたくても買えない人たちもいる。話題としては最低だと思いますわ」
この二人はいい。本当はドレスが買えるから。だけど、生徒の中には、貧しい没落貴族と言っていいような人たちもいる。
貴族学園の卒業証書があれば、好条件で上流社会に食い込みたい平民の金持ちの娘たちの家庭教師になれる。成績がよければ、王宮に勤めることだって可能だ。貧乏から脱却したい没落貴族の娘たちは、節約を重ねて勉学に励んでいる。私より成績がいい。
「学年が違うのに、わざわざここまで来て、聞こえよがしに言うのです」
学園では、貴族の社交の練習の為、華やかなパーティが催される。私だって、参加できなくて悲しかった。お金がない人は、興味がなくてとか、心にもないことを言いつくろっていかないのだろう。貴族にお金がないは禁句だもの。
「それに、あの人たちの話なんて聞きたくないの。つまらないし。でも、話しかけられたら、聞かないわけにもいかないわ」
そう。所詮、学園内は階級社会。侯爵令嬢はいつだって尊重されるべき存在なのだ。
で、話が飛びすぎたが、ようやくドレスを作りたがる理由が分かった。見せびらかしだ。割と最低な理由だと思う。単に派手好きと言うのもあると思うけど。
私がドレスを発注するたび、待ってましたとばかり、乗っ取っていく。ただ、出来上がったドレスは、私が希望したものとは似ても似つかぬものになっているので、いっそ着ないで済んで本当に良かったとあきらめがつくほどだった。
だが、遂に、義母が私にドレス禁止令をかけた。
「あなたがドレスメーカーをしょっちゅう呼ぶのが良くないのですよ。アンやステラがドレスを作りたがるでしょう」
それは違います。あなたのところのアンとステラと侍女のデイジーが、私のドレスの行先を無理やり変更させるのがいけないのよ。私のドレスはまだ一着もできてない。
侯爵家の支払い能力にも限界があるだろう。
すでにあちこちのドレスメーカーへの支払いが滞っていると聞いている。噂が広がるのは速くて、最近ではトラブルを避けるため、どこのドレスメーカーも私の家に来るのを嫌がるようになっていた。
「お嬢様のドレスなら、前払い出来ると思うのですが」
セバスのためらいがちな言葉を私は強く遮った。
「それこそ敵の思う壺です」
あら。敵って言っちゃったわ。
「そのお金で、大喜びで自分たちのドレスを作るだけで、私のドレスはいつまで経っても仕上がりません!」
ドレスだけはどうにもならなかった。
家の中のことなら、使用人の一致団結があって、何の不自由もなかったが、外部団体のドレスメーカーはどうにもならない。私の身なりはみすぼらしくなる一方だった。
来年のダンスパーティの時が来たらどうなるのかしら。




