第25話 修羅場
「アン様とステラ様が、にこやかに着飾って客間に入ってこられたのですが、お三人さまとも当然、エレクトラ様はどちらに?とお尋ねになられました」
それは聞くと思います。
「奥様が、エレクトラのような者を気になさる必要はございませんわ、なぜならアンとステラがいるのですから! と芝居がかっておっしゃられたのですが、全員不快な顔をされまして、エレクトラ様に会いに来たのだとおっしゃられました」
どうしてこの成り行きで、そんなセリフを吐くのかしら。
「訪問客の方々は、三人とも知り合いではなさそうしたが、一応、落ち着いておられました。そして事情がわかると、帰ると言い出されました」
そりゃそうだろう。私は頭を抱えた。今後、学園でその人たちに会ったらどんな顔をすればいいのだろう。というか、私、その方たちの顔を知らない。どうしたらいいかわからない。
「奥様は引き留めにかかりましたが、怒ったお一人の方に大きな声で抗議されてびっくりなさっていました」
「それは怒るでしょう」
「はい。エレクトラ様宛ての手紙になぜあなたが返事をするのか、エレクトラ様はどこにいるのかと」
「なぜ、私宛ての手紙に返事をしたのか、私も聞きたいわ」
「エレクトラなんかどうでもいいではありませんか。それよりアンやステラの方がずっとお大事です。侯爵家なのですからと言っておられました」
意味がわからない。
「それで?」
「お一人が、エレクトラ様の婚約について確認されていました」
余計な質問を。
「どこぞの貧乏伯爵家の息子と婚約するとかしないとか言ってますが、どうせ見放されるでしょうと言ってました」
「答えになっていないじゃありませんか」
「もちろんです。どなたとどういう話になっているのか突っ込まれると、相手はモートン様だと教えていました」
せっかく人が婚約予定について黙っているのに、なぜ喋る。
「婚約破棄はどう言う理由で? と聞かれて、エレクトラのように勉強ばかりしている娘は殿方に人気がないに決まっている、それよりアンとステラのような花のある娘の方が好まれるので、いずれ嫌われると思う、それに、モートン様は嫡男ではないので貧乏暮らしだから、エレクトラのように掃除もまともにできないような娘では都合が悪かろう、とおっしゃっていました」
義母が社交界から遥か彼方に飛び去っていってしまった。ついでに言うと、今の返事は会話として成立していないと思う。人間界からも離れていった気がする。
「それで三人は帰られたのですか」
「黙って帰っていってくださったら良かったのですが」
うち一人は義母に嫌味を浴びせ、一人はセバスに事情を聞き、一人は取りすがったアンとステラを憎々しげに睨んで手を振り払っていってしまったという。
立派な修羅場だ。いなくて良かった。
「全部、お嬢様が悪い事になっています」
「どうして!」
意外すぎる結論に私は仰天した。
「それしか考えられないと言うのです。エレクトラ様が自分たちを悪く言ったので、彼らはせっかくアン様とステラ様を紹介されたのに、喜ばなかったのだと」
なんですって?




