第16話 父からの手紙・婚約話、前進
この世の中で、これほどまでのお断り案件はないんじゃなかろうか。もちろん断った。
ついでに、この前は説明しなかったこの家の家庭環境も説明した。夫人はがっかりしていた。
「姉妹じゃなかったんですね。似てませんものねえ」
似てたまるか。
「執事のセバスが同じことを提案した時、義母は私と一緒ではアンとステラのレベルが下がるからと断りました」
レイノルズ夫人には、この理屈は理解できなかった。
「レベルが下がるって、誰のレベルが下がると言うんですか? 学年は違うけれど、あなたの成績はトップクラスですよね。アン様とステラ様が言ってました」
私はうなずいた。私にはアーネスティン様の自慢の侍女になる目標がある。
「目標があって、努力すればどうにかなるものですわ」
「努力してもどうにもならないと思いますが」
アンとステラのことだな。
「せめて机の前に一時間黙って座っていて欲しいのですが」
これを聞いて、私は家庭教師のレイノルズ夫人にいたく同情した。レベルが低いとか言うレベルじゃない。
なので、私に話をしに来たアンとステラの担当の先生の名前を教え、惨状を相談しては? と義母にバレたら炎上必至なアドバイスをした。
「今のお話ですと、家庭でも机の前に座るという基本的なことが出来ない。義母は甘やかし放題で成績は絶望的。そのうち面談の時がきます。学園での態度は知られていますから、家庭教師がなっていないからだと義母は言うに決まっています」
いつものことだけど、人のせいにする。
レイノルズ夫人はうめいた。
「先回りして、事情を相談なさってはいかがでしょうか。家庭教師では無理となるかもしれませんし、少なくともあなたが悪者にはならないで済みます。先生にとっても、家庭の状況を知るチャンスなので、喜んで聞いてくれると思いますよ。義母の一方的な話を聞くだけじゃ、いつまで経っても落第の危機から逃れられませんからね。先生は自分の代で、落第生を出したくないでしょうから」
とぼとぼと去っていくレイノルズ夫人の後姿を見送ってから、私は手紙に戻った。
モートン様、賢いと思っていたけど、そんな秀才だったなんて。
『将来を嘱望されるエリート中のエリートだ』
父の手紙は続いていた。
まるでアーネスティン様のような存在ね。きっと将来アーネスティン様は社交界のみならず、王家の一族の中でも中心になって輝くに違いないわ。お家柄といい、人柄、美貌どれをとっても、卓越している。エリート中のエリートって、アーネスティン様の為のような言葉だわ。
『その人物の心を射止めるだなんて、お前は大したものだと思う』
まあ、お父様ったら! そうよね。アーネスティン様に婚家先についてきてとまで言われたのですもの。信用してくださったのだわ。
『婚約を正式に進めたいと先方から申し出があった』
ん? 何の話だ? アーネスティン様の婚約はもう決まっているのに?
『モートン殿は十五歳になられた。三年後には卒業、王宮にて重要なポストを得るだろうことに間違いない。早めに婚約を交わしておいた方がよいと思う』




