第15話 父からの手紙・エリート中のエリート
街カフェデートは、数回催されたが、まるで勉強会のようだった。
だけど、楽しかった。見ているだけでほっこりするのよね、モートン様。一生懸命教えてくれて、かわいいんだもの。
手紙の方も、歴史の話や帳簿のつけ方などが多く、最初はこっそり開けて盗み読みしていたらしいアンとステラの意気を、甚だしく削ぐ結果となった。
一、二回開封した形跡があったが、その後は見る気もなくなったらしい。
彼女たちは、モートン様のことをつまらない男と言い出した。
私にとってはありがたい人物なのだけど。
父からモートン殿とうまくやっているようだなと賞賛の手紙が来た時、私はびっくりした。
うまくやっているなんてつもりはなかったからだ。強いて言えば、うまく利用しているってところかな?
『モートン殿は王立高等学院を最優等で入学された』
「えっ?」
私は、父からの手紙の文言を読んで、思わず声が出てしまうくらいびっくりした。
合格の話が出た時、モートン様は受かったとしか言わなかった。
アンとステラのどちらかが、最優等を取ろうものなら、義母が自慢で自慢で大騒ぎすると思う。祝賀パーティはまず確実に開かれるだろう。
モートン様は、合格しましたの一言で終わっていた。
やるわねー。でも、黙っておこう。婚約予定者を自慢するのはどうかと思う。
しかし、これはモートン様との婚約は財政面では支障がなくなったと言うことかしら?
私は一番最初にあった時、予定が本決まりになったらあなたに婚約を申し込みたいと言うモートン様の言葉を思い出した。
予定は本決まりになったのかしら?
その時、私の部屋を小さくノックする音がした。物思いに沈んでいた私は、びっくりした。
「どなた?」
「家庭教師のレイノルズです。ご相談したいことがありまして」
レイノルズ夫人は、アンとステラに新しくつけられた家庭教師さんだ。
仕方ない。私は父の手紙を中断して、レイノルズ夫人を招き入れた。
家庭教師のレイノルズ夫人は、この家では少数派の侯爵家の雇人である。
伯爵家の使用人たちは、お世話する人数が増えてめんどくさかったのと、義母と義姉たちの性格がイマイチなので、新しく来たレイノルズ夫人と接触したがらなかった。彼女は居心地が悪かったに違いない。
一度、私のところへ、あなたのせいで困ったことになったと訴えにきたことがあった。
つまり、私がアンとステラは落第スレスレですよと告げ口したので、ようやく事態を把握した義母は学園へ赴いた。その結果、家庭教師をつけることを条件に、二人は何とか及第した。そして、義母が探し出したアンとステラの家庭教師がレイノルズ夫人だった。
確かに私のせいではある。
しかし、問題はアンとステラの成績だ。義姉たちは、私が成績自慢をするので、義母が敵愾心を燃やして、必要ない家庭教師を雇ったのだと説明したらしい。
「違います。落第寸前のくせに三回とも追試をすっぽかしたからですわ。絶対に家庭教師が必要だと思います」
「えっ? 聞いていませんわ!」
なんでまた、そう言う最重要項目の説明をしないのだ。
私はレイノルズ夫人に事の顛末をしっかりと説明した。
レイノルズ夫人は中年のほっそりした女性で、どう見ても悪気はなさそうだった。私の説明を聞くと、しおしおと部屋から出て行った。
家庭教師のレイノルズ夫人は、確かに気の毒だった。
辞めたいのだが、家庭教師に逃げられたとあっては家の恥と信じる義母が許してくれない。
アンとステラは絶対に勉強してくれない。
そして本日のお願いは、
「アンとステラと一緒に勉強してもらえないでしょうか? 姉妹のあなたなら、いいお手本になると思うのですが」




