第14話 目的から遠ざかるカフェデート
ちょっと私は驚いた。
「合格発表はいつだったのですか?」
「二週間ほど前でしょうか」
そのあとも手紙はもらったけど、合格の話は何も書いていなかった。
「それはお祝いも申し上げず失礼いたしました。おめでとうございます。大変な難関試験だそうですわね」
急に顔が真顔になって、彼は答えた。
「難しいです。倍率も十倍を超えますし、それなりの人しか受けにきませんから」
これ、すごいことなんじゃないかしら? モートン様はケロッとしてらっしゃるけど。
「王立高等学院で何を勉強なさって、将来何をしたいですか?」
私は素直に聞いてしまった。
「あなたのお父上のように外交に携わりたいです。軍事作戦、地政学、財政学、面白いと思います」
さらりと答えて、にこりと笑う。難しそうな科目ばっかりなんだけど。
モートン様を見ていて思うのは、彼の話を聞いていると十四歳だと言うことを忘れてしまうと言う点だ。
彼はきれいな子どもなのだが、そのことも忘れてしまう。打てば響くような大人の返事が返ってくる。
「自分に出来そうな仕事だと思っています」
自分に出来そうな仕事なのか、それ!
私は、アーネスティン様の侍女を目指している。侍女なら出来そうだから。
私はモートン様の顔を見て、にっこり笑った。レベルはものすごく違うけど、発想は同じかな。
優秀な侍女であればあるほど、婚家先に連れて行く時、アーネスティン様が評価されると思うの。
だから、モートン様の話は真剣に興味がわいた。
「特に外国語はしっかりやらないといけないと思っています」
モートン様の言葉に、私は力強くうなずいた。
アーネスティン様くらいのおうちになれば外国にお出かけになることがあるかもしれない。その際に、アーネスティン様が困らないよう、侍女の私も外国語をマスターしておかねば。
「王立高等学院では、数学などの学問に秀でたものは学者になるコースもあるのですが、私は文官コースを取りましたので、経営学も勉強しようと思います」
「貴族学園にも領地経営の科目はあるのですが、領主になられる男性が取ることが多いですね。私は取っていないのですが、興味はありますわ」
モントローズ家くらいの大きさになると、公爵と公爵夫人の会計は別々に管理されているらしい。私はアーネスティン様に絶対に忠実な侍女になるつもりなので、アーネスティン様がだまされたり損をしたりしないよう、そう言った知識は勉強したい。
モートン様は、まだ入学していないが、兄上がおなじく王立高等学院の卒業だそうで古い教科書を使って勉強を始めていらっしゃるそうだ。
「うらやましいですわ」
モートン様は、年相応にかわいらしく、もぞもぞ動いて嬉しそうだった。
誰しも自分のやっていることに興味を持ってもらえたら、嬉しいよね。私、モートン様の学科の内容にすごく興味があるわ。(ただし軍事系を除く)
「教科書は新しく買わなくてはいけないのです。もしよかったら、古い方はお貸ししましょうか?」
親切な申し出に、私は目を見開いた。
なんてありがたい提案かしら?
「でも、私、読んでもわかるかどうか」
「わからないところがあったら、手紙に書いてください。季節の花の話も風雅でよいと思いますが、学生らしく勉学の話も悪くないと思います。僕にはよい復習になります」
モートン様は熱心におっしゃってくださった。
「まあ、嬉しいわ」
親切だわー、モートン様。私の侍女作戦は完ぺきじゃないの。これで、モートン様から断られても、心配ないわ。




