第13話 モートン様と街カフェデート
安心できるうえに、華やかな逃げ場ができた。
もちろん、そんな密約を義母にする必要はない。
父もどう思うかわからない。モートン様との結婚推進派だから。
とはいえ、モートン様も特に進展はなく、手紙が定期的に来るくらいだった。
まあ、まだ十四歳だしねえ。
モートン様は賢いので、二度と私の家で会おうとは言わなかった。
代わりに、一度、街のカフェで会いませんかと提案してきた。
私はびっくりした。
結婚が決まっている本物の婚約者なら、カフェのデートや観劇に出掛けることもある。
でも、モートン様は婚約者ではない。
こういう場合は、男性が女性側の家に赴き、厳しい侍女などに監視されながら、親睦を深めるくらいが関の山である。
それがいきなり街カフェのデートだなんて、大胆な十四歳だなあ。人に見られたらどうするんだろう。
けれど、アーネスティン様からの提案のおかげで気持ちにゆとりができて、私は少し冷静になれた。絶対に結婚したくない相手でないなら、相手の気を悪くさせない方がいいかもしれない。
私はさらさらと参りますと返事を書いた。何をするにも義母と義姉たちの居ない場所の方がいい。
街のカフェで会ったら人目が気になるんじゃないかですって?
なりませんとも!
弟ですの一言で説明がつくわ! 十四歳、便利!
モートン様にお誘いいただいたカフェは、貴族学園よりだいぶ距離がある王都の反対側だった。いくら、いざとなったら弟だと言ってごまかせるとしても、カフェで貴族学園の生徒と遭遇したくない。それには貴族学園から遠い方が都合がいい。
大体着ていくドレスがないのよ。それも誰にも見られたくない理由の一つだ。
一応、男性と外でデートだなんて、内心ドキドキだった。
でも、モートン様なら大丈夫。だって、子どもですもん。
そう思いながら、カフェなんて初めてだけど、入ってみた。
モートン様は緊張したような顔で待っていた。
「お待たせしてごめんなさい」
私は愛想よく微笑みながら、座った。
カフェで立ち上がるのはおかしかったので彼は座ったままだったが、以前より背が伸びたみたい。顔も少し大人びたかな。お肌がきれいで、まだほっぺと唇が紅い。
一緒にお茶の種類やお菓子を選んだ。モートン様はあまりそう言うことに詳しくないらしく、ほとんど私の好みの品になってしまったけど。
「モートン様は、どんな学科がお好きですか?」
「剣術です」
ええ? 昆虫採集とかじゃないの?
意外な返答に私はスルッと本音を言ってしまった。
「勉強の方が得意なのかと思ってましたわ」
彼はニコッとした。途端にかわいいと思ってしまった。ほんとにきれいな子だわ。
「みんなそう言います。でも、体を動かすのは大好きなんです。同じ年でも、細い方なので不利なんですけどね」
あ、そうなんだ。
「剣術がお好きとは知りませんでした」
だって手紙にはそんなこと一言も書いてこなかったじゃない。
「女性に書くような内容ではないですから」
優しい。私、剣術の話振られたら困ったと思うわ。
「それに剣術は、王立高等学院の試験科目には含まれていませんからね。騎士学校に負けてばかりです」
彼が王立高等学院の話を自分から始めたのは、初めてだった。
私も気になっていたのである。試験はもう終わっているはずだ。合格したのよね?
「気にしてらっしゃいましたか?」
私はおずおずとうなずいた。
不合格だったらかける言葉もないもんね。
彼はうっすら微笑んだ。
「受かりました。ご心配なく」




