第10話 使用人たち、一致団結
「奥様の命令により、あなたは家事手伝いの修行をすることになりました」
「え?」
侍女は実に威厳のある、体格の良い女性だった。
「貧乏平民の嫁になるのです。掃除、洗濯を一通りこなせるようにならなくてはいけません。料理は無理だろうと、料理番が言っていました」
私は洗濯場に連れていかれ、冷たい水で洗濯するように命じられた。
「いやです! そんなこと!」
冗談じゃないわ。どうしてこんなことになるの?
「さあ、こちらへいらっしゃい」
体格のよい義母付きの侍女は、私の腕をつかんで、引きずるようにして洗濯場へ向かった。
「いやよ!」
ただし、救われたのは、この家が私の家だったことだ。
侯爵家から連れてきた義母の侍女以外の人間は、全員、長年伯爵家に仕えてきた者たちばかりだった。親子二代で働いている者もいる。
義母お気に入りの侍女が、洗濯を私にやらせろと命じても、誰も動かなかった。
みんな、冷たい目つきで侍女を見つめていた。
「お嬢様にそんなことをさせろとおっしゃるのですか?」
「奥様の命令です」
「そんなことをしたら、お嬢様の手がアカギレだらけになりますよ」
「これから貧乏人に嫁ぐのですから、一生アカギレだらけの手で暮らすことになります。それより家事を覚えた方が本人の為です」
それからどことなく得意そうに付け加えた。我が意を得たりといった感じだった。
「お嬢様だなんて。そんな呼び名はふさわしくないわ。これからはエレクトラと呼び捨てでいいわ。この家のお嬢様はアン様とステラ様だけです。お前たち、わかったね?」
「なんで、あんたがそんなことを言うんだ。伯爵家が大事に育てた令嬢を!」
洗濯女や掃除婦たちが侍女を取り囲んだ。そのうしろには料理番もいた。
侍女は体格がよかったが、大勢相手にはしり込みした。だが、料理番を見つけると声を掛けた。
「料理番がいてよかったわ。料理番は、エレクトラは無能だから、料理は無理だって言ってたわね。そりゃ料理なんかは無理だって言うのはわかるわ。なかなか高度だからね。だから洗濯や掃除から始めた方がいいって言うのはよくわかる。あんた、ちょっとこの連中に言ってやって。平民に嫁いで何もできなかったら苦労するのは本人よ。家事を覚えろと言うのは奥様のお慈悲なんだよ」
料理番が怖い顔をして反論した。
「無能だなんて、そんな失礼なことは言ってません。料理がダメと言ったのは、厨房でお嬢様に火傷でもされたら困るからです。皿洗いもさせられません。伯爵家の令嬢がすることではありません。そんなことはお断りです」
ずいっと、女中の一人が前へ出た。
「この家のお嬢様を呼び捨てでいいって、誰が言ったんだね? 旦那様に言われるまで信じられない。まさか、あんたの暴走じゃないだろうね?」
別な女中が後ろに控えていた使用人仲間に向かって言った。
「誰かセバス様を呼んできな」
侍女は青くなった。彼女は逃げていってしまった。




