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【第六十五話】目覚め



瞼越しに眩しい光を感じる。

意識が浮上していく中で私はそっと目を開ける。

焦点が定まってきた視界に、ムーア公爵邸の客室の天井が見えた。


(とても長い夢を見ていた気がする)


天井を眺めていると自身の左手が人肌の温もりに包まれている事に気がついた。

身体を起こしながら左側を見れば、寝台脇の椅子に座ったまま眠っているウィリアム様が私の手を握っている。


(そうだ…私は毒矢に倒れて、それで…)

今までの経緯を思い返していると、ウィリアム様の睫毛が微かに震えた。


「ん…」


ウィリアム様の瞼が徐々に開かれ、海のように深い瑠璃色の瞳が朝日に照らし出される。

彼は二度三度と瞬きをしていたが、その瞳が私の姿を捉えた瞬間その目を見開いた。


「リア…?」


震えた掠れ声が私の名前を呼ぶ。


「はい、ウィリアム様」


私がその呼びかけに応えるとウィリアム様は泣き出しそうな顔をしてその表情を歪ませた。

彼は暫く何も言わず私の手を握りしめていたが、やがて泣き笑いのような微笑みで私に笑いかける。


「おかえり、リア」


そう言った彼の頬に一粒の涙が伝う。

曇りのない雫が陽の光に煌めきながら落ちていった。

















ウィリアム様はムーア公爵邸に留まっていたターナー医師へ私が目覚めた事を知らせ、体調に異常なしという診察をしたターナー医師は王都に帰っていった。

それから私は意識を失っている間の話をウィリアム様から聞く運びとなった。


ポピーとライリーがこの屋敷にやってきた事。

フィンレー王太子とシャーロットが反王族派を一網打尽にし、牢屋送りにした事。

ライリーが治療に必要な薬草を調達してきてくれて昨夜その薬を私に飲ませたのに、中々私が目覚めなかった事。




「ポピーとライリーには心配をかけた事を謝らなければなりませんね」


私がそう言うと、ウィリアム様は頷く。


「君の友人だと名乗った彼らはずっと君を心配していたよ。動けるようになったら、元気な顔を見せると良い」


その言葉を最後に2人とも喋らなくなり、部屋には沈黙が訪れた。












私は勘づいていた。

隠していた私の秘密を、ウィリアム様は知ってしまったのだという事。

そして、それをこれから尋ねられるのだろうという事も。









「…僕は君を失ってしまうかと思った」


ぽつり、とウィリアム様が呟く。


「君が眠っている間、色んな事を考えたよ。12歳の時からずっと一緒にいてお互いのことは殆ど知っていると思っていたけど、それは間違いだったみたいだ」


ウィリアム様は私の事を見つめる。

その静かな瞳の奥にえもしれぬ感情がある気がして、私はその瞳を見つめ返した。


「リア。君がどうして女性だという事を隠してまで騎士団に入り、僕の護衛騎士となったのか…僕に聞かせてくれないか」


(遂にこの時が来てしまった)

私は深く息を吸い込むとウィリアム様へ向かい合った。


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